新しい事業を考える(もしくは既存事業を見直す)上で、ポイントとなるのが「これまでにない切り口」をどうやって見つけるか、です。そこで、この切り口を見つけるための様々な発想方法についてご紹介していきます。第2回は、前回の「キーワード」による発想をさらに2例ご紹介します。
前回、「市場」からではなく、顧客の利用シーンから導き出した「キーワード」を使って新たなビジネスを発想する方法をご紹介しました。
キーワードは、「個人」と「企業」、いわゆるBtoCとBtoBに分かれ、さらに個人には買物など日常生活である「ライフスタイル」と、冠婚葬祭など「ライフイベント」のカテゴリーに分かれました。
今回は、さらに「ライフスタイル」、「ライフイベント」、それぞれのキーワードを用いた事例をご紹介します。
「ライフスタイル」→「買い物」の事例
近年、年配の方など身体が不自由で買い物に行けない、近くに買い物をする場所がないといった事情から、「買い物難民」と呼ばれる方々が社会問題化しています。
2020年現在、百貨店のない都道府県は山形県のみですが、県内に1店舗しかない都道府県は、茨城、山梨、岐阜など15もの県に及んでいます。(2020年8月にそごう徳島の閉店が決定しているため、今年度中に徳島県も山形県に続く百貨店のない県になります)同様に、スーパー(総合、食品)でも2016年頃と比べ、店舗数が減少している都道府県が北海道や和歌山など14を数えるほどに至っています(一方で、東京都や神奈川県、大阪府、兵庫県は増加傾向にあり。百貨店と同様に都市部への集中化が進んでいます。参照:統計・データで見るスーパーマーケットhttp://www.j-sosm.jp/)
こうした社会問題に挑んでいるのが、移動スーパー とくし丸(https://www.tokushimaru.jp/)というサービスです。軽トラックに約400品目、1200〜1500点の商品を積載し、郊外など食品スーパーのない地域へ移動し、販売するビジネスです。大手コンビニエンスストアでも1店舗あたり2000点くらいですから、品数としては十分と言えるでしょう。
日々の買い物に大変な思いをしている人に向け、軽トラックで近くまで商品を届ける。そのキーワードは「買い物」。「個人」→「ライフスタイル(日常生活)」→「買い物」というドリルダウンからたどり着くことができます。
前回もご紹介した通り、発想の出発点が「市場」では到底たどりつけないことはおわかりいただけると思います。「買い物」という顧客の利用シーンから考えるからこそ、です。
続けて、個人にとって非日常である「ライフイベント」にまつわる事例をご紹介しましょう。
「ライフイベント」→「結婚」の事例
「ライフイベント」とは、個人の生活におけるいわゆる「非日常」のことです。冠婚葬祭、受験、就職・転職など人生において1度、多くても数回しか起きない事柄を指します。
例えば、「結婚」。2019年現在、日本の婚姻率は0.47%しかありません。(婚姻率=人口1000人あたりの件数。婚姻率0.1%は、1000人あたり1組のことをいう)
バブル経済が崩壊して以降、断続的な減少傾向にあり、2001年の0.63%から0.17%も減少しています。(参照:厚生労働省 「令和元年(2019)人口動態統計の年間調査より」)
こうした傾向を生み出した背景として、晩婚化などの社会的価値観の変化などが挙げられますが、中でも強い要因になっているのが「懐事情」。平均年収が200万円以下だとされるパートタイム労働者や、有期雇用労働者(いわゆる非正規雇用労働者)が、同期間(2001年→2019年)で約800万人近く増加し、労働者全体の約4割を締めるほどの状態に至っていることからも想像に難くありません。
結婚には費用がかかる。こうした問題に対して登場したのが2011年に誕生した会費婚(https://www.kaihikon.com/)という画期的な結婚式です。
ホテルなどで挙式を挙げた場合、平均で400万円から500万円もの費用がかかります。列席者によるご祝儀によって大部分が賄われることになるのですが、それでもなお車一台分に相当する金額は、利用者の行動を躊躇させる強い要因になります。
このサービスは、そうした利用者の負担感を減らすために、自己負担金が5万円という破格の設定。ホテルでの挙式になぞらえれば、「内金」にも届かないような驚きの金額です。
その仕組みは明快です。自己負担金を除いた残りの費用はゲスト、つまり列席者からの徴収。つまり、一般的な結婚式の当事者が一括で支払うものを、当事者に代わって(代行して)出席者から回収しているのです。こうすることで、費用全体を変えることなく(提供者側の損失を招くことなく)顧客の負担感を減らし、利用者の拡大実現が狙えるのです。
以上、2例をご紹介しました。いずれも「買い物」「結婚式での支払い」という「市場」ではなく、利用シーンの「キーワード」による発想。ぜひ、新たなビジネスの切り口の参考にしてみてください。
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