海外子会社に対して無利息貸付又は低利貸付が行われた場合、法人税基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)の適用の有無が争点となることがあります。今回紹介する事例では、海外子会社への低利貸付について基本通達9-4-2を適用できるだけの相当な理由がないと判断されました(平成24年8月1日、非公開裁決)。

法人税基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)とは

法人税基本通達9-4-2は、法人がその子会社等に対して無利息貸付け等をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもの合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとしています。

事実関係

X社は、事務機器、産業機器等の製造販売を行う内国法人であり、国内外に多くの関連会社を有している。

X社は、海外子会社A社に対し、元本2,000,000ユーロの貸付を行い、利息を収受していたが、国税当局は、X社がA社から収受している利息は独立企業間価格に満たないとして、スワップレートをもとに算定した独立企業間価格との差額を所得移転額として課税した。

これに対しX社は、当該低利貸付は、基本通達9-4-2の子会社等を再建する場合の無利息貸付け等に該当すると主張し、処分の取り消しを求めて審査請求した事案である。

X社の主張

X社は、海外子会社A社への低利貸付について、以下の通り主張しました。

① A社は、平成16年3月期、平成17年3月期と損失を計上し、平成14年3月期にも損失を計上しており、金銭貸付けを行った平成16年9月には資金繰りが付かず、支払ができない状況にあり、倒産の危険性が十分にあった。平成17年3月期は、資本金及び剰余金合計が資本金以下となっており、倒産の危機にあった。

② 当社は、全ての業務においてスピードを重視しており、金銭貸付けにおいてもA社と日本の責任者同士が打ち合わせて契約書のとおり決定したもので、再建計画は作成していないが、A社をこのまま放置すれば信用を失い、大きな損失を受けることは明らかであって、倒産防止のため低利による金銭貸付けが必要であった。

審判所の判断

① X社は、本件貸付契約を実行するに際し、そもそもA社に対する再建計画書等を作成しておらず、当時のA社の財務内容、経営状況、将来の損益の予測等を踏まえた当該利率による貸付けの必要性及び必要とされる貸付額並びに本件貸付契約を実行することによるA社の財務内容及び経営内容の改善の見通し等について具体的な検討がされた様子もうかがわれない。

② A社は、平成14年3月期に当期純損失を計上したもの、平成15年3月期には前記の当期損失の額を上回る額の当期純利益を計上しており、その後2期にわたり当期純損失を計上したからといって、そのことから直ちに本件貸付契約当時、A社は倒産の危険性が十分にあったと認めることもできない

③ よって、基本通達9-4-2に定める相当な理由があると認めることはできず、国税当局による課税処分は適法である。

コメント

子会社に無利息貸付等の支援を行うに当たっては、その経済合理性が重要となります。
経済合理性があることを立証するためには、再建計画書等を作成し、無利息等による貸付の必要性や貸付による財務内容の改善の見通し等の資料を作成しておくことが必要となるでしょう。

また、倒産の危険性があるとは、一般的には、子会社が債務超過の状態にあることなどから資金繰りが逼迫しているような場合が考えられます。よって、子会社に損失が発生していたとしても、それだけでは倒産の危険性があるとは認められない可能性があります。

実務では、海外子会社の損失が継続している場合や、資金繰りが苦しい場合などに、安易に無利息貸付や債権放棄を行ったりするケースが見受けられますが、税務調査でそうした取引が寄附金と認定されるリスクがあるため、慎重な判断が必要となります。

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