不動産相続では、相続人にとって必ずしもプラスイメージの財産承継があるわけではない。なかには、相続したつもりのない不動産に関し、固定資産税・都市計画税(以下、固定資産税等という)の支払いを求められたケースが少なくない。不動産相続に伴う固定資産税のトラブルの最近の動向について紹介する。
遺産分割で不動産を相続しなかったのに、固定資産税などの納税通知書が届けられることがあります。また、不動産を兄弟で共同相続したのに、自分だけ固定資産税などの納税通知書が届けられることもあります。なんだかおかしい、不公平だと思う人も多いかもしれませんが、こうした案件では、不服審査請求をする人も少なくないようです。
というのも、固定資産税等の納税義務者を決めるルールでは、必ずしも本当の所有者だけが納税義務者になるとは、限らないからです。
固定資産税等は、賦課期日(1月1日)時点で不動産などの所有者になっている人に課税されることになっています(地方税法343条1項、702条2項)。これが納税義務者を決める大原則です。
ここでの所有者とは、課税対象が土地や家屋の場合、登記簿や土地補充課税台帳・家屋補充課税台帳に所有者として登記されている人を指します。実は、これがクセモノ。なぜなら賦課期日の1月1日に登記簿に所有者として公示されている人は、真実の権利関係がどうであろうと、その年度の固定資産の納税義務者になるからです(大阪地裁昭和51年8月10日判決)。実は最近、同様な案件で東京都に対し不服審査請求をした事例があります(東京都裁決平成30年10月5日)。
Aさん(審査請求人)は平成23年に開始した相続で、区分所有の土地建物(土地持ち分換算約15㎡、専有面積約50㎡)を、同年9月に相続を契機に弟と共有で所有権の移転登記を受けました。都税事務所は、登記所からの通知を受けて兄弟を固定資産課税台帳に区分所有土地建物の所有者として登録しました。Aさんは、遺産分割でこの不動産を相続せず、弟の単独所有となることが決まっているのに、弟が登記名義を変更に協力しないため裁判を起こし、翌年3月までに裁判の結果を受けてこの不動産の名義を弟単独にすることができました。
ところが、この年の6月にAさんのもとにこの不動産の固定資産税等の納税通知書が届けられました。そこでAさんは「自分が相続しなかったのに課税するのはおかしい。登記名義の筆頭者(Aさん)にだけ、納税通知書を送るのもおかしい」として審査請求に及んだということです。
しかし審査した東京都は、「法令の定めに則ってなされたものであり、違法または不当とすべき点は何ら認められない」と結論づけています。その理由は次の通りです。
1、賦課期日において登記簿に所有者として公示されている者は、真実の権利関係の如何にかかわらずその年度の固定資産税等の納税義務者として決定される。
2、共有物に対する地方団体の徴収金は、共有者に連帯納税義務があり(地方税法10条の2)、連帯債務に関する民法432条から434条まで、437条及び439条から444条までの規定が準用される。したがって、連帯納税義務者の1人に対し、または同時に若しくは順次にすべての連帯納税義務者に対し、徴収金の全部又は一部の納税告知をすることができる。
代位登記で名義が相続人になるケースでも
相続放棄をして実質的に不動産を相続していないのに、不動産の名義が相続人に登記されているケースもあります。被相続人にお金を貸すなどをした債権者が、債権回収のため債権者代位による登記で相続人へ名義を変えてしまうことがあるのです。相続放棄した不動産でも固定資産税が課税されるケースが出てきます。こうした事例は稀ではないので、債務の多い相続の場合には注意が必要です。
数年前にも、静岡県伊東市で税金紛争になったケースがあります(伊東市裁決平成28年10月25日)。裁決書によると、被相続人に債権のあった債権者が、債権保全のため債権者代位により被相続人名義のB市にある土地・建物を相続人Aさん名義にする相続登記を行い、仮差押登記をしました。この間にAさんは被相続人の債務がプラスの財産を上回るとみて家庭裁判所に相続放棄の手続きを行い受理されました。この結果、債権者は仮差押登記を抹消しましたが、相続放棄した不動産の名義は相続登記により、まだAさんのままでした。
このまま、固定資産税等の賦課期日1月1日を経過したところ、相続登記の通知を登記所から受けていたB市からその年の4月、平成28年度分の固定資産税・都市計画税を支払うよう納税通知書が届きました。相続放棄により、もとから不動産を保有していなかったのに固定資産税等が課税されたので驚いたAさんは、平成28年7月の不服を申立てて争いとなったものです。
これに対し、審理した伊東市サイドは、地方税法343条第1項に、固定資産の所有者に固定資産税を課するという規定があり、ここでの所有者とは、地方税法第343条第2項前段において登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者とされていること、同法343条第2項後段ではこの所有者が死亡している場合には、現に所有している者を所有者とする規定があることを確認。その上で同市は「課税上の技術的考慮から法第343条第2項前段にあっては、台帳課税主義を採用しているものと解されて」いること、「台帳課税主義の例外規定である法第343条第2項後段の適用にあっては当該規定が登記簿上の所有者が死亡している場合等の規定であり、Aさんの場合には該当しないことを指摘、市の課税処分に何ら違法又は不当な点は存在しないと結論づけています。
同様の相続放棄で債権者代位により不動産の相続登記をされ、固定資産税のトラブルになったケースは、たとえば東京都の裁決(平成26年11月21日)などがあり、生前行き来のなかった叔母の死亡にともなう不動産の相続で実子が相続放棄をしたことを知らずに登記をされ、急遽相続放棄をしたケース(平成24年8月27日東京都裁決)なども、同様に固定資産税等の課税でトラブルになっており、いずれも課税について適法との判断が下されています。
被相続人の固定資産税等を相続する?
不動産の相続があった場合、被相続人の固定資産税等の納税義務は、次の通り相続人が承継することになっています。
ア、相続があつた場合には、その相続人は、被相続人(包括遺贈者を含む。以下略)に課されるべき、又は被相続人が納付し、若しくは納入すべき地方団体の徴収金を納付し、又は納入しなければならない(地方税法9条1項)。
イ、相続人が二人以上あるときは、各相続人は、その相続分により按分して計算した額を納付し、又は納入しなければならない(同条2項)。
市町村は、まず固定資産税等の徴収をする場合は、納税者に対し文書により納付または納入の告知をしなければならないことになっています(地方税法13条)。そして、この納期限の遅くとも10日前までに納税者に、「納税通知書(併せて課税明細書)」を交付しなければなりません(地方税法364条)。納税通知書の送付により固定資産税などの租税債務・履行義務が確定します。
固定資産税等の賦課期日は1月1日で、このとき課税要件を充たしていれば、固定資産税が課税されます(納税義務の成立)。ところが納税通知書の送付は、その年の4月以降になります。タイムラグがあるわけです。このため、この間に賦課期日に生存していた納税義務者が亡くなった場合、納税通知書の送付が有効か無効かという問題が生じます。この場合には、市町村が「被相続人の死亡後その死亡を知らないでその者の名義でした賦課徴収又は還付に関する処分で書類の送達を要するものは、その相続人の一人にその書類が送達された場合に限り、当該被相続人の地方団体の徴収金につきすべての相続人に対してされたものとみなす」(地方税法9条の2第4項・「みなし送達」)ことになっています。ただし被相続人が管轄内に住んでおり、住民票に記載されている場合には、市町村が住民基本台帳事務を執行しているだけに「被相続人の死亡を知らない」とは通常いえないのではないかと思われます。
賦課期日と納税通知書の送付段階における納税義務者の存否で簡単な表をつくると次のようになります(表3)。賦課期日で不動産の名義人が亡くなっている場合には、「所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、(中略)又は所有者として登記されている第384条第1項の者が同日前に所有者でなくなっているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする」(地方税法343条)。現に所有している者へ課税を変えることを賦課替といいます。
表3
誰が払うのかでバトル
岩手県花巻市では、被相続人が滞納していた固定資産税の支払いをめぐり、トラブルになった事例があります(花巻市裁決平成28年11月22日)。
裁決書によると、市内の30物件の所有者である被相続人に対し課税していた固定資産税につき、花巻市は地方法第9条の2項に基づいて相続人代表者にAを指定し、賦課徴収の書類を送付していました。
ところがAは、23年度から27年度分の賦課分の固定資産税について、納期限後も納付しませんでした。そこで花巻市は、平成28年3月11日、別の相続人Bに納期限を3月31日とする連帯納税通知書を送付。連帯納税通知書の納期限を過ぎてもBからの納付がなかったため、花巻市は同年4月20日付で、23年度分から27年度分の固定資産税につき督促状を送付しましたが、Bは、督促処分に不服を申立てたという事例です。
Bは「Aが単独で課税対象不動産を流用し、年間100万円超の賃料収入を得ており、その固定資産税はAから徴収すべき」と主張しました。
しかし審理した花巻市は、督促処分に違法はないとして、Bの不服を認めませんでした。
まとめ
前述のとおり、不動産の相続に関し、思わぬ固定資産税の負担に頭を悩ますことがあります。被相続人が直系尊属で、相続人がある程度、保有不動産を含む財産の状況や固定資産税等の納付状況の把握が可能ならば、上記のような事態を予見することも不可能ではないでしょう。逆に、これから財産を承継させる立場にある資産家にとっては、相続人を当惑させるこうした事態を避けるよう、日頃から財産の管理をしっかりしておきたいものです。