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令和元年度 マル査の告発件数は税理士事案含め116件

令和元年度の“マル査”告発件数が、調査件数の約7割に上ることが分かった。国税庁が今年3月までの1年間に行った査察調査は150件。このうち116件を検察庁へ告発している。なかには、税理士が自己脱税で告発されていることも明らかになっている。

告発分の脱税額は調査開始以来過去最低水準に

令和元年4月から今年3月までに全国12国税局(所)の査察官が行った査察調査、いわゆる“マル査”調査の着手件数は150件(前年度166件)となっており、近年、減少傾向が続いている。そして、これに前年までの継続事案を含めたもののうち同年度に処理を終えたものが165件(同182件)と、こちらも減少しているが、処理については事案ごとに期間が違うこともあり、ここ数年は増減を繰り返している。

この5年間の数字をみると、着手・処理ともに最少の数字だが、これは①不正取引の解明に長期間を要する事案が多くなってきていることや、「消費税の不正還付事案」、「無申告事案」、「国際事案」といった日数もかかる重点事案に位置づけた案件を優先的に行っているため。国税当局としては、査察事案に関しては単に係数を増やすことよりも“一罰百戒”的なインパクトのある事案も必要なのだ。

処理事案に係る脱税総額(加算税含む)は処理件数の減少もあり119億8500万円(139億3300万円)とこちらも減少となっている。

着手・処理・告発件数、告発率の状況(国税庁「令和元年度 査察の概要」P7(1)より)
脱税額の状況(国税庁「令和元年度 査察の概要」P7(2)より)

検察への告発率は7割台に

査察調査が終了して処理した事案については、その事案の悪質・高額等の内容を検討し必要があれば検察庁へ告発されることになる。同年度に処理した165件のうち告発されたのは116件(同121件)で、告発割合は70.3%だった。前年度に比べて3.8ポイントも上昇して7割台に復活しており、国税当局が査察調査における事案選定の際に、しっかり告発レベルの事案に的を絞っていることが伺える。告発分にかかる脱税額は、92億7600万円(111億7600万円)と調査開始した昭和48年以来の過去最少水準となり、1件あたりの脱税額は8千万円にとどまっている。

告発事案を主な税目別でみると、最も多いのは、法人税事案で64 件(脱税額56億3600万円)と今回も件数及び脱税額の半数近くを占めた。以下、重点事案の一つである消費税事案が32件(19億7500万円)、所得税事案が17件(16億700万円)で、相続税事案はなかった。業種別(同一の納税者が複数税目で告発されている場合は1者)をみると、平成27年度以降5年連続でワースト1、2 位を占める「建設業」と「不動産業」が今回も独占するとともに、それぞれ19者でワースト1を分け合い、以下、「人材派遣」10者、「下水道管調査」5者と続く。

告発の多かった業種(国税庁「令和元年度 査察の概要」P8 (4)より)

こんなところに脱税資金を‥‥

毎年公表される査察白書で驚かされることの一つに、脱税した資金の留保状況や隠し場所がある。

令和元年度も留保状況としては、現金や預貯金で所持していたほか、高級外車の取得費用や競輪・競馬の購入費用に当てられていた事案も見受けられた。脱税資金の隠し場所については、居宅の金庫内や寝室のクローゼット内やベッドの下に置かれていた複数のダンボールなどのほか、個人名義で契約したレンタル収納スペース内のスーツケースなどが公表されている。

平成29年1月以来の税理士本人が脱税で告発

令和元年度の査察調査も近年市場が拡大する分野や時流に即した事案など、社会的波及効果が高いと見込まれる事案を選び、積極的に取り組んでいる。

主なものとしては、複数の下請業者からの多額の謝礼金収入を申告から除外していた東日本大震災における福島原発事故の除染にからむ建設会社の従業員や、インターネット掲示板への広告掲載により多額の広告料収入を得ていたインターネット広告会社、人気アニメを制作するほか、アニメに関連するカフェ・レストランの営業やグッズの販売等を行い多額の利益を得ていたアニメ制作会社のほかに、平成29年1月以来となる税理士本人が自身の脱税を告発された事案が含まれている。この事案は、税理士業を営むほか、消費税の還付事務などを行うコンサルティング会社2社を主宰する税理士が、所得税の確定申告において架空の支払手数料を計上するなどの方法で所得税約4800万円を免れていたほか、コンサルティング会社2社の売上高の一部を除外するなどの方法で法人税及び地方法人税計約1億6400万円を免れていた。

消費税の不正還付額は総額3億2300万円

次に、国税当局がマークしている重点事案を見ていく。まずは、消費税事案。令和元年度は32件告発しており、この中には国庫金の搾取ともいえる悪質性の高い不正事案と位置づけ積極的に摘発している輸出免税制度を悪用して取引実態のない輸出取引を装う手口による消費税の不正還付事案が、消費税ほ脱犯との併合事案6件を含め11件あり、その不正還付額は総額で3億2,300万円にものぼる。

不正事案としては、東京国税局管内で貿易業を営む会社の実質経営者が、取引実態がないにもかかわらず、国内での宝飾品仕入を装い架空仕入(課税取引)を計上するとともに、香港法人への販売を装い架空輸出売上(免税取引)を計上する方法により、多額の消費税還付金額を記載した内容虚偽の消費税の確定申告を行い、2社合計で約4,800万円の消費税の不正還付を受けていたケースが把握されている。

消費税受還付事案(国税庁「令和元年度 査察の概要」P2 (1)より)

単純無申告ほ脱犯の告発、過去最高の11件

自己の所得を秘匿し申告を行わない「無申告ほ脱犯」については、27件告発している。このうち、故意の申告書不提出など悪質性の高い無申告に厳正に対処するため平成23年に規定が創設された「単純無申告ほ脱犯」が11件含まれており、初めて告発された26年度以降で最も多い件数が告発された。全く申告をしなければ逆に把握されないだろうとの浅はかな考えは決してすべきではない。

ちなみに単純無申告ほ脱犯の事案をみると、大手芸能プロダクション等から衣装デザイン及びコーディネート等のスタイリスト業務を受注して多額の利益を得ていた芸能スタイリスト会社のケースでは、法人税及び消費税の申告義務を認識しながら、法人税及び地方法人税約3,100万円、消費税及び地方消費税約3300万円を一切申告していなかったケースや、競艇選手と結託して勝舟投票券の払戻金による多額の収入を得ていた会社員のケースでは、他人名義で勝舟投票券のインターネット投票を行うことにより所得を秘匿して、平成28年から3年間分の所得約1億1300万円、これに対する所得税約3500万円について所得税の申告を全くしていなかった。

無申告ほ脱事案(国税庁「令和元年度 査察の概要」P3(2)より)

国外財産調書の不提出に係る罰則を初適用

消費税受還付や無申告などとともに近年の『告発重点事案』として忘れてはいけないのが、海外に不正資金を隠蔽したり、海外での得た所得を隠匿する「国際事案」。

ますます進む経済社会のグローバル化に伴い、企業や個人による国境を越えた経済活動も多くなり、そして複雑・多様化する中、海外取引を利用した悪質・巧妙な事案や海外に不正資金を隠すなどの国際的な脱税も跡を絶たないことから、国税当局でも各種資料情報の収集等を行っており、令和元年度も前年度よりも5件多い25件を告発していて2年連続の増加となっている。

国際事案(国税庁「令和元年度 査察の概要」P4 (3)より)

地方税では固資税の軽減措置・特例措置を整備

このなかには、東京国税局管内で投資目的の情報商材のプロデュースなどを行う法人3社の主宰者が、社の業務に関して請求書を偽造するなどして海外法人に対する架空支払報酬を計上していたケースがあり、国税当局では外国との間で締結した租税条約に基づく情報交換制度を活用して不正取引を解明し、法人税及び地方法人税合わせて1億9400万円を脱税していたことが明らかになっている。

一方、日本居住者の国外財産は、諸外国における調査権限や把握体制に制約があることから平成24年度税制改正で、年末において5千万円を超える国外財産を持っている者に、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を翌年3月15日までに所轄税務署長に提出することを義務付けた「国外財産調書制度」が創設され、正当な理由なしで提出をしない場合には罰則が設けられた。同年度では、この罰則が初めて適用された。告発されたのは、大阪国税局管内の家具の輸入販売仲介業者。売上代金を他人名義の預金口座に入金するなどの方法で事業所得を除外したほか、同様の方法で所得を隠すとともに、所得税の確定申告を一切しない方法で約8300万円の所得税を免れていた。また、約7300万円の国外預金を有していたにもかかわらず、正当な理由なく国外財産調書を提出期限までに提出していなかったため、所得税法及び内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書不提出)が適用され、告発された。

告発事件の一審判決は“オール有罪”

気になる告発された査察事件の裁判状況だが、同年度中に一審判決が言い渡された件数は124件で、その結果はすべての事件で有罪判決が下され、5人に実刑判決が出されている。1件当たりの犯則税額は4700万円で、懲役月数は15.5月、罰金額は1200万円で、実刑判決で最も重かった事件は、査察事件単独が法人税法違反事案の「懲役10月」で、他の犯罪と併合されたものでは詐欺罪等を含む消費税法違反事案の「懲役9年」だった。

査察事件の一審判決の状況(国税庁「令和元年度 査察の概要」P8 (5)より)

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著者: イーター侍

税金ライター/元税金専門誌編集者

四半世紀以上、税金専門誌の編集者として国税庁、国税局、税務署、会計事務所に出入りする。数年前に独立した後、編集者時代に築いた人脈をいかし、ネットワークビジネスを手がける。その傍ら、趣味と副業を兼ねて税務関係ニュースを追いかける“中年ライター”だ。

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