移転価格課税リスクを回避するための方策のうち最も有力な方法は、あらかじめ税務当局間で移転価格算定手法等について確認を求める「事前確認制度」の利用です。近年、「事前確認制度」の利用件数は増加しています。

事前確認制度(APA: Advance Pricing Agreement)の概要
事前確認制度とは、国外関連者との取引価格の算定方法等についてあらかじめ税務当局に対して確認を求めるものであり、課税当局が確認した内容に従って申告を行っている限り、移転価格課税を回避することが可能となります。会社にとっては、予測可能性や法的安定性を確保することができるため、近年、その利用が増加しています。
事前確認制度の種類
事前確認には、①相互協議を伴う事前確認(バイラテラルAPA)と、②日本の課税当局のみによる事前確認(ユニラテラルAPA)があります。
(1)相互協議を伴う事前確認(バイラテラルAPA)
バイラテラルAPAの場合は、独立企業間価格の算定方法等の妥当性について相手国の税務当局と相互協議を行い、相互協議で合意された水準で申告を行っていれば、我が国のみならず、相手国の税務当局からも移転価格課税を受けることはありません。よって移転価格課税リスクを完全に排除できます。そのため、近年ではバイラテラルAPAを求めるケースが増加しています。ただし、相互協議を伴う分、処理時間がかかり、事務手続きも煩雑になるというデメリットもあります。また、租税条約を締結している国との間の取引のみが対象となります。
(2)日本の課税当局のみによる事前確認(ユニラテラルAPA)
ユニラテラルAPAの場合は、我が国の税務当局との間のみでの確認であり、確認された水準で申告する限り、我が国の税務当局から移転価格課税を受けることはありませんが、相手国の税務当局から移転価格課税を受けるリスクは残ります。ただし、国内の審査のみで処理が完了するため、処理時間はバイラテラルAPAより短くなります。
ユニラテラルAPAは、相手国と租税条約を結んでいない場合、相手国で移転価格税制がない場合、制度があっても移転価格課税の実績がない場合などにおいて、利用価値が高いと考えられます。
事前確認の効果
事前確認を受けた国外関連取引については、確認された内容に基づいて申告を行っている場合には、事前確認を受けた国外関連取引は独立企業間価格で行われたものとして取り扱われます。(移転価格事務運営要領6-16)
事前確認の対象期間
事前確認の対象となる事業年度は、原則として3〜5事業年度とされています。(移転価格事務運営要領6-7)
事前確認の流れ
バイラテラルAPAの流れは概ね次のようになります。

国税局では事前確認についての事前相談を行っています(東京国税局では国際情報第二課で事前相談を担当しています)。
事前確認の申し出を行った場合、国税局の審査を受ける必要があります。事前確認の審査では、国税局に審査に必要な資料を提出する必要があり、また国税局の審査担当者が本社や工場、研究所などに臨場してヒアリングをすることもあります。このように事前確認には時間とコストがかかりますので、事前確認の申し出をすべきかどうか迷った場合には、事前相談を行い、そのうえで事前確認を行うべきか、どの取引について事前確認を受けるべきか等を判断するとよいと思われます。
【参考】相互協議を伴う事前確認の平均的な処理期間
事前確認の平均的な処理期間は、1件当たり28.9か月(28年度)です。また、OECD非加盟国との事前確認については、1件当たり平均37.3か月(28年度)と長くなっています。
(出典)国税庁 報道発表資料「平成28事務年度の「相互協議の状況」について」
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