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「鬼滅の刃」制作会社 意図的に売上げ隠す脱税にマル査の“刃”  脱税は申告漏れとは違い悪質犯罪

大ヒットアニメ「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」などを手掛けるアニメ制作会社「ユーフォーテーブル」(東京・中野区)と近藤光社長(50)が、脱税したとして東京国税局が東京地検に告発していたことが分かった。通販サイト「ZOZO」の創業者で実業家の前澤友作氏が申告漏れでマスコミに大きく取り上げられたが、「脱税」と「申告漏れ」では比較にならないほど違う。脱税は犯罪だ。「節税」「申告漏れ」「脱税」と内容が全く違うだけに、ニュースを見たら、真実の目をもって内容を理解したい。

同社と近藤社長は、法人税と消費税の計約1億3900万円を脱税していた模様。東京国税局査察部が脱税容疑で東京地検に告発していた。

同社は、東京や大阪など全国でアニメキャラクターを売りにした飲食店を展開。近藤社長は、都内など一部店舗の売上金の3~5割程度を圧縮する形で、毎月1億円から2億円ほどを抜き、金融機関を介さず、現金のまま自宅金庫に保管。15、17~18年分の所得計約4億4600万円を隠し、法人税約1億1千万円と消費税約2900万円を脱税したとされる。

帳簿の改ざんに関しては、近藤社長が経理担当者の妻に指示していた。

近藤社長はマスコミに対して、代理人弁護士を通じ、「ファンの皆さまをはじめ、関係者に心よりおわび申し上げます。持続可能なより良い作品作りに向けた制作環境の整備に向け、法令を順守し、経営の適正化に努めて参ります」とコメント。既に修正申告し、全額を納付したという。

会社はアニメだけでなくショップ経営も

若い方なら知らない方はいないだろうが、年配の読者のために、脱税の前に「鬼滅の刃」について簡単に説明させていただきたい。「鬼滅の刃」は16年2月から今年5月まで少年ジャンプに連載され、19年からアニメ化され、第1巻のDVDはオリコン1位になった。少年ジャンプでの連載は20年5月18日発売号で最終回を迎え、6月5日現在、コミック20巻まで販売されている。

同社ホームページなどによると、同社は00年に設立。「鬼滅の刃」や「テイルズ オブ」シリーズ、「Fate」シリーズなどの人気アニメを手掛けるほか、国内5都市と韓国でカフェやレストランを運営している。09年から18年にかけ、徳島県で開催されたアニメ・ゲームイベント「マチ★アソビ」をプロデュースし、同年10月の3日間で全国から約7万1千人が来場した。

現金商売は脱税しやすい

税金関係の仕事でもしていないと「節税」「脱税」「申告漏れ」の違いが分かる人も少ないと思う。しかし、「合法」か「違法」か「うっかりミスか」とその内容は大きく違う。

節税は、法(租税法)の想定する範囲で税負担を減少させる行為であり、犯罪的手法をもって納税を免れる「脱税」とは違う。国の税金の優遇措置を利用して納税額を低く抑えるのも節税行為であり、ビジネスパーソンなら、年末調整や確定申告時に提出する「生命保険控除」や「住宅ローン控除」などをイメージすれば分かりやすいだろう。中には、富裕層が法律スレスレの節税をすることもあり、「節税」行為自体が悪いことのようなイメージで扱われることもある。

『申告漏れ』というのは、単純な計算の誤りや経費計上の誤りなど、意図的な税金逃れではないものを指す。別の言い方をすれば「うっかりミス」という言葉になるだろう。「税金をごまかそう」という悪意がなく、意図的な工作などを行っていないことがポイントだ。

『脱税』は、「偽りその他不正な行為」により意図的に納税を免れること。悪質性が高く金額も大きいと、検察庁に告発され、刑事罰の対象になる。通常の税務調査は、質問検査権による任意調査のため、納税者の許可を得る必要があるが、国税局査察部が担当する査察調査は、国税査察官が国税犯則取締法に基づき、強制調査を行うことができる。裁判官から許可状の交付を受けて、一定の場所に立ち入って捜索し、証拠物件を差し押さえる。

国税査察官は、脱税の調査については所属国税局長の指揮の下にあり、直接検察官の指揮は受けない。しかし、調査を行う際は、後日の裁判における公訴維持を考慮して、所得の存在を立証する証拠の保全はもちろん、犯則嫌疑者の故意の有無、責任の有無などについても十分配慮することから、調査の過程においては、検察官と密接な連絡を取り、必要に応じて協議している。

ちなみに、脱税に似た専門用語に『所得隠し』がある。こちらは、売上の隠ぺいや架空経費の計上、関係書類の改ざんなどを行った場合に使われる。脱税との違いは曖昧な所もあるが、簡単に言ってしまえば、『所得隠し』か『脱税』かは、その悪質度によって決まる。基本的には、税務調査官が任意調査で発見するのが「所得隠し」であり、査察調査官が強制捜査で明らかにするのが「脱税」だ。

税金のペナルティとしては、納税額を意図的に偽装・隠蔽したうえで、無申告、過少申告を行った場合に課税される。修正申告によって支払うべき税額の35%ないし40%が上乗せされる。

現金を抜く典型的な脱税手法

したがって、同社と近藤社長が脱税の罪で刑事告発されるというのは、よほどのことなのだ。

今回のケースでは、このタマリが3億円も、ご丁寧に自宅の金庫に保管してあったという。某雑誌記者は、現金を自宅に隠していたことを「なんとも杜撰(ずさん)だ」と表現しているが、金融機関に預けていれば、口座情報は国税に筒抜け。架空名義の口座であっても、数字が残っていれば、証拠として真実の持ち主はだれか追いやすくなる。海外の金融口座であっても、OECD において、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換」で把握される。つまり、古典的な脱税手法だが、現金こそ一番把握が難しい脱税手法なのだ。

現金に自分の名前が書いてあるわけではないため、特定しにくい。また、現金が出てこなければ、隠し通せる可能性が高いのだ。

国税における時効期間としての定めは、国税通則法及び地方税法において、原則として法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する。そのため、納税義務は、原則として法定納期限から5年を経過すれば、時効によって消滅することとなる。ただし、「偽りその他不正の行為」によって免れまたは還付を受けた租税については、その時効は、原則として法定納期限から2年間は進行しないため実質的に7年間となる。

脱税でのコメントは皆同じ!?

ちなみに脱税事件では、記者がニュース原稿に告発された法人や個人のコメントを掲載するのは「礼儀」。脱税事件での各メディアのコメントを見てもらうと、まずはファンや取引先、関係者などに謝罪、そして「国税当局の指導に従って修正申告を行い、全額納付した」と決め台詞で終わる。

昔は「担当者不在でコメントできない」ということもあったが、今の時代、携帯電話があるためこれで逃げ切れない。結局、マスコミに脱税情報が入ったら、知らぬ存ぜぬで通すより、早く謝罪してしまうのが一番なのだ。

それに、「国税当局の指導に従って修正申告を行い、全額納付した」という決め台詞は、「告発」されないためにも非常に大事なことなのだ。脱税が明らかになったら、最悪の事態は告発。それを免れるためには、自ら反省し、それを行為として実行する必要がある。つまり、「私が悪かったです。すべて国税の指示通りに納税させていただきます。もう、二度と脱税はしません」と平謝りするしかないのだ。

納税は国民の3大義務。脱税は国家・国民に対する詐欺行為だ。脱税で立件されると銀行も相手にしないとされる。さらに、売上が適正に申告されていたら、社員の給与も増えていたのではないか。社長の多くは、「納税額が増えるなら、社員の給与を上げ、モチベーションを高めた方がよい」という。近藤社長が脱税について会社の社員にどのように説明したのか筆者は知らないが、ファンに謝罪する前に、まずは会社を支えてきてくれた社員に頭を下げるべきではないのかと思う。

今回の脱税事件を含め、税金関係のニュースは、さらっと流される(報道される)ことが多く、書き手の思い入れで、小さなことも非常に悪いことをしたような印象を与える記事も少なくない。固有名詞を見ていくと、その犯罪の深さが分かってくるだけに、読み手として税金用語の基礎は知っておいてほしい。

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著者: 宮口貴志

KaikeiZine編集長

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は一般社団法人租税調査研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャー、TAXジャーナリストとして活動。㈱ZEIKENメディアプラス代表取締役社長。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
https://zeimusoudan.biz/
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