業務収入とクライアント数は必ずしも一致せず、業務収入で1位となったトーマツはクライアント数では2位だった。これはクライアントあたりの単価の違いが影響する。BIG4の2017年度の活動について、クライアント面から分析してみよう。

1.2017年度 法人別クライアント数

〇クライアント数では首位をキープした新日本
当期もクライアント数、監査クライアント数のトップは新日本となりました。非監査クライアント数では2016年度1位だった新日本を抜き、トーマツが1位を奪取しました。
トーマツに特徴的なのは、金商法・会社法で監査を受けるよう定められた大会社の顧客数がBIG4でトップなことです。大会社の方が報酬が高くなるため、クライアント数で2位ながら業務収入でトップに立つことができたとみることができるでしょう。
監査法人として1社独自路線を行くPwCあらたは、監査クライアント数よりも非監査クライアント数の方が多くなっています。
2.2017年度 法人別売上単価

〇非監査証明収入単価が高いPwCあらたが単価でリード
クライアントあたりの単価を比べてみると、PwCあらたが約2000万円とトップになります。これは、監査証明収入の単価は4法人ともあまり差がつかず、非監査証明収入の単価で他法人の2~3倍と大きく差をつけているためです。監査証明業務はある程度定型ですが、非監査証明業務は多彩なメニューを提供することができるため、報酬額に差が付きます。また、PwCあらたには、トヨタやソニーなど多額な報酬を支払う国際的大企業が多く顧客にいることも大きな要因とみられます。
一方、新日本はクライアント数が多いながら、特に非監査証明業務の単価が低いために業務収入に結びつかなかったことがわかります。
3. 法人別クライアント数の3期比較
①トーマツ:2期連続でクライアント数を減らす
増収となりましたが、ここ2期わずかながらクライアント数を減らし続けているトーマツ。
これは中堅以下の企業が離れたのが大きいようで、「『報酬引き上げについていけなかった』(製造業)」という報道もされています(『日本経済新聞』2019/1/9電子版)。クライアント数を減らしながら、クライアント1件あたりの単価が上がったことが今回の増益につながったようです。
事実、「2019年版 上場企業 監査人・監査報酬 実態調査報告書」(日本公認会計士協会)によれば、「2017 年度の監査証明業務に基づく報酬は、2016 年度と比べて、平均(中央値)で 3.04 百万円(0.50 百万円)増加している」とされています。
大企業のクライアントは増えており、ニトリホールディングス、古河電気工業、秋田銀行、イマジカ・ロボット ホールディングスそしてファーストリテイリングを当期獲得しました。逆に交代となったのは、ダイセキ、東建コーポレーション、フタバ産業などです。
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②新日本:クライアント離れが止まらない

ここ数年クライアント離れが止まらない新日本。特に非監査クライアントで顕著です。一方監査クライアントについては6社減の微減にとどまりました。当期あらたに獲得したクライアントとして、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスが挙げられます。
他方、ファーストリテイリング、日本ペイントホールディングス、協和発酵キリン、ニトリホールディングス、古河電気工業、北越銀行、秋田銀行などがクライアントを離れました。
③あずさ:経営方針で非監査クライアントを大きく減らす

あずさは2017年8月に「新規案件の受注を1年間停止する」旨を発表しました(『日本経済新聞』2017/10/28電子版)。これまで積極的に他社のクライアントを奪取してきた中の突然の方向転換。これは、現状の残業、休日出勤が当たり前の「ブラック企業」的な働き方を見直すためだという報道がなされています。
それらの方針転換を受けてか、非監査クライアント数が200社近く減少して全体としてクライアント数は減少となりました。ただそのような中、日本ペイントホールディングス、協和発酵キリン、ダイセキ、北越銀行などのクライアントを増やしています。一方、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスなどを減らしました。
④PwCあらた:非監査クライアント数増で増益を果たす

監査クライアント数は微減となったものの、非監査クライアント数を大きく増やして全体としてクライアント数増となった当期。ここ2期は順調にクライアント数を増やしてきています。2016年度に獲得した東芝を巡り、2017年度に「意見不表明」を出したことで公認会計士協会の調査の対象となっていましたが、今年度監査手続きに問題はなかったとし不問とされています。この件で市場の信頼を損なうようなことはなかったようです。
〇監査法人交代時に理由を開示する方向へ
2017年度時点では監査法人の変更に際しては「任期満了のため」などとされ、実際には報酬面での折り合いがつかないことが原因でもそれが表にされることはありませんでした。しかし2019年1月に、株主へ情報公開を進める意味で、監査法人交代の際に理由を説明するよう、政府が報告書をまとめました(「会計監査に関する情報提供の充実について ― 通常とは異なる監査意見等に係る対応を中心として ―」金融庁)。報告書では、「交代理由が記載されていない」ことが株主への情報公開不足であることが指摘され、これを受け公開する企業も出ています。
〇クライアントを抱えきれないBIG4
監査法人がクライアントを抱えきれないという問題も起きています。
ベンチャー企業はIPOのためには監査法人との契約が義務付けられていますが、監査法人がこれ以上顧客を増やせないためにIPOできないなどといった「IPO難民」問題も表面化。
そのような中、BIG4以外に目を向けると、2018年7月に業界5位の太陽と9位の優成が合併し、監査クライアント数に限っていえば922社となってPwCあらたの監査クライアント数1116に肉薄してきています。
監査法人を交代した上場企業のうち、BIG4から中堅監査法人への監査法人変更した企業がBIG4からBIG4へ交代した監査法人より多かったなど、中堅監査法人への変更が目立っています(「2019年版 上場企業 監査人・監査報酬 実態調査報告書」図表11-2)。
クライアント数だけでいえば、今後業界地図に大きな変化が訪れる可能性もあります。
(関連記事)2017年版 4大監査法人の業界地図 業績から分析
(関連記事)2017年版 4大監査法人の業界地図 人材から分析
※参考資料
◆EY新日本有限責任監査法人:第19期 業務及び財産の状況に関する説明書類http://tms.jicpa.or.jp/offios/pub/doc/200704000010/200704000010_setumei.pdf?logitems=200704000010,4
◆有限責任監査法人トーマツ:第51期 業務及び財産の状況に関する説明書類https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/audit/jp-audit-stakeholder2018.pdf
◆有限責任あずさ監査法人:第34期 業務及び財産の状況に関する説明書類https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/jp/pdf/jp-public-inspection-34.pdf
◆PwCあらた有限責任監査法人:第13期 業務及び財産の状況に関する説明書類
https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/assurance/assets/pdf/public-inspection.pdf
◆帝国データバンク:上場企業の監査法人異動調査 (2018年1月~10月)https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p181109.html
◆
日本公認会計士協会:2019年版 上場企業 監査人・監査報酬 実態調査報告
https://jicpa.or.jp/news/information/2019/20190527dfs.html
◆日本経済新聞web版 2018/10/28「会計士が足りない 監査法人、質向上へもがく」https://www.nikkei.com/article/DGXKZO22771740X21C17A0EA2000/
◆金融庁:会計監査に関する情報提供の充実について ― 通常とは異なる監査意見等に係る対応を中心として ―https://www.fsa.go.jp/singi/jyouhouteikyou/siryou/20190122/01.pdf