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【“旅する女性タックスアドバイザー” 世界の税金問題】第17回/世界のトレンド「FAT TAX」 ジャンクフードに税金を課すのは効果的?

人気連載第17弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回は、昨今さまざまな国で導入が進む「FAT TAX」を解剖します。

ジャンクフード大好き!

脂っこくて、しょっぱいものって最高ですよね~!

香港には日本のラーメン屋さんがたくさん出店しています!

さて、今回は、さまざまな国で導入が進む「脂肪税」「ジャンクフード税」「砂糖税」について、書きたいと思います。

その呼称は国によって多岐に渡るので、この記事ではまとめて「FAT TAX」と呼ぶこととします。

FAT TAXのルーツ、どんな国が導入しているのか、そして制度の良し悪しは何なのか考えてみましょう。

FAT TAXのルーツ

FAT TAXとは、日本語でいう脂肪税や、ジャンクフード税のこと。読者の皆さんも、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

 

FAT TAXを導入する国々の主な動機は、ヘルスケア関連の政府支出を減らすことです。国民の食生活を健康にすることは肥満や高血圧を予防し、ヘルスケア関連の政府支出を減らすことに有効だと考えられています。

 

不健康な食品に税金を課すことで購買力を低下させ、購買意欲を減退させて、肥満や高血圧の原因の一つと考えられる食生活の改善に繋げようという考え方です。

 

一定以上の脂肪分、塩分や糖分を含む食品や飲料に対して税率をかける方法がメジャーですが、ある地域では特定のフードチェーン(マクドナルドなど)に対して税を賦課するなどの方法もとられています。

 

そんなFAT TAXですが、アイディアの源流を見てみると、その思想は現在と全く異なるものでした。

 

世界で初めてFAT TAXを提唱したといわれているのは、シカゴ大学元教授のアントン・ジュリアス・カールソン博士です。生理学の教授である彼は、1942年にアメリカでFAT TAXを提唱しました。

 

その目的は、戦時下の食糧難を解消するために、太っている人に直接税を課すのはどうかという斬新なものでした。 食べ過ぎていることが原因で一部の人が肥満になっている場合、それは“有害な贅沢”であり、そのせいでほかの人に食料が行き届いていないというのです。

 

既述のとおり、現在各国で導入されているFAT TAXは、政府のヘルスケア予算を減らすことを目的に、不健康な食品に対して税を課すものです。カールソン博士の提唱したFAT TAXとは、目的も方法も異なっています。仮に今“肥満の人に税を課す”なんて提唱したら、議論を呼びそうですね。

どんな国が導入しているのか?

FAT TAXは、さまざまな国と地域で導入されています。

これはメキシコのグアナファト州を旅した時に撮ったもの。日本のお菓子とは次元の違う甘さでした

◆デンマーク
2011年10月から15ヵ月間、飽和脂肪酸含有量が2.3%以上の食品に対してFAT TAXを課していました。
しかし、高脂肪な食品を隣国で買ってくる人が続出だったのだそう!
しかも健康増進効果があったのかどうか、15ヵ月間だけだとうまく計れないですよね・・・。

◆インド、ケララ州
インドの中で初めて肥満対策としてFAT TAXを導入した州です。
しかし、対象となるのはいわゆる外資系ファーストフードの食品ばかり。ローカルのレストランを守るための政策なのでは・・・?ともいわれてしまっています。

そのほかハンガリー、フランス、イギリス、ポルトガルなどのヨーロッパ諸国で、さまざまな形でFAT TAXが導入されています。

肥満率が低いアジアの国々でも導入が開始されていて、2017年にはタイが、2018年にはフィリピンが飲料水を対象にFAT TAXを導入しました。

筆者が住む香港においても、FAT TAXを導入すると良いことがあるのかという調査を政府が行ったことがありました。香港の場合は少子高齢化対策の一環で、税源を拡大する必要があるという背景から始まった研究調査です。したがって、肥満が問題になっているわけではありません。

FAT TAXの賛否両論

8年前、ハワイでハワイアンバーガーを食べて、唯一健康的な具であるパイナップルを残している写真です(笑)

FAT TAXを導入すると良くなる! といわれているのは、以下の点です。

◆社会的費用の負担
不健康なものを摂取した結果、国のヘルスケア費用を増大させてしまっている場合、その社会的費用を当事者に負担させる・・・ということです。

◆健康的な食品を購入するインセンティブになる
不健康な食品が相対的に割高になるから、健康的な食品を購入する人が増えるという理由です。

◆歳入が増える
税収が増える分、政府がその予算を健康増進のための費用や、ほかの税目の減税に使えるから良い! という意見です。

◆ニュートラルにできる
FAT TAXは、低所得者層に負担が増してしまう“逆進的”な税だ、という指摘があります。しかし、1つ上でお伝えした“歳入が増える”という特徴を生かして、増えた分の歳入で、低所得者層への負担を減らす政策を導入できるのではという意見です。

◆成功した前例がある
たとえば、たばこ税は、たばこの購入価格をぐっと引き上げてきました。これは喫煙者を減らすことに成功した・・・から不健康な食品についても同じことが予測できる、という意見です。

FAT TAXを導入すると良くない! といわれているのは、以下の点です。

◆どの食品を対象にするのかの決定が難しい
究極のことを言ってしまえば、どの食材だって食べ過ぎたら太ります。

◆肥満の原因を食品だと決めつけるのはあまりにも単純だ
肥満の原因は遺伝だったり、病気だったり、生活習慣だったり、食生活以外の要素が原因だったり、いくつかの要素が合わさった結果だったりします。食材だけに税を課しても、政府の目指すヘルスケア関連予算の減少に直接繋がるかは不透明だという意見です。

◆事務コスト
対象食品を決めて、税を課すよう法律を作って、申告させて、チェックして・・・という事務コストが大変だという意見です。

◆逆進的
低所得な世帯ほど、不健康な食品を購入していると言われています。カップラーメンや、ドーナツ、ファーストフードなどは購入価格が安いためです。不健康な食品に税を課すのは、低所得者世帯の家計をまさに狙い撃ちするようなものだという意見が多くあります。

◆肥満対策予算を高く見積もりすぎ
政府のヘルスケアコストのうち、肥満や高血圧に伴い生じる政府コストを高く見積もりすぎだという意見です。肥満や高血圧の人は寿命が短い傾向にあるので、ヘルスケアや年金コストはトータルでそこまでかからないのでは? というもの。

◆子守国家
つまりは、おせっかいだという意見です。政府が過保護な政策をとる必要はないというもの。“Nanny State”と言われるものです。

また、オーストラリアで2017年に発表された論文によると、飽和脂肪酸を含む食材にFAT TAXを課すシナリオでは、食塩含有率の高い食材へ購入層が流れていくので結果健康に繋がらないという意見も出ています。
(参照:Linda J. Cobiac, Taxes and Subsidies for Improving Diet and Population Health in Australia: A Cost-Effectiveness Modelling Study)

さまざまな意見のあるFAT TAX。皆さんはどう思いますか?

今回の結論:税を課すのではなく、健康的な食材には消費税を課さないという逆の矢印はどうでしょうか?

著者: ワタナベマリア

旅するタックスアドバイザー

香港在住の税制コンサルタント。過去に東京、ニューヨーク、香港にて国際税務アドバイザーの仕事を行う。世界中を旅する会社人に各国の税制のアドバイスを行う中で、制度比較から見えてくる税金のおもしろさを広めようと執筆を始める。現在は香港大学大学院で国際法及び租税法の研究中。慶應義塾大学法学部卒。

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