医師の間では、“名誉” “地位”を求めるなら大学教授、お金を稼ぎたいなら美容外科と言われているほど、美容外科は儲かるという。ほとんどが自由診療であり、勤務医であっても年収が2千万円を越えてくるという。こうした、儲かっている美容外科には税務調査の眼も光っている。

2017年1月から12月にかけて、日本美容外科学会(JSAPS)では、日本美容外科学会(JSAS)、日本美容皮膚科学会(JSAD)の協力を得て、国内の美容医療実態調査を行ったが、全美容施術数の合計は160万3318件で、そのうち外科的手術が27万8507件あったとしている。外科的手術の内訳は、顔面・頭部が21万7163件、乳房が1万4523件、四肢が4万6821件だった。一方、非外科的施術162万5391件で、その内訳は、注入剤(乳房を除く)が71万368件、顔面若返り関連が41万8790件、脱毛や再生医療などが49万6233件であったとしている。
これら美容手術は、ほぼ保険が適用されない「自由診療」で、治療の金額を医者自身が決められる。そのため、他の診療科目の病院やクリニックよりも稼ぎがよいといわれている。
ちなみに、医療業界全体の市場規模は約40兆円となっており、建設業界の約16兆円、コンビニ産業の7兆円と比べても、医療分野はかなり大きな産業だ。
こうした儲かっている病院は適正に納税されているか、税務調査の眼も光っているわけだが、美容外科の税務調査は業種特有のノウハウがある。
広告宣伝費が売上げに直結
国税OB税理士によれば、「美容外科は他の病院と違い広告宣伝活動を積極的に行う。主に、雑誌、新聞の折り込みチラシ、TVコマーシャルなど、多種の広告宣伝を行っている」としている。美容外科を経営する医師は、「広告費に比例して売上げが伸びていくため、広告宣伝は営業の必須行為だ」と指摘する。
そのため課税当局は、日頃からこれらの広告に関する情報収集に余念がないのだ。
また、美容外科はホームページ(HP)を開設していることが多いため、HPのチェックも怠らない。HPからは、「予約、手術後のアフターケア及び手術の方法、治療期間、料金、支払方法等の情報が集められる」(前出の国税OB税理士)と言う。
調査官が実地調査で確認するポイントは、美容外科の同業者間の広告費の比較。広告費の額に比例して売上げ規模が似ているため、売上げなどを比較しながら過大・便乗広告費などについて検討するらしい。
また、美容外科を経営していくにあたって一番の経費は、勤務医や看護師などの人件費率のため、課税当局は人件費についても細かくチェックしていく。人件費は広告宣伝費とともに経費に占める割合が高く、不正計算の多い科目と言われる。妻が事務長や経理責任者を担当しているケースもあり、給与や経費の使い道などについても特に注意してみているようだ。
実地調査に当たり調査官がとくに確認したがるのが「診療室」「院長室」「事務室」。これらの確認理由は、営業活動におけるモノ、カネ、ヒトの流れ掴むのに不可欠だからだ。原始記録等が作成される場所であり、これらの原始記録等を把握することが不正発見の鍵を握る。
このほか、「理事長」「院長」の自宅も調査対象となる。注意しておくべき点は、建物や内部の調度品についても調べていること。「絵画」や「骨董品」等からは、給与額が相対的に合致しているか、この辺りをしっかり見ていけば、想像が付くからだ。
税務署は治療費についても細かく把握
美容外科の料金についても、調査官は入念に調べる。 なぜなら、美容外科は、治療医学の分野ではないため保険診療は受けられない。通常の出産や人間ドックなどと同様、すべて自由診療料金であるため、料金体系は病院によりさまざまなのだ。
調査官が手術料金を把握するに当たっては、以下をベースに確認していく。
目(まぶた)であれば、「二重まぶた(部分切開法)」「二重まぶた(全切開法)」「埋没法から部分切開法までの再手術」「目頭切開と部分切開法」「目頭切開と全切開法」などが挙げられる。鼻であれば、「隆鼻」「「小鼻」「広鼻」「かぎ鼻」の修正。くちびるであれば、「厚い唇(上・下)」「厚い唇(片側のみ)」といった具合だ。
あごであれば、「あごを出す(インプラント)」「あごを削る」「エラを削る」。しわとりならば、「目尻~ほほ」「ほほ~あご」「ほほ~首」「あごの下(首のしわ)」「上まぶたのたるみとり」「下まぶたのたるみとり」「ヒアルロン酸(豊麗線・額・眉間)液体シリコン注入」など。
このほか、乳房なら「豊胸手術」「バストアップ」「陥没乳頭」「乳頭肥大」。皮膚なら「ほくろ・あざ」「わきが(腋臭症)」「にきび痕」「傷の痕」「赤ら顔」「刺青をとる」といった具合だ。
その他、「脂肪吸引」「脂肪切除法」「レーザー脱毛」などがあり、「レーザー脱毛」については、放射部位で料金が違うため、1回治療ごとの費用を把握している。具体的には、両脇の下、ビキニライン、両ひざ下(前面)、両ひざ下(全周)、両ひざ、両太腿(前面)、両太腿(全周)、両前腕(手首~肘)、両上腕(ひじ~肩)だ。
税務調査官は、こんなに細かな情報を事前に入手して、実地調査を行う。調査になったら、そうした当局側の情報もしっかり把握しながら、対応できるようにしておく必要があるのだ。