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令和2年度税制改正 富裕層向け国外中古不動産活用の節税―スキームにメス

令和2年度税制改正大綱が発表され、この数年問題視されていた国外中古不動産を利用した節税スキームにメスが入った。富裕層向けに活用されていた節税スキームだが、すぐに反応したのはマーケットだ。国外中古不動産の投資ビジネスを展開するオープンハウスの株価は、取引直後に急落。会計事務所でも顧問先にこのスキームを利用して節税コンサルティングを展開していた税理士も少なくないだけに、影響は大きそうだ。

国外中古不動産を利用した節税スキームは、米国を中心に好調で、税理士の間でもこの数年、顧問先への節税コンサルティングの一つとして利用されてきたツールだ。それだけに今回の規制にショックを隠せない税理士や業界関係者は少なくないが、全体としては「ついに来たか」というのが正直な感想だ。

というのも、この国外中古不動産を利用した節税スキームについては平成27年に会計検査院から検査報告(問題提起)が出されており、「国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である」と指摘されてきたからだ。税理士などの間では、昨年度の税制改正に盛り込まれるのではと言われてきたがペンディングとなり「いつ規制されるか」と様子見の状況が続いていた。

規制の対象となったスキーム

日本では、建物などの固定資産を取得した場合、法律で定められた耐用年数に従って減価償却費を計上していく。中古資産を取得した場合は、その使用可能期間は新品で取得した場合と比べて短くなり、中古資産の耐用年数は取得後の使用可能期間の見積もりによることが原則。しかし、取得後の使用可能期間の見積もりが困難な場合には、簡便法により耐用年数を計算することができる。耐用年数を過ぎている資産であれば、法定耐用年数の20%で償却することが認められている。

たとえば、木造の住宅用建物は法定耐用年数が22年とされているので、最短4年で償却することになる。

とはいえ、国内の中古物件であれば、築年数に応じて建物価格も下がることから、減価償却費が不相当に高額になることは考えられなかった。

海外中古建物の減価償却

ところが、日本の居住者が海外不動産を保有し賃貸に出すことで収益を得た場合には、日本で確定申告をする必要があり、その際、中古物件の耐用年数についても日本の税法が適用され、これに基づいて算出されることになっている。海外の中古物件は、日本と比較すると住宅価格に占める建物割合が高く、短期間に多くの減価償却費を計上できるメリットもあり、不動産所得を赤字化し、給与所得と損益通算し、還付を受けることができた。

とくに富裕層の場合は、不動産の運用中は総合課税で計算されることから、55%(最高税率の場合)を基礎とした節税効果を取れ、売却時は売却益が発生しても分離課税で計算されることから20%(5年超保有の場合)の負担で済むため、国外の中古物件を購入する節税スキームが利用されてきた。

ハワイやテキサスの物件を利用

このスキームとして有名なのは、米国不動産、その中でもテキサス州やハワイ州所在の物件を利用したもの。
実際、米国の売買価額の算定基準を使うと、築50年の木造物件でも建物比率が70~80%となるケースも少なくない。富裕層向けの節税商品ということもあり、そこまでメジャーな節税商品ではなかったが、オープンハウスなどが積極的に展開していた。

税制改正で海外中古物件は損益通算NGに

こうした海外中古物件を利用した節税スキームだが、閣議決定された令和2年度税制改正では、「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」が新設され、国外中古建物の減価償却費により生じた損失は損益通算を認めないとされた。

なお、この損益通算から除外された損失は打ち切りになるのではなく、譲渡時の売却原価に含めることとされている

これにより国外中古不動産を利用した課税の繰り延べ、総合課税から分離課税へ課税方法を変えることによる税率の引き下げ、いずれも規制されたことになる

抑えておく基本的な改正内容

① 下記のいずれかの方法で計算した国外中古建物の償却費を規制対象とする。
・ 中古耐用年数のうち見積法によるもの(その見積法による耐用年数が適切であることを証する一定の書類の添付があるものを除く)
・ 中古耐用年数のうち簡便法によるもの

② 国外中古建物の償却費に相当する部分の金額を規制対象とする。このため、減価償却費以外の経費により生じた損失の金額は規制しない。

③ ②により規制された国外中古建物の償却費相当額は、譲渡所得の計算の際に取得費に加算する(譲渡収入から控除できる)こととする。

具体的な計算例

【例】国外中古不動産を購入し、6年目に1憶円で売却
物件価額は1憶円、土地価格2,000万円、建物価格8,000万円
減価償却は木造のため、簡便法による耐用年数4年で行う
家賃収入は年間1,000万円、その他の運営経費は年間200万円とする。

(1)改正前
① 1~4年目
1,000万円-200万円-8,000万円÷4年=△1,200万円

② 5年目
1,000万円-200万円=800万円

③ 売却時
1憶円-取得費2,000万円(土地2,000万円+建物0万円)=8,000万円

(2)改正後
① 国外中古建物の償却費相当額
8,000万円÷4年=2,000万円

② 1~4年目
1,000万円-200万円-8,000万円÷4年=△1,200万円
1,200万円<2,000万円 ∴ 1,200万円の損失はなかったものとみなす

③ 5年目
1,000万円-200万円=800万円

④ 売却時
1憶円-取得費6,800万円(土地2,000万円+建物4,800万円*)=3,200万円
*損益通算を規制された国外中古建物の償却費相当額
1,200万円×4年=4,800万円

複数物件を所有している場合は注意

規制の対象となる金額を「国外不動産所得の損失の金額」と定義づけていることから
①  国内不動産の減価償却費により損失が生じても規制はない。

② 国内不動産から所得が生じ、かつ、海外不動産から損失が生じている場合にも規制の対象となると思われる(内部通算も認められない)

例)
国内不動産A 所得金額 800万円
海外不動産B 損失金額1,200万円(償却費相当額2,000万円)
➡ 内部通算もできないため、不動産所得の金額は800万円となる。

③ 複数の海外不動産を所有している場合には、国外不動産間の内部通算をした後の金額が規制の対象
例)
海外不動産A 所得金額 800万円
海外不動産B 損失金額1,200万円(償却費相当額2,000万円)
➡ 内部通算はできるため、不動産所得の金額は0万円となる。

税制改正の適用は遡及されるのか

大綱では「令和3年分以後の各年において適用する」と記載されており、改正前に取得した国外中古建物の減価償却費についても、この改正の影響を受けることになる。
これまで、生命保険などを活用した節税においては遡及適用されなかったことから駆け込み需要もあったが今回は駆け込みどころか、遡及適用される点に注意が必要になる。

税制改正はあくまで個人に対する規制

今回の税制改正は、個人のみ対象となり、法人は改正の対象にはなっていない。理由としては、法人の場合、運用中と売却時どちらも同一の税率で課税されるため、税率差による節税効果がないからだ。
ここから、今回の改正は課税の繰延べ効果ではなく、税率の引下げ効果を規制したかったことがうかがえる。

譲渡所得計算時に必要となる資料

税実務的に今後は、過去の確定申告における「損益通算を規制された国外中古建物の償却費相当額】を確認することが不可欠になる。
譲渡時に単発で確定申告の依頼を受けた場合も、過去の申告内容の確認ができないと譲渡所得の計算ができない点、どういった法整備がされるのか気になるところだ。

 

(執筆協力:税理士 島崎悟)

 

著者: KaikeiZine編集部

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