「何もないところから自分で作り上げ、整備することに携わりたい!」と、監査法人からベンチャー企業への転職を成功させた久保田朱美氏。転職してから充実した日々を過ごしているという久保田氏に、お金のカラクリ侍こと松本ゆうやがインタビューしました。
――略歴を教えてください。
久保田朱美と申します。2012年に公認会計士に合格して2013年より約5年、新日本有限責任監査法人でシニアとして主査を経験しました。監査法人で積めない経験を得たいと思い、2018年に転職を決意して、インターネット事業のベンチャーにて経営企画室と経理部を兼務していました。公認会計士の経験を活かした月次年度決算や内部統制の構築だけでなく、ワークフローシステムの導入や規程の策定、取締役会・経営会議等の運営に携わりました。
現在は、株式会社いえらぶパートナーズ(家賃保証事業) にて、経理等の他に予算策定や人事労務を担当し、就業規則の改訂や給与計算、人事面談の実施や人事評価制度を構築し、人事という公認会計士の役割とは異なる立場からも会社の成長に貢献できるように頑張っています。
――公認会計士を目指した理由は何ですか?また、受験生時代はどのように過ごしていたのでしょうか。
中学生の時、父の知り合いの公認会計士の方とお話ししたことがきっかけでした。公認会計士という資格を取ることで自由に好きな仕事ができるようになると考え、大学は会計専門の学部を選び、在学中に資格を取得するという目標で勉強に励んでいました。
優秀な受験生が周りに多い中、私は効率が良いタイプでなかったので、受験時代は朝から夜までテキストを何十回も読み直すことに徹しました。なかなか成績が上がらず不安もありましたが、大学在学中に受からなければきっぱりあきらめ、就職活動に切り替えるようという背水の陣で勉強に取り組みました。2年目の短答式試験の直前にやっと成績が伸び、無事、大学4年生の時に合格することができました。人生で一番勉強した時間だったと思います。
――監査法人にいらっしゃったときの業務内容はどのようなものでしたか?
入社時から中小企業メインの配属だったため、製造業やネット広告業等多種多様な業種に携わりましたが、一番多く携わった業種は、主査も担当した不動産業でした。工場往査や物件視察等、現場を直接見てヒアリングをする時間が一番楽しかったです。また、経営者と対話するときは緊張もしましたが、自分とは異なる目線で物事をみる視野の広さを間近で感じることができる時間だったのでとても印象に残っています。
また、IPO専属部門ではありませんでしたが、運良く上場準備会社に2社携わり、内部統制構築支援やⅠの部等の上場関連書類のチェック等、上場会社の監査では味わえない業務に係ることが出来ました。この経験が今の転職に生きていると思います。他には、監査業務以外ではリクルーターも担当していました。
――では、監査法人から転職しようと思った理由、きっかけはありましたか?
入社時の目標である主査を担当し、IPO業務にも携わることができたタイミングで次に何をしようかと迷っていました。主査になることで、責任や業務の幅が増え面白い部分がある半面、担当会社に注力するため、スタッフの時にはあった多くのクライアントとの携わりや色々なメンバーとの会話が少なくなっていました。日々ルーチン業務を行っている感覚に陥ってしまい、自分の視野が狭くなっていると感じたため、今の環境から動かないといけないと決心したのが転職のきっかけです。
転職活動を始めてからですが、職務経歴書を書きはじめて気づいたことは、自信をもって書けることが無いという事実でした。会計士が事業会社へ転職するときは、主査を経験したタイミングが多いため、会計士であればほぼ全員同じ事を書くことになりますが、採用担当の方へ、会計士の業務を説明し理解を得ることは難しいことです。アピールできる武器が少ない事実に直面し、転職をしてここから新たな自分の価値を作っていこうと決心しました。
――どのような転職先を希望していましたか?
自由に仕事ができる環境を望んでいました。きちんと整備された上場会社ではなく、何もないところから自分で作り上げ整備することに携われるベンチャーを希望しました。面接をする中で雰囲気が合うかどうかも重要なポイントでした。
――転職に際してどう動いたか教えてください。
将来を迷っている時、先輩の公認会計士(松本さん)に相談した所、「明日履歴書を書いてもってきて!」といわれたのがきっかけで、いつのまにか履歴書を書いて転職活動をしていました!(笑)
その時に、履歴書の添削をしてくださったのですが、会計士用語や文章を、自分が思っている以上に使っていたことに気づかされました。5年いるとその会社の文化に良くも悪くも染まってしまうのだなと感じた瞬間でした。その後、書類が通った会社に何社か面接に行きました。2社目に受けた会社が条件にマッチすると感じて転職しました。
――条件にマッチしたとのことですが、転職先の特徴や入社の決め手は何でしたか?
1社目は明るくて若い人が多く、イベントや部活動も盛んな会社でした。転職活動で何社か面談したなかで、一番雰囲気が合うと感じた会社でしたので早々に決めました。2社目は、50人も満たない小さなベンチャーで土台作りから携わってみたいと思ったことと、人事労務を担当したいと思ったことがきっかけで入社しました。
――転職先での業務内容は何ですか?また、監査法人との違いはどのような点ですか?
転職して最初は、日々の仕訳を請求書の内容ごとに勘定科目や部門を統一することから着手し、決算業務早期化のため業務の見直しを図りました。各部署からヒアリングを行い内部統制の構築を行い、併せて、ワークフローシステムや勤怠システム、労務管理システムを導入し、社員への説明会の開催や、日々の運用チェックも対応しました。経営企画では、予算作成や、規程の策定、取締役会・経営会議等の議題作成や議事録作成等を行いました。現在は、人事面談を人事担当者として実施し、人事評価制度を新しく導入たり、社員のモチベーションアップにつながる運用を考えるなど人事の役割も担っています。
監査法人の時には経験できない業務も述べましたが、一番は日々多くの人との会話が必要なことが監査法人の時との大きな違いだと思います。監査法人の時の会話は適切な会計という目的だけに向かって監査人の立場から話すことができるため、会話に不自由さを感じませんでした。しかし、一歩外に出てしまうと会計士用語は通じませんし、会計士の立場からで一方的に会話するわけにはいかなく、お話をさせて頂く方々の担当する仕事を尊重して監査人のときとは異なる会話のスタンスを大切にしました。特に、上場の準備に向け社内整備を進めるためには、根気強く多くの人へそれぞれが理解してもらえるよう会話を続け、利益と感じてもらえるような社内整備を進め、毎日努力をするしかありません。とても大変ですが、少しずつ頼られるようになっていることを実感できた時は一番嬉しい瞬間だと思います。
――今後のキャリアや展望について、今の考えを聞かせてください。
直近は、上場に向けた準備を本格的に取り組んでいきます。 長期的には、今まではサポートのような仕事がメインでしたので、何か面白いものを生みだす側になりたいなと思っています。そのためにも、会計士+バックオフィス経験以外に、3個目の武器になるものを見つけるのが今の目標です。
――最後に、転職を迷っている方へアドバイスをお願いします。
「こんな仕事がしたいと明確に決まっていないので転職に踏み切れない…」という人が多いかと思いますが、今の自分の環境に対して迷いが大きいのであれば、転職はとても有意義なことだと思います。それでも一歩決定打に欠けるのであれば、「今の自分が何を一番大事にしているか」是非考えてみて下さい。お金なのか自由なのか仕事なのか・・私は「面白い仕事がしたい」が一番でしたので、転職を決意してよかったなと思っています。
また先ほど、最初の転職時に履歴書に書けることが無いという話をしましたが、今自分がもう一度履歴書を書くとしたら、監査法人の5年間より、転職後の2年間の方が、濃い時間を過ごしましたし、他の人より自信をもってアピールできることがたくさんあります!
視点は変わりますが、私は転職したことで、監査法人の時にはあまり感じなかった、会計士の価値の高さを再認識しました。もちろん転職先が会計士に求める期待値は高いので、それを超える成果を出すのはとても大変ですが、監査法人時代に得た経験を多方面に生かすことができるので、改めて公認会計士という資格を取ってよかったなと感じました。一生懸命勉強して得た資格ですので、その価値を最大限活かす生き方を選んでみてはいかがでしょうか。
(インタビュワー:松本ゆうや)
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