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IPOかM&Aか スタートアップ企業は出口戦略が重要

スタートアップ企業の出口戦略としてのM&A(合併・買収)などを紹介するセミナーを4月17日、日本政策金融公庫とM&A仲介サービスのストライク(東京・千代田区、代表取締役社長=荒井邦彦)が開催した。起業時から出口戦略を考えておく経営者は少ないが、実は事業の進め方に大きく影響してくるため重要なこと。日本ではIPOがクローズアップされがちだが、欧米では成長企業が出口戦略としてM&Aを活用することが普及している。

当日は、第一部でストライクの荒井社長が、スタートアップ企業の出口戦略についての考え方を説明。同社長は、「現在の日本ではIPOが起業家の大きな目標になっているが、成長段階で自社を売却し、その資金で新たな事業を始めることも一つの選択肢だ」と、事例を交えながら紹介した。また、大手企業のグループに入り、潤沢な資金を背景に事業を拡大してくケースも少なくないと語った。
筆者も欧米のスタートアップ企業を見てきたが、多くが強みを持った複数の起業家が集い、それぞれの専門性・得意分野を生かし、短期間に事業を軌道に乗せ、売却していく。一つのプロジェクトを成功させたら、その後の経営は売却先の大手企業などに委ねてしまうのだ。起業家はM&Aで得た資金を元手に、さらに違うビジネスを開始する。こうした繰り返しが、起業文化に多様性をもたらし、起業家を育てるベースになっていると常々感じていた。
荒井社長はさらに、スタートアップ企業がさらに成長するためにM&Aを活用している事例も紹介。これに関連して、事業買収についての考え方も語った。買収を考えている企業は、売却を考えている企業の10倍以上あり、その中から選ばれるのは容易ではない。「スタートアップ企業がM&Aで購入できる企業規模は、自社の売り上げの半分程度が上限のことが多い。その上、買収条件を細かく設定してしまうと、買収するチャンスのある案件はかなり少なくなってしまう」と指摘した。
このため、資金的にも余裕がなく、知名度の低いスタートアップ企業は譲渡先として選ばれづらい。とくに、順調に成長している企業はどこの企業も買いたいと思っており、競争率が高い。そうした現実を踏まえて仲介業者に依頼する必要があるとアドバイスした。
第2部では、スタートアップ企業に特化した投資会社「ソラシードスタートアップスタジオ」代表の柴田泰成氏が登壇。参加者からの質問に答える形で進められた。
柴田社長は、自身でもいくつもの事業を立ち上げ、売却してきた、「0から1」を作る経営者として知られている。現在も、数十社を並行して運営しながら、出口戦略としては大手企業などに売却する、経営を第三者に委ねる、など多様な方法を駆使している。
参加者から売却時に優先するべきポイントについて聞かれると、「3年先、5年先の経営計画はスタートアップ事業にとってあまり意味がない。半年後に会社がどうなっているかわからない状況では、KPI(主要業績評価指標)と目標値の設定が適切かが重要だ」とした。また、「どのように事業で収益を上げるか、ビジネスモデルを投資家がイメージできるかが、M&Aのポイントになる」とした。
営業方法に関して聞かれると、「KPIを設定し、目標を達成していくことが営業活動につながる」とした。

「会場の起業家らの質問に答えるソラシードスタートアップスタジオ代表の柴田氏」

なお、第三部では日本政策金融公庫から創業者融資などの説明が行われた。

「日本政策金融公庫からスタートアップ企業向け融資制度を紹介」

今回のスタートアップセミナーは、日本でまだ浸透していない、スタートアップ企業の出口戦略の考え方、手法、そのメリットやデメリットなどを聞く機会となった。
質問会での柴田社長の話も、事業を短期間に収益化する方法など、企業家にとって具体的で実践的なものが中心だった。筆者も欧米のスタートアップ経営者と意見交換を行う度に思うことは、日本のスタートアップと企業の考え方と出口戦略が大きく違うこと。こうしたスタートアップ向けの事例セミナーがもっと増えることで、欧米に差がつけられている“起業文化”も、少しはその差がなくなってくるのではないかと感じた。

著者: 宮口貴志

KaikeiZine編集長

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は一般社団法人租税調査研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャー、TAXジャーナリストとして活動。㈱ZEIKENメディアプラス代表取締役社長。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
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