企業の会計不祥事が相次いだことによる監査法人業界の激震はいまだ収まらず、2017年度にはとうとう業務収入でトーマツが新日本を抜きトップに立った。BIG4と呼ばれる「新日本有限責任監査法人」「有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)」「有限責任あずさ監査法人(以下あずさ)」「PwCあらた有限責任監査法人(以下PwCあらた)」の業績から業界地図を見ていこう。

1.新日本が首位陥落へ

2017年度の業界地図に大きな変化が訪れました。みすずが解散した2007年以降業務収入首位を守ってきた新日本がその座を明け渡し、トーマツがトップに躍り出たのです。2015年に発生した東芝問題で業界のトップランナーだった新日本が大きく信頼を損ね、トーマツとの差がほとんどなくなっていく中、2017年度にとうとう逆転となりました。さらに、あずさも新日本に肉薄してきており、来年度は更なる逆転劇が繰り広げられる可能性があります。

監査証明業務では新日本首位、非監査業務に強いトーマツの傾向変わらず

監査証明業務収入は未だ新日本がトップを走っています。2番目につけているのはあずさです。
非監査証明業務収入はトーマツが他を圧倒しました。また、業務収入はトーマツの半分以下であるPwCあらたが非監査証明業務収入に限りトーマツの70%程度と、PwCあらたの強さが際立っています。新日本は非監査証明業務収入において最下位と、その地盤沈下が特に顕著です。

営業利益では首位に新日本が輝く

営業利益では新日本が断トツの首位となりました。パートナーへ退職勧奨を行うなど人件費の抑制が最終的な営業利益増につながったとみられます。当期純利益についてあずさが抜きんでているのは、その他営業外収益の計上額が大きかったため。貸倒引当金を当期戻入れたための一時的なものです。

2.法人別過去3期の業績推移

①トーマツ:とうとう業界トップへ

※決算月を変更したため、前期は2016年10月1日から2017年5月31日の8カ月

前期に決算月を変更したため単純比較はできませんが、順調に収入を伸ばし続けてきたといえるトーマツ。一方で、当期の営業利益と当期純利益は大きく落ち込んでいます。これは、公認会計士の新規雇用の拡大と研修費など人件費が増大したため(『日本経済新聞』2018/9/26電子版)、またAI導入への先行投資のため(『日本経済新聞』2018/8/20電子版)などと報道されています。

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②新日本:首位の座を明け渡し特に非監査証明業務が激減

業務収入1千億円の壁を割り込んだ新日本。特に非監査証明業務の落ち込みは著しいものがあります。非監査業務をグループ会社に移管したため減収となった前期と比べても、当期の減収幅は激しく、これが全体の減収につながっています。監査証明業務収入は増加でしたが、全体の減収を補うことはできませんでした。
営業利益額は4大監査法人の中でトップなものの、AI技術に関する設備投資費用が増大するなど営業利益率は低下しています。
また、2018年度からは、社名をメンバーファームであるアーンスト・アンド・ヤングを冠した「EY新日本」へ変更。世界経済における日本の占めるインパクトが弱まっていることを背景に、今後EY日本地域とアジア太平洋地域が一つに統括されることも決まっており、長年培ってきた「新日本」というブランドがどこまで維持できるかが注目です。

③あずさ:3期連続増収で新日本に肉薄

これまで積極的にクライアントを奪取してきたあずさ。しかし、増えすぎた業務を理由に2017年8月から1年間、新規顧客獲得を一時ストップすると発表(2018年8月より再開)。そのような状況下においてもなお監査証明業務の伸びが顕著です。一方、非監査証明業務は業務拡大をセーブしたためか当期は前期から10%以上の減となりました。

なお業務収入については前期を上回りましたが、当初の計画は未達とされています(『日本経済新聞』2018/11/22電子版)。

あずさは「来期の具体的な数値目標を掲げた事業計画は立てていない」としており(『日本経済新聞』2018/9/15朝刊)、来期以降のあずさの動向は不透明です。

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④PwCあらた:順調な増収を果たすも営業利益激減

4大監査法人の中ではもっとも規模が小さいながら非監査証明業務に強く、業務収入の半分近くを占めるPwCあらた。監査証明業務収入の増加に伴い業務収入に占める比率は低下してきています。極端に低い営業利益は、「長時間労働の是正のため人員採用を増やした。採用活動や研修などの先行費用がかさんだ結果」と報道されています(『日本経済新聞』2018/9/26電子版)。

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○今後監査報酬は増加傾向か

2018年7月に監査基準が改定され、「監査上の主要な検討事項」の記載が2021年3月決算から求められるようになります。監査基準の透明性向上を狙いとしたもので、今後監査への信頼性が高まり監査報酬アップへつながることが期待されています。

 

○BIG4の寡占は続くか

2018年7月、監査証明業務収入業界5位の太陽監査法人と9位の優成監査法人が合併(合併後の名称は太陽監査法人)し、積極的にBIG4を追う姿勢を見せています。

太陽監査法人の業務収入は2016年度には62億4113万円、合併直前の2017年度は69億5987万円と年間10%以上の成長を見せており、さらには「会計士の数は合併時に約500人になる。5年後をめどに800人規模に増やしたい」(『日本経済新聞』2017/10/5電子版)と、準大手として今後も業務拡大していくようです。

BIG4による寡占や、監査証明業務と非監査証明業務を同時に提供することの利益相反、監査法人をルーティン制にすることで透明度を高めるべきといった議論など、課題点を数多く挙げられている監査法人業界。イギリスではBIG4の寡占が監査の質を下げていると、是正勧告がなされるなど、世界の流れもあります。来期も大きな変化が起きそうです。

(関連記事)2017年版 4大監査法人の業界地図 クライアントから分析
(関連記事)2017年版 4大監査法人の業界地図 人材から分析

※参考資料

◆有限責任監査法人トーマツ:第51期 業務及び財産の状況に関する説明書類https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/audit/jp-audit-stakeholder2018.pdf

◆EY新日本有限責任監査法人:第19期 業務及び財産の状況に関する説明書類http://tms.jicpa.or.jp/offios/pub/doc/200704000010/200704000010_setumei.pdf?logitems=200704000010,4

◆有限責任あずさ監査法人:第34期 業務及び財産の状況に関する説明書類https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-public-inspection-34.pdf

◆PwCあらた有限責任監査法人:第13期 業務及び財産の状況に関する説明書類
https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/assurance/assets/pdf/public-inspection.pdf

◆太陽有限責任監査法人:第48期 業務及び財産の状況に関する説明書類http://tms.jicpa.or.jp/offios/pub/doc/200704000092/200704000092_setumei.pdf

◆日本公認会計士協会:2019年版 上場企業 監査人・監査報酬 実態調査報告書

https://jicpa.or.jp/news/information/2019/20190527dfs

◆日本経済新聞電子版 2017/10/5「質を競う監査法人の再編に」https://www.nikkei.com/article/DGXKZO21961550V01C17A0EA1000/

◆日本経済新聞電子版 2018/8/20「トーマツの前期、営業益10億円 人件費増で実質減益」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34341740Q8A820C1DTA000/

◆日本経済新聞電子版 2018/9/26「トーマツが業務収入首位 4大監査法人の前期決算」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35772570W8A920C1DTA000/

◆日本経済新聞電子版 2018/11/22「4大監査法人、18年度採用2%増どまり」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38050500R21C18A1DTA000/