国税庁が公表した源泉所得税の調査事績によれば、非居住者等に対する使用料や人的役務提供事業の対価に係る源泉徴収漏れが多く見られます。源泉徴収漏れが発覚すると、グロスアップ計算など煩雑な手続きが必要になる場合もあります。

海外取引についての源泉所得税の調査事績

海外取引がある法人の調査においては、外国法人や非居住者等への支払いについて源泉所得税の課税漏れがないか、重点的にチェックされます。

国税庁から公表された平成30年度の源泉所得税の調査事績は、以下の通りとなっており、追徴税額は前年より増加しました。 

【海外取引に係る源泉所得税の税務調査の状況】

【海外取引等に係る源泉所得税の非違(件数)の内訳(平成30事務年度)】

 (出典:国税庁記者発表資料)

税務調査の実績を見ると、非居住者や外国法人に対する人的役務提供事業の対価や工業所有権等の使用料等などの支払について、源泉徴収漏れが多いことが分かります。

よく見られる非違の形態

所得区分ごとの、よく見られる非違の形態としては次のようなものが挙げられます。

(出典:東京国税局会議資料)

これらの項目はいずれも誤りの多いものであることから、こうした支払いがある場合には、事前に源泉徴収の有無を確認する必要があります。

源泉徴収漏れがあった場合~「グロスアップ」とは

源泉徴収を失念していたところ、後日税務調査で源泉徴収漏れを指摘されるというケースがあります。

その場合には、まず源泉徴収義務者である内国法人に対して源泉所得税が追徴課税されます。この源泉所得税は本来支払先である海外企業が負担すべき税金であるため、内国法人は、当該源泉所得税を海外企業に請求することとなります。

しかし、必ずしも海外企業が源泉所得税の返還に応じるとは限らず、回収できない場合もあります。その場合には、内国法人の支払額が、(源泉所得税控除後の)手取額になるようにグロスアップした金額に基づいて追徴税額を計算することとなります。

すなわち、グロスアップとは、源泉所得税を控除せずに送金してしまった金額を、源泉所得税控除後の手取額と考えて、源泉所得税の額を再計算することをいいます。

 

では、グロスアップ計算はどのように行うのでしょうか。

『源泉徴収後の支払金額÷(1-源泉徴収税率)=支払総額』

に当てはめて計算します。

 

<計算例>

外国法人への支払い1,000,000円について、源泉徴収を失念して全額支払ってしまったケースを考えます。

源泉徴収税率を10.21%とすると、

支払総額=1,000,000÷(1-0.1021)=1,113,709 となり、

源泉税額=1,113,709-1,000,000=113,709円 となります。

 

もし、当初から正しく源泉徴収していれば、

源泉税額=1,000,000✕0.1021=102,100円

で済んだわけですから、グロスアップ処理の場合は多額の支出が必要になることが分かります。

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