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【シリーズ】コロナ禍で2020年IPO市場はどう変わったのか?②ポイントは業績安定性だった

第一回では、コロナ禍で2020年IPO市場にどのような影響をもたらしたのかを、東京証券取引所における上場承認会社数の推移(月別)データから読み取れる大枠の話をしました。
今回は、業績安定性の組立てかたの特徴にそれぞれの工夫がある3社の上場申請Ⅰの部および最近の決算短信から、情報を整理しご紹介します。

1.ヤマエ久野(株)

ハイライト情報

2016年3月期から2020年3月期の4期間で売上高が3,687億円から5,221億円へと約1,534億円(41.6%)増加していますが、この時期に関係会社の多くを確保(17社の企業買収を実行)し74・75期の2期間で食品関連事業の収益拡大(662億円)並びに住宅・不動産関連事業の拡大(283億円)の足固めをしているものと見受けられます。

 

会社の事業内容

事業内容は物流機能を伴う食品関連・糖粉飼料畜産関連並びに住宅不動産関連事業の主要3事業を持ち、社歴70年の中で近年の企業の買収等を経て安定的な基盤を有するようになったものと思われます。

 

収益基盤及び事業等の特徴

全体売上の73%で従業員も67%を占める「食品関連事業」が主要部門となっています。

利益貢献では「糖粉・飼料畜産関連事業」と「住宅・不動産関連事業」が合計で65%を占めており、3事業部門がバランスよく全社への収益・利益貢献をしている状況が見てとれます。

また、生産性の面では一人当たりの指標が「糖粉・飼料畜産関連事業」が突出して高く、鹿児島県・宮崎県の畜産農家(業者)等を安定顧客に九州地域の取引先を収益基盤となっているものと推測され、今後は関西・関東への進出が期待されるものと思われます。

反面、セグメント別売上高の3/4を占める食品関連事業の部門利益率が0.5%と低いことで全社売上総利益率が9%前後の水準となっており、食品卸としての物流運送機能を主として担っている面が強いことで売上に対する付加価値が低めになっているものと推定されます。

売上高が5千億円を超える事業規模からの安定性はありますが商品付加価値という面では今後の課題かと思われます。

他方、財務面では借入(有利子負債)比率が20%程度で営業債権・棚卸資産に対する営業負債のバランスもよく、厚い内部留保等での財務的安定性も高いものと見受けられます。

全体的に収益基盤や事業セグメントの基幹がしっかりしているとともに1975年に福岡証券取引所への上場時以降に顕著な増資等は見られませんが、安定的な収益を背景とした潤沢な内部留保により財務基盤も堅固な印象を持ちます。

事業買収による成長性とともに、財務的な安定性の両面で安心感のある事業会社と思われます。

2.株式会社松屋アールアンドディ

会社の事業内容

連結ハイライト情報

高い売上高成長はカーシートカバーの新車種立ち上げ並びに取引先の生産移管等によりエアバック商品事業の増収など近年2桁成長をして来ている反面、売上総利益率が2018年3月期に比べ減少しており新規事業等への先行投資など効率性に課題のある状況と見受けられます。

売上総利益率は2018年3月期の水準にはまだ追いついていませんが、2019年3月期で底を打った印象です。

また、今期の業績も当初見通しに比して上方に改善しており、今期はコロナ禍の影響は受けていない状況です。

しかし、来年度の業績見通しについては新型コロナウイルス感染症拡大の影響により業績予測が困難なため決算短信上は開示されていません。

 

収益基盤及び事業等の特徴

主要製品は自社技術を背景とした縫製自動機事業のほか縫製品である「血圧系腕帯」・「カーシートカバー」・「エアバック」が主要製品です。

収益のベースは自社製作の縫製自動機技術が基本ですが、これによる明確な縫製製品のラインナップを3種類有し、特定の製品に偏ることがない製品構成であると共に主要取引先も5社にバランスよく分散した事業構造かと思います。

 

主要製品売上高推移

主要販売先取引高推移

下記の円グラフの様に直近は主要取引先5社で85%を超える依存率ですが、自動縫製機器の開発技術を背景に縫製製品の供給先を健康機器業界並びに自動車業界という主要産業に軸足を持ち大手企業を主要販売先に有している点は安定性を感じさせる事業構造かと思います。

当社も自動縫製機技術をベースとし全体的に商品並びに取引先等の収益基盤や事業セグメントの基幹がしっかりしているとともに、直近期の二桁収益拡大を達成し今後もその基盤が大きく揺らぐことがない安心感があります。

また、未公開時点での財務体質は有利子負債がおよそ30%程度ありますが自己資本比率が40%と高く財務基盤も堅固な印象を持ちます。

なお、主要事業部門であるカーシートカバー事業については製造・販売を目的として2017年に事業買収がなされていますが、今期までに収益の柱に成長している点は事業の多角化並びに拡大において事業買収が寄与した典型例と言えるでしょう。

いづれにしても企業成長をする上でM&A・企業買収による事業再編は有力な経営手法と言えるでしょう。

3.株式会社エコミック

会社の事業内容

会社設立は1997年の社歴23年の企業ですが、資本関係は2000年にキャリアバンク(株)傘下の子会社となり設立わずか11年の2006年には札幌証券取引所アンビシャスへ上場をはたしています。

ハイライト情報(連結経営指標等)

ハイライト情報からは、安定的な売上高成長率(10%以上)と高い売上高経常利益率(10%前後)は魅力的な点かと思います。

また、既存株主への配当性向が30%を維持しており、「利益還元を経営上の重要な課題」と考えている点は注目すべき点かと思います。

 

収益基盤及び事業等の特徴

 

当社の事業は「給与計算のアウトソーシング」業務を収益の柱とし、企業の人事・総務・経理業務のサービス提供を行っています。

当該業務は一過性のサービスというよりは一度受託すると顧客との関係が継続的にサービス提供するストック的な業務の特性を持ち、安定的な事業構造となっているものと思われます。

また、売上総利益率が30%前後で、海外中国子会社へのアウトソーシングによる人件費負担を軽減する等、効率的な体制を作ることでこの利益率を維持しているものと思われます。

この事で連結利益が単体利益に比して高い連単倍率を生み出しているものと思われます。

 

まとめ

これらの新規上場会社の特徴を見ると業績の安定性と成長性に共通した特徴が見られ、成長軌道を改めて見てみると「M&Aあるいは事業再編・提携等による企業成長と事業基盤の安定化」は経営として競争優位に事業を進めるための必須の手経営法であることが再認識できるものと言えるでしょう。

 

3社の株価指標(P E R / P BR)から見る投資期待性

公開後の株価・経営指標

6月25日時点の株価を基準とした3社の株価指標(P E R / P B R)は以下の通りです。

財務指標の違いによる株価水準

企業評価を考慮する場合、財務諸表分析の3指標である「安定性」「収益性(効率性)」「成長性」の視点で見ることが通例です。

3社ともに収益の「安定性」「成長性」が高い会社と思われますが、株価に対する指標は分かれた評価となっています。

松屋アールアンドディ・エコミックはPER/PBR共にほぼ同水準となっていますが、ヤマエ久野は低めとなっており、特にPBRについては純資産倍率が1.0を割込んでおり将来のCash-Flow期待が比較的高くないことを意味している様に解釈されます。

この背景として自己資本利益率の指標を比較すると、松屋アールアンドディやエコミックの2社は10%を超えていますがヤマエ久野が3.8%と5%水準を下回っている点が違いの特徴と見ることが出来るでしょう。

この特徴の背景の一つとして、ヤマエ久野の社歴が70年と長く内部留保が厚い割には利益水準が他の2社に比してあまり高くないことが見受けられます。

松屋アールアンドディは内部留保が同様に厚いですが、自己資本利益率を見るとそれに見合う利益水準と言えるでしょう。

またエコミックは配当性向が高くその結果、内部留保を含め自己資本に対する利益が相対的に一定水準を確保されている点が見受けられます。

いづれにしてもこの3社を比較する限りは、自己資本に見合う投資の効率性も株価への重要な影響要素と言えるのでしょう。

 

なお、付け加えると次年度業績予測を開示しているエコミックは純資産倍率だけを見ると他社より高めとなっています。

また、総資本利益率を比較するとエコミックが最も高く頭ひとつ出ている印象です。

他方、増資後の指標比較をするとエコミックが他の2社より低め指標になりますが、株価に関しては増資前の財務内容が重視されている様に見受けられます。

 

新型コロナウイルス感染の収束は首都圏を中心に見通しが立たない状況です。

コロナ禍で2020年IPO市場はどう変わるのか、今後も動向に注目です。


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著者: 水上 亮比呂

公認会計士

元大手監査法人公開支援部門パートナー。主として公開準備業務や、上場会社の監査・財務調査等に関与。現在は複数のベンチャー企業に社外役員等として関わる。
株式公開支援業務では、 中堅企業・ベンチャー企業を対象として、財務会計制度、利益管理制度及び原価計算制度等の構築や連結決算制度を含むグループ管理のコンサルティング業務並びに会計監査業務に長年従事。関与業種は流通・サービス業、Technology- Media- Telecommunications(TMT)、バイオベンチャー等。法人内のインダストリー活動(コンシューマ及びライフサイエンスグループ(LSG))に関与し、テクノロジー企業における経験も豊富。著書に「株式公開全ノウハウ」(共著 日本経済新聞社)、「経理規程ハンドブック」(共著 中央経済社)、「ベンチャー企業の設立・運営&株式公開がわかる→できる」(共著 ビジネス社)がある。

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