平成30事務年度の法人税等の調査事績が公表されました。海外取引をしている法人に対する税務調査で発覚した申告漏れはここ数年で急速に増えています。平成30事務年度は海外取引が絡む申告漏れ金額は約6,968億円となり、前事務年度に比べてほぼ倍増となりました。

海外取引法人の調査事績

国税庁が発表した海外取引に関連した法人税の調査事績によれば、調査件数や非違が把握された件数はほぼ前年並みであったものの、申告漏れ所得金額は前事務年度と比べてほぼ倍増となりました。

国税庁によると、企業の事業や投資活動のグローバル化が進む中で、海外取引を行う法人による手数料の水増し計上などの不正計算が見受けられるとしており、そうした不正計算が想定される海外取引法人に対しては、国外送金等調書や情報交換制度を積極的に活用し、深度ある調査に取り組むとしています。

(出典:国税庁報道発表資料)

海外調査事例

国税庁からは、外国税務当局との情報交換やCRSを活用した事例が紹介されています。

 

事例1:海外取引先に対する外注費を水増し計上していた事例(法人税の申告漏れ所得は2年間で2,300万円、重加算税を含む追徴税額は700万円)

 調査法人は、東京国税局管内で設計コンサルタント業を営む法人である。

調査において海外法人X社に対して多額の外注費を計上していたが、X社宛ての支払いを関連法人のA社を経由して支払っているなど不審点があった。

そこでX社が所在する国の税務当局に対して情報提供要請をしたところ、X社が外注費として調査法人から受領していたのは、調査法人が外注費として計上した金額の一部にすぎない旨の回答があった。

これらの事実をもとに調査を進めた結果、調査法人が全額を一旦A社に支払った後、A社は一部だけを海外のX社に支払い、残りを調査法人の代表者にバックしていたことが判明した。X社に対する外注費は、代表者の生活費を捻出するために水増し計上されたものであった。

 

事例2:海外の代表者名義の口座を利用して受取手数料を除外していた事例(法人税の申告漏れ所得は2年間で3,700万円、重加算税を含む追徴税額は1,400万円)

調査法人は、札幌国税局管内で金融商品の投資運用業務を行う法人である。

調査において、代表者のパソコンの現物確認調査を行ったところ、顧客から受け取る手数料を海外の代表者名義の個人口座で受領する契約書のデータを把握した。

さらに、代表者が海外で保有する預金口座情報をCRSで入手し、当該口座に多額の残高があることが判明した。

これらの事実をもとに代表者を追及した結果、受取手数料を海外の個人口座で回収することにより法人の収入から除外していたことが判明した。

移転価格事案は小型化が顕著

中堅・中小企業でも移転価格調査を受けるケースは増加していると言われているが、事案の規模としては小型化が顕著となっています。

以下のグラフは、報道発表資料を基に平成16年以降の移転価格調査により申告漏れのあった件数と、申告もれ所得金額の推移を示したものです。申告漏れ件数は257件と前年より大幅に増加したものの、申告漏れ所得金額は3年連続で減少しました。

【移転価格税制に係る調査の状況】

(出典)国税庁報道発表資料をもとに作成

調査1件当たりの申告漏れ金額(=申告漏れ所得金額/申告漏れ件数)を算出すると、28年度は3億7千万円、29年度は2億4千万、30年度は1億4千万円と3年連続で減少しており、全体的な傾向として事案が小型化しています。

これは、国税局所管の大企業のみならず、税務署所管の中堅・中小企業にまで移転価格調査が広がっていることを意味しています。これまで移転価格調査の中心であった大企業では、調査対象がほぼ一巡しており、また移転価格課税のリスクを回避するために事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement)を積極的に利用していること等が大型事案減少の背景にあると考えられます。

経済のグローバル化に対応するため、国際課税を担当する調査官は増員しています。移転価格税制も、今や大企業に対してだけではなく中堅・中小企業にも向けられる時代となっています。

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