原処分庁が更正をする場合、各財産取得者の相続税課税価格が更正の前後で異なる額となり、当初申告で選択した端数調整方法(相基通17-1)を用いると、各財産取得者の意に反する結果となる恐れがあることから、通達で定める方法を用いることができるのは限定されるという判断が示されました。

国税不服審判所令和元年8月19日裁決(国税不服審判所HP)

1.事実関係

本件は、請求人らが相続により取得した宅地の価額について、財産評価基本通達(評価通達)25を適用し、法人に賃貸している土地は借地権[1]の価額を控除した後の価額によることが相当であるとして相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該土地の一部について「土地の無償返還に関する届出書」が提出されているから、当該届出書の提出があった場合の貸宅地の評価の定めにより評価した金額によることが相当であるとして更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、当該届出書は、その記載内容に誤りがあるから無効であるなどとして、更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

請求人らが相続により取得した宅地は大きく薬局敷地と病院敷地(両者を併せて本件評価対象地)に分けられる。前者は薬局建物が建設された昭和55年以降平成21年8月まで借主[2]に無償で賃貸されており(権利金もなし)[3]、当該土地の無償返還に関する届出書は提出されていなかったのに対し、後者は医療法人[4]設立(平成6年)から同法人に有償にて賃貸されており(同様に権利金なし)、平成12年には、原処分庁に同届出書(本件届出書)が提出されていた。


[1] 本件において評価の対象となった地域の借地権割合は50%であった。

[2] 借主は昭和54年12月に設立され、被相続人(亡父)の妻及び請求人らが全株式を保有する同族会社である。

[3] ただし、平成21年9月以降は、薬局敷地について、同族会社が被相続人らに地代を支払っていた。

[4] 医療法人は、平成6年4月に設立され、平成19年3月までは被相続人が理事長であった。

2.争点

本件評価対象地の評価に当たり、相当地代通達[5]を適用すべきか否か。


[5] 「相当地代通達」は、正式名称を「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日付直資2-58ほか1課共同、国税庁長官通達)といい、その8《「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の貸宅地の評価》は、借地権が設定されている土地について、土地の無償返還に関する届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価する旨定めている。