今回紹介する事例は、貿易業を行う会社が、輸出取引金額の10%相当額をオーバープライス取引であるとして「預り金」に計上したところ、国税当局から当該金額は「預り金」ではなく「売上」に当たると指摘された事例です(平成1年6月30日付、非公開裁決)。
本事案の事実関係
- 貿易業を営むX社は、エジプト国所在のY社との輸出取引において、取引金額の90%相当額を売上金額とし、残額の10%相当額はY社からの預り金として計上していた。
- この取引について、税務署は、預り金はX社の輸出売上金額の一部であり、売上金額の計上漏れであるとして、課税処分を行った。
- X社は、本件取引は、相手国の外貨事情の悪化により外国への送金が容易でないため、買手と売手とが合意の上実際の取引金額に一定金額を上乗せして取引を行い、輸出代金の入金後に、この上乗せ額を買手に返金するといういわゆるオーバー・プライス取引(以下「OP取引」)であると主張した。更に、実際の取引金額に11%の金額を上乗せした金額で契約し、商品を船積み後、この入金額の10%相当額を返金するため、パリ所在のAを通じてBあてに送金することを条件とする契約が存在していた等の主張をし、処分の取り消しを求めて審査請求した。
審判所の判断
① 「預り金」は妥当か
- 一般的にOP取引が行われる場合には、最初に取引当事者の間で個々の商品等の取引価格を確定させ、次にその実際の取引金額に両者が合意した上乗せ金額を加算して取引されるので、その上乗せ金額については、取引成約に至る過程での価格交渉の記録等によって確認し得るのが通常である。
- 本件の場合、契約書はなく、本件契約に関する契約内容・契約事項等についての社内記録等、本件契約が締結されたことをうかがわせるに足りる資料の提出もない。また、個々の取引の価格交渉の過程において上乗せ金額があったことを確認し得る資料もない。
- このように、OP取引であるとする明らかな証拠がなく、上乗せ金額が特定できないことから、本件取引はOP取引には該当しないと判断するのが相当である。
- したがって、本件においては、単に「契約金額の10%相当額をBあてに送金する。」という内容の合意があったとみるのが相当である。
- したがって、請求人が預り金として会計処理した取引金額の10%相当額については、売買当事者間で取り決めた取引金額の一部であるから、当該金額を売上金額として計上すべきものである。
② 「預り金の返金」はどう扱うべきか
- 本件返金については、X社が、Y社及びBから本件取引に係る情報提供や取引あっ旋等の役務を受けた事実は認められないから、これを支払手数料と判断することはできない。
- また、この送金がリターン・コミッション(戻し手数料)であれば、Y社に支払うべきであるところ、本件の場合Bあてに送金されており、Bの実態も不明である。よって、リターン・コミッションと判断することもできない。
- つまるところ、本件返金は、X社とY社との取引成立を契機に、Y社から支払いを求められたリベート(取引謝礼金)の支出というべきで、この金員をY社の関係者が実態不詳のBを本件送金の受け皿的存在として介在させ、これを受け取ったとするのが相当であるから、交際費等の支出に該当することになる。