国税庁は『令和元年度 査察の概要』を公表しました。令和元年度においては、経済社会情勢を踏まえて、消費税受還付事案、国際事案、無申告ほ脱事案、社会的波及効果の高い事案などに積極的に取り組みました。注目すべき事案としては、国外財産調書の不提出に係る罰則が初適用された事案や、金地金売買を利用した消費税還付コンサルによる所得を脱税した税理士が告発された事案などがあります。

国外財産調書不提出に係る罰則を初適用
経済社会のグローバル化の進展に伴い、海外取引を利用した悪質・巧妙な事案や海外に不正資金を隠すといった事案が増加している。
国際事案では、令和元年度において25件が告発されたが、中でも注目されるのは、国外財産調書に係る罰則を初めて適用し、売上除外資金を入金していた国外預金に係る国外財産調書の不提出犯を告発した事案であろう。
【事例】
Aは、家具の輸入販売仲介業を営んでいたが、売上代金を他人名義の預金口座に入金するなどの方法で事業所得を除外したほか、同様の方法で所得を隠し、所得税の確定申告を一切しない方法で多額の所得税を免れていた。
また、多額の売上代金が入金された国外預金を有していたにもかかわらず、正当な理由なく国外財産調書を提出期限までに提出していなかったため、国外財産調書不提出に係る罰則を適用して告発した。
海外法人を利用して法人税を免れた情報商材関連会社を告発
最近では、「1日数分の作業で月に数百万円を稼ぐ」「〇万円が〇億円になる投資法」といった投資に関するノウハウを紹介する様々な情報商材が取引されている。
この事案は、情報商材に関する取引などで得た多額の利益を、海外の法人を利用して不正に法人税を免れた事業者を告発した事案である。
【事例】
Bは、投資目的の情報商材のプロデュースなどを行う法人3社を主宰していた。情報商材に関する取引で多額の利益を得たことから、請求書を偽造することにより海外法人に対する架空支払報酬を計上し、法人税を脱税していたが、外国税務当局との情報交換制度を活用するなどして、不正取引を解明し告発した。
架空の宝飾品輸出を装った消費税不正受還付事案を告発
消費税の輸出免税制度などを利用した消費税受還付事案は、いわば国庫金の詐取であり、悪質性が高いことから、令和元年度においても積極的に取り組み11 件を告発している。
以下の事例は、消費税の輸出免税制度を悪用し、取引実態のない宝飾品の輸出取引を装う手口により複数の法人で還付申告を行った消費税の不正還付事案である。
【事例】
Cは、貿易業を営むD社及びE社の実質経営者として業務全般を統括していたが、取引実態がないにもかかわらず、国内での宝飾品仕入を装い架空仕入(課税取引)を計上するとともに、香港法人への販売を装い架空輸出売上(免税取引)を計上する方法により、多額の消費税還付金額を記載した内容虚偽の消費税の確定申告を行い、不正に消費税の還付を受け、または受けようとしていた(一部未遂)。

事業者が国内で商品を仕入れる取引には消費税が課される(課税取引)。一方、国外に商品を輸出する取引には消費税が免除(輸出免税)されることから、事業者が消費税の申告を行なうことで仕入にかかる消費税の還付を受けることができる。
虚偽の住民登録を繰り返していた無申告者を告発
近年では、申告納税制度の根幹を揺るがす無申告によるほ脱犯に対しても積極的に取り組んでおり、令和元年度では過去5年で最多の27件を告発している。
以下の事例は、実際に居住していない住所を住民登録し、さらに頻繁に異動することで事業実態の把握を困難にして申告を行なわず、多額の所得税を免れていたものである。
【事例】
Dは、海外から仕入れた音響機器を国内のネットオークションサイトで販売するなど、多額の所得を得ていたが、実際に居住していない住所を住民登録し、さらに頻繁に住民登録地を異動させることで事業実態の把握を困難にさせて申告を行なわず、多額の所得を免れていた。
消費税還付コンサルにより多額の利益を得た税理士を告発
居住用の賃貸建物を取得した場合、そこから生ずる家賃収入は非課税売上であるため、その建物に係る消費税については仕入税額控除の適用を受けることができない。しかし、作為的な金地金など投資商品の売買(課税売上)を継続して行い、課税売上割合を引き上げることにより、その建物に係る消費税について仕入税額控除の適用を受けることが可能となり、消費税の還付が受けられてしまう(※)。
以下の事例は、不動産投資家に対して金地金売買を利用した消費税還付のコンサルティングを行うことにより、多額の利益を得ていた税理士本人の脱税を告発したものである。
【事例】
Kは、税理士業を営むほか、コンサルティング会社2社を主宰していた。Kは金地金を使った消費税還付の指南により多額の報酬を得ており、所得税の確定申告においてコンサルティング会社に対する架空の支払手数料を計上したほか、コンサルティング会社2社の売上高の一部を除外するなどの方法で8億超の所得を隠し、所得税及び法人税を免れていた。
※この消費税還付スキームは令和2年度税制改正によって、封じられている。
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