職業会計人の実務研修及びビジネス研究などを目的としたビジネス会計人クラブ(会長=平川茂税理士)は5月24日、東京・千代田区のエッサム神田ホール2号館で、税務調査部会を開催した。今回のテーマは「簡易な移転価格調査」で、国税OBで一般社団法人租税調査研究会主任研究員の中山正幸税理士が簡易な移転価格調査の基礎から狙われるポイントを解説した。

この数年、税務署所管法人である中小企業の海外取引における税務調査が増えている。平成20事務年度は、3952件だったものが同27事務年度は1万3044件、直近の同29事務年度には1万6486件まで増えた。
海外取引における税務調査には、移転価格も入るのだが、従来は大企業中心の調査だったが、移転価格課税のリスクを回避するために大企業の多くが事前確認制度を積極的に利用、最近は大型事案減少が減少し、税務署所管法人の中小企業対象の移転価格調査が増加傾向にある。
国税局の調査部所管法人の大企業ならば、数年かけて実施する移転価格調査だが、税務署所管法人になれば、そんなに時間をかけるのは無理だ。そこで、中小企業向けには実地調査2~3日で取り組める簡易版の移転価格調査、いわゆる「簡易な移転価格調査」を積極的に実施している。

中山税理士が、この「簡易な移転価格調査」の状況とその内容今回の部会では、中山税理士が、この「簡易な移転価格調査」の状況とその内容を説明、「今後はさらに税務署所管法人の移転価格調査が増えることが確実」と指摘した。
そのためにも、会計事務所でも「簡易な移転価格調査」に対応できるだけの知識とノウハウを構築しておく必要があるとし、そのポイントを解説した。

「簡易な移転価格調査」の中心として中山税理士は、「海外子会社へ技術支援等を行った場合の対価の回収の適否や、海外子会社へ資金提供した場合の貸付金利の適否など調査内容はほぼ決まっている」と指摘。そして、実際に多いケースとしては、海外子会社に出張支援したにもかかわらず、対価を全く取っていなかったり、子会社に対する貸付金利が適正金利よりも低かったといったケースが多いとした。また、対価の回収漏れがあった場合に、海外子会社に経済的利益を供与したものとみなして『国外関連者に対する寄附金』として早期に課税処理されるケースが多いのも特徴と紹介した。

「簡易な移転価格調査」は、基本的には課税当局も日数などの制約があるため、調査のバリエーションはそれほど多くない。つまり、知識習得だけでもある一定レベルまで調査対応スキルあげられる可能性がある。ただ、経験豊富な専門家は、課税当局出身者が中心で、学ぶ機会が極端に少ないのが現状だ。そこで、経験値の低い段階では、専門家の税理士の協力を得ながら税務調査に対応していくのも一つの手と言える。

最近、知人の経営者から聞いた話だが、税務調査において日本法人が海外子会社に必要資金を貸し付けていたことから、海外子会社から収受する金利の利率について指摘を受けたらしい。調査官の指摘は、子会社から収受する金利が独立企業間価格に満たないため、「移転価格課税または寄附金課税」になるとのこと。「寄附金扱いになると経費計上できないため、顧問税理士が事前にこの部分を指摘しておいてくれたら問題なかったのに」と顧問税理士に対する不満を語っていた。

移転価格調査は、通常の海外取引の調査とは異なる切り口で展開されるため、提出を求められる書類なども通常の法人税調査とは違ったものが多い。部会では、こうした基礎的な話から中山税理士は講義し、確認しておくべきポイントを紹介した。そして調査立ち合いは税理士業務の重要な業務だけに、「移転価格調査に備えてどのような書類を準備したらよいのか、当局からの指摘に対してどのように反論したらよいのかなど抑えてほしい」と話をした。