今回お話を伺ったのは60余年と続く老舗税理士法人第一経理グループ5代目の代表、齋藤正広氏。税理士を目指されたきっかけから新卒でご入社されてからのキャリア、この業界ならではのやりがい、長年事務所を構えることができている秘訣等についてお伺いしました。(取材・撮影:レックアドバイザーズ 村松)

税理士としてのキャリア

―大学時代に税理士を志したとのことですが、そのきっかけについて教えてください。

齋藤:きっかけはある本に出会ったことです。順を追ってお話をすると、まず、私が大学に入学したのは、バブルの直前で、就職も、皆一流企業に就職できるので、資格を活かして働こうという人は少ない時代でした。当時は、大企業に就職して、一生同じ会社に勤めて、マイホームを買って…という人生が当たり前の時代。しかし私はそういった生き方は面白くないと思っていました。もっと自分の力を活かして、誰かの役に立てる仕事をしてみたかったのです。

誰かの役に立ちたいという気持ちは、在学中からありました。助け合いの精神から成る大学生協の活動をしたり、発展途上国の飢餓について1千人ほど集めた講演会を学内で開いたり。原爆が落とされた8月6日、9日には広島や長崎で、学内の学生を対象にフィールドワークも行いました。普段の大学の授業では聞けないような話を、大学生が現地で被爆者から聞くわけです。集まった皆は本当に感動して、平和に関する問題に関心を持ってくれるようになりました。「皆のその後の人生に、少しでも役に立つことができた」と感じられて、とても嬉しかったです。

このように学生生活は充実していましたが、何の職に就きたいかは明確に決まっていませんでした。そして自分が将来やりたいことは一体何かと考えていた頃、たまたま山本守之先生の『税理士になる法』という本に出会いました。税理士とは、中小企業のお客様と向き合いながら相談に乗り、支援する仕事だと書いてあったのです。学生時代に取り組んでいた平和に関する問題は規模の大きな話です。しかしこの本を読んで、もっと身近に助けを必要としている人たちがいることを知り、その人たちを助ける税理士になろうと思いました。

第一経理でのキャリア

―新卒で第一経理グループにご入社、キャリアを築かれていますが、どのようなことにやりがいを感じていらっしゃったのでしょうか?

齋藤:顧客に貢献できていると実感できることです。「顧客」とは、社長も含めての会社全体です。お話しするのは社長が多いけれども、社長の志を実現するお手伝いをしたいと思っているなら、その会社自体を良くしなければいけません。

経営をしていく中で、いろいろな問題点が出てきますし、中には社長本人が気付けていない課題もあります。だからこそ私は、社長の言葉を聞くだけでなく、現場を見せてもらいます。現場を見せてもらうと、工場長さんはとても喜んで「うちはこういうものを作っている。これがうちの強みなんだ。」と教えてくれる。そうして現場の人と話して信頼関係を築いていくと「社長の味方というよりも、この会社のために来てくれている。」と思ってもらえます。すると、何かあったときには、従業員が私に相談してくれるようになるのです。「会社全体をサポートしている」と発信し続けていたからこそ、会社内の危機に素早く対応できたこともありましたし、とてもやりがいがありました。

―独立などはお考えにならなかったのでしょうか?

齋藤:それは全く考えませんでした。私が税理士になったのは40歳なのです。入社して、試験勉強を始めて、最後の1科目だけ6、7年かかりました。23歳から17年間も、よく試験勉強が続いたなとは思います。5科目受かったあとはすぐ役員になりました。

―先ほど、現場に入って信頼関係を築くとのことでしたが、他に意識されてきたことはありますか?

齋藤:やはり社長の思いを知ることです。我々はどうしても会計人だから、数字から入ってしまいますよね。しかし、社長がどういう思いで経営をされ、どういう会社を目指しているのかをお聞きする。そこが共有できていないと、社長から見れば単なる税金を安くしてくれる人になってしまいます。

私も今、代表という立場になって、社長の気持ちが身に染みて分かります。社長というのは、全てを社員に話せないし、相談できない。同業者にも話せないことがある。経営について思い悩むことも日々たくさんある、孤独な存在なのです。そういったときに、自分の思いを理解してくれて、その上で専門的な話をしてくれる人というのは、とてもありがたい。私自身も悩んだときに、懇意にしている弁護士さんに相談します。「それは専門家としてはこう考えます。代表がこう思っているなら、こうした方がいいですね。」と言ってもらえると、心からほっとしますよ。普段とは逆の立場になって、改めて社長にとって自分がどういう存在だったのか分かりました。

経営についてと今後のビジョン

―代表という立場から、今後についてどのようなビジョンをお持ちでしょうか。

齋藤:社員には、中期経営計画の中で「税務中心からの脱皮」と伝えています。今は税金の相談というものはあまりありません。それよりも、採用が上手くいかない、採用してもなかなか定着しないといった人の問題について相談されます。ITに関するご相談も。当社では人材派遣も行っています。こちらも需要が増えており、お役に立てていると感じています。

中小企業が本当に良い会社になっていくお手伝いをしていきたいですね。

―本当に良い会社とはどのような会社だとお考えですか?

齋藤:本当に良い会社とは、社長の思いが社員全員で共有できており、社員が生き生きと働いている会社だと考えています。うちも、それを意識していますし、業界の中では勤続年数が長いと思いますよ。

―転職される方が多い業界の中で、確かに第一経理さんは長く勤めていらっしゃる方が多い印象です。秘訣や意識されていることはありますか?

齋藤:第一経理がここまで来られたのは、先輩方がいて、今の社員が頑張っているから。なので人財を第一に掲げています。残業も少ないですし、ボーナスも私が入社して以後は年間5か月のボーナスを必ずお支払いしています。

また、きちんとした人事評価制度もあります。自己評価を踏まえて直属の上司の一次考課、二次考課を経て、毎年定期昇給額を決める。つまり、会社からどのくらいの給料やボーナスが支払われるかが公平に保証されていて、社員は自分の人生設計ができるのです。

また、66年も組織として続いてきた秘訣は、私を含めて今まで5人の代表が「中小企業を守る砦になりたい」という共通の思いで働いてきたこと。そしてトップダウンで決める会社ではなくて、皆で考え、皆で決めていることです。第一経理は5つの会社が一体になったグループですが、皆が同じ第一経理グループという意識で働いています。そしてこれはお客様にご安心頂ける材料にもなります。何かあっても第一経理に相談すれば、社労士、司法書士、行政書士がいるし、何でも相談できる。ワンチームで、ワンストップを追求するというところが、私たちの強みかと思います。

―ワンストップサービスは、今後の業界にとって重要なポイントになると思います。これからの会計業界がどうなっていくのか、その中で代表としてどうしていきたいか、教えてください。

齋藤:新型コロナウイルスの流行で、ITについていけないといった理由からさらに廃業が増えています。そして、この非常時に社長がまず相談するのは、税理士法人、会計事務所です。税務の相談は減ってきている一方、経営の相談は環境が厳しくなっていく中で、さらに必要とされているはずです。社長にとって自分の思いや悩みを打ち明けられる存在でありたいです。

当社の社員アンケートを取ったときに、この仕事で何が一番嬉しかったかというと、ほとんどの社員が「お客様に喜ばれたこと」と書いていました。私はこれに、とても希望を持っています。皆がお客様の喜ぶ姿にやりがいを感じているというのは、今後の第一経理の力になっていくはずです。

ITの進歩で実務の部分が軽減されているので、もっと相談に乗れる時間も取れるし、もっと考える時間も増えてくるでしょう。可能性は、より広がっていると思いますよ。

KaikeiZineの読者へメッセージ

最後にKaikeiZineの読者の方へメッセージをお願いします。

齋藤:普通の職業では、経営者の方々とお話しができる機会はそれほどないのではないでしょうか。会社を経営している方は、志の高い方が多いのです。私も人生の師匠だと思える社長に何人も会っています。いろいろな人に会えて、自分も成長でき、お客様にも貢献できる魅力的な職業だと思うので、是非頑張ってもらいたいと思います。

【編集後記】
志の高い経営者の方々に貢献できる魅力的な仕事である、ということが伝わってきました。
ありがとうございました!

第一経理グループ

税理士法人第一経理
株式会社第一経理
司法書士法人第一法務
社会保険労務士法人第一コンサルティング
行政書士法人第一パートナーズ

●設立

1954年1月

●所在地

東京都豊島区南池袋1-13-2 第一経理ビル

●理念

1. 私たちは納税者の権利を守り中小企業と国民を大事にする税制を目指します

2. 私たちは中小企業のよい会社づくりを通してお客様の満足を追求します

3. 私たちは身近でかけがえのないコンサルタントを目指します

4. 私たちはお互いに成長し、豊かさを創造する職場づくりを目指します

●企業URL

https://www.daiichi-keiri.co.jp/

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