国税庁はこのほど、平成30事務年度の所得税等の調査事績を公表しました。海外投資等を行う富裕層の申告漏れ所得は3,819万円、追徴税額は914万円となり、過去最高を記録しました。国外送金調書、外国税務当局との情報交換、CRS情報などの外部情報の活用が功を奏しているようです。
「富裕層」に対する調査の状況
国税庁では有価証券や不動産などの大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人を「富裕層」として管理し、重点的な調査を行ってきました。
平成30年7月からの1年間で、「富裕層」に対して5,313件の調査が実施され、その約9割の4,517件から過去最高の763億円の申告漏れが把握されました。調査1件当たりの申告漏れ所得も1,436万円と高額となっています。
【表1 「富裕層」に対する調査の状況】

富裕層の中でも、海外投資や海外取引をしていた者に対する調査で発覚した申告漏れは特に高額となっており、調査1件当たりの申告漏れ所得は3,819万円、追徴税額は914万円と一気に跳ね上がりました。
資産運用の多様化・国際化が進んでいることから、国税当局では、「国外送金等調書」、「国外財産調書」、「租税条約等に基づく情報交換制度」のほか、「CRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)」などを活用し、富裕層に対する監視を強化するとしています。
【表2 海外投資等をした「富裕層」に対する調査の状況】

調査事例1:タックスヘイブンに法人設立 雑所得課税!(所得税の申告漏れ所得は4年間で2億2,100万円、加算税を含む追徴税額は1億1,800万円)
日本の居住者Aは、税負担が著しく低いタックスヘイブン国に外国法人を設立し、日本の複数の事業者から多額の国外送金を受けていることが、国外送金等調書の分析から判明した。
送金内容は著作権の使用料であると想定されたことから、タックスヘイブン対策税制の適用の可否を検討するため調査に着手した。
調査の結果、当該外国法人の主たる事業は著作権の提供であり、タックスヘイブン対策税制の適用除外基準の一つである事業基準を満たしていないことが判明。外国法人の所得金額を居住者Aの雑所得として課税した。
コメント
この事例では、国外送金等調書が非違発見の端緒となっています。国外送金等調書とは、国外への送金又は国外から送金を受領した金額が100万円を超えた場合に、金融機関が税務署に提出する法定調書をいいます。国税当局にとっては、海外との資金のやりとりを把握するための貴重な情報源となっています。
今回のケースのように、タックスヘイブン国への送金が把握された場合には、タックスヘイブン国へ所得移転をしているのではないか、タックスヘイブン対策税制の適用対象となるのではないか等の視点から調査が行われます。
また、国外送金等調書には「送金原因」が記載されるため、送金の内容から源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払かどうかといった検討が行われることもあります。
調査事例2:海外銀行の預金口座の利子を隠蔽(所得税の申告漏れ所得は6年間で5,500万円、加算税を含む追徴税額は2,700万円)
従来から行われていた法定調書の自動的情報交換資料に加えCRS情報から、居住者Bの国外預金の利子所得の申告漏れが想定されたことから調査着手した。
調査の結果、Bは外国の複数の金融機関に複数の口座を保有し、毎年数百万円の利子を受け取っていたが、その利益を申告していないことが判明した。Bを厳しく追及したところ、国外の預金口座の利子を意図的に申告に含めていなかったことを認めた。
また、Bは、提出が義務付けられていた「財産債務調書」を提出していなかったことから、その財産債務に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税を5%加重した。
コメント
この事例は、外国税務当局から提供された情報交換資料が端緒となった事例です。外国の税務当局から寄せられる情報の件数は年々増加しており、これらの情報と、納税者から提出された確定申告書や国外財産調書、財産債務調書の記載内容とを照合することにより国外財産の申告漏れや、国外財産から生ずる利子等の申告漏れを発見することが可能となります。こうした情報交換の進展により、いまや海外資産の情報は当局に筒抜けになっていると言ってもいいでしょう。
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