移転価格の文書化制度は、「税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクト」の行動計画13に基づき、平成28(2016)年度税制改正において導入され、これにより「ローカルファイル」、「国別報告事項」、「マスターファイル」の作成等が義務付けられました。中堅・中小企業にとっては、これらの文書の中で「ローカルファイル」が特に重要となります。

文書化制度の全体像
移転価格の文書化制度の導入により、「ローカルファイル」、「国別報告事項」、「マスターファイル」を税務署に提供(又は作成・保存)することが義務付けられました。
以下の図は、文書化制度の全体像を示しています。

ローカルファイル
移転価格対応において、最も重要な文書がローカルファイルです。ローカルファイルとは、国外関連者との取引における独立企業間価格を算定するために必要と認められる諸書類をいいます。
法人が前事業年度に一の国外関連者との間で行なった国外関連取引の合計額が50億円以上又は無形資産取引の合計額が3億円以上の場合には、確定申告書の提出期限までにローカルファイルを作成又は取得し、保存することが義務付けられています。これを「同時文書化義務」と言います。
同時文書化義務のあるローカルファイルについては、ローカルファイルを確定申告期限までに作成し、調査官から要請があった場合には、調査官が指定する45日以内の日までに提示又は提出しなければなりません。
期限までに書類の提示又は提出がないときは、推定課税が行われる可能性があります。推定課税とは、国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む法人の売上総利益率や営業利益率等に基づいて独立企業間価格を推定し追徴課税を行なうものです。推定課税が行われた場合には、納税者は自己の取引価格が独立企業間価格であることを立証しない限り、当局の算定した価格が独立企業間価格とみなされてしまいます。また、相互協議による二重課税の排除が困難となります。
同時文書化義務が免除された国外関連取引であっても、調査官から要請があった場合には、調査官が指定する60日以内の日まで、同時文書化義務のあるローカルファイルと同程度の内容のものを提出しなければなりません。期限までに提出できなかった場合には、推定課税が行われる可能性があります。このように、同時文書化義務が免除されていたとしても税務調査において提出を求められれば、60日以内にローカルファイルに相当するものを提出しなければならない点に注意が必要です。
移転価格調査件数は近年、増加傾向にあることから、中堅・中小企業においても文書化の対応は必要となります。実務上は、国外関連取引の規模、国外関連者の利益率、移転価格課税を受けるリスク、ローカルファイルの作成費用などを勘案して、上記の金額基準を満たさない取引であっても、詳細な分析が必要と認められる取引については最低限の検討資料を準備しておくことが有用と思われます。
国別報告事項(CbCレポート)
国別報告事項は、多国籍企業グループの事業活動が行われる国ごとの収入金額、当期利益の額、納付税額等の情報を所定のフォーマットに入力して提供を求める制度です。
国別報告事項については、最終親会社等の直前の会計年度の連結総収入金額1,000億円以上の多国籍企業グループに対して、e-Taxにより所轄税務署長に提供することが義務付けられています。提供期限は、最終親会社等の会計年度終了の日の翌日から1年以内となっています。
提供された国別報告事項は、租税条約等の自動的情報交換に基づき、多国籍企業グループの構成会社等の居住地国の税務当局に情報提供されます。また、諸外国からも国別報告事項に相当する情報が我が国に提供されることになります。
国別報告事項の自動的交換が始まったことにより、各国の税務当局は、世界の多国籍企業がどの国でいくらの収入を上げ、どの程度税金を納めているかを確認できるようになりました。
マスターファイル
マスターファイルは、多国籍企業グループの組織構造、事業の概要、財務状況等のグローバルな事業活動の全体像を説明するものです。
我が国では、国別報告事項と同様に、最終親会社等の直前の会計年度の連結総収入金額が1,000億円以上の多国籍企業グループに対して、e-Tax により所轄税務署長に提供することが義務付けられています。提供期限は、最終親会社等の会計年度終了の日の翌日から1年以内となっています。
国別報告事項、マスターファイルともに金額基準が高額であることから、多くの企業にとってはこれらを提出する必要はないものと思われます。
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