今回お話を伺ったのはコーポレート・アドバイザーズ グループ代表、公認会計士・税理士の中村亨氏。監査法人トーマツ(当時)からコンサルティングファームを経て独立、250名を超える組織を先導する実力派会計人にこれまでのキャリアから経営、会計業界の今後についてのお話を伺いました。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 村松)

公認会計士としてのキャリア

公認会計士を志した理由は何でしたか?

中村:資本主義や経済への興味と独立心が会計士を志した理由です。

大学は早稲田大学の政治経済学部だったので、そこには経済学の素晴らしい先生がたくさんいました。あるとき先生が「資本主義とは何か?」と問いかけてきたのです。その先生が出した答えは、「資本主義と共産主義の違いは、株があるかどうか」というものでした。

そこで資本主義の根本となる株、そして株式会社の資本の部分に関わる仕事がないのかと考え証券会社や銀行に就職活動をすることにしました。ただ当時の金融業界は不祥事が頻発していましたし、バブル経済崩壊の余波もあり、OB訪問に訪れた際の先輩方があまり楽しそうに仕事をしているように見えません。

そんな時に公認会計士という資格を知りました。試験は難しいものの、会社に属するだけではなく独立という選択肢があるという点にも惹かれ、会計士を目指すことにしました。

独立までのキャリア

トーマツにご入所されてから独立までのキャリアについて伺いたいです。

中村:トーマツには7年いましたが、おそらく上の人からは、3、4年目くらいまで扱いにくいと思われていたと思います。

しかしある時、業績が悪く、粉飾も疑われるリスクのある会社の担当に「中村なら絶対やれる」と推薦してくれた上司がいました。普通の会計士は潰れそうな会社を担当したくないので、皆サーッと逃げるんです。それでも僕は引き受けて、そしていとも簡単にやってしまった。これが僕の監査法人時代のメモリアルワークになりました。それからは周囲も認めてくれて、5年目くらいからは同期よりも高い評価をもらえるようになりました。

そのようにして自分に自信を持つことができるようになってきた反面、どこかで「この業界を変えないといけない」という気持ちも持つようになりました。

会計士の仕事は、お客様を見ながらもマーケットを見て、適正意見を出すこと、つまり中立でなければいけないのです。現在は様々な粉飾事件を経て、監査をする側と受ける側が適切な距離を保とうとしていますが、当時は「先生」と呼ばれて監査先から食事をごちそうになることがとても多かった。しかしそのような問題提起をする人はいませんでした。

また、新卒の22、23歳で上場企業の役員から「先生」と呼ばれることにも、大きな違和感がありました。

この業界をもっと活性化したい、そのためには業界のトップ、まずはトーマツのトップにならないといけない。そう思って7年頑張ってきて、「あいつは言うだけのことはあるな」と周囲の人も認めてくれるようになった頃、次々とベンチャー企業が生まれたベンチャーブームが起きました。マザーズやナスダックジャパンが創設され、時代が大きく変わっていくことを目の当たりにする中で、監査法人でトップを目指すか、監査以外の仕事にチャレンジするかを考えるようになりました。

もともと持っていた独立心も背中を押し、結果的には「チャレンジ」を選びました。トーマツを退職し、IPOコンサルティングの領域に足を踏みだすことにしたのです。

その頃は外部の人とも頻繁に飲み会をしていましたね。仕事に直接関係のない初対面の人たちとの飲み会で、プレゼン力や自己アピールの技術を学んだのかもしれません(笑)

独立後、組織をここまでの規模に成長させるまでにはご苦労はありましたか?

中村:いや、苦労と思ったことがないです。仮説を立てて、実践して、修正していく。もちろん初めはその繰り返しの中で、ほとんどのことは思った通りにいきません。でもそれを苦しいとは思わない。自分がその繰り返しを好きで楽しいと思えるからです。

とにかく、経営オタクというか、会社を経営することが大好きで、天職だと思っています。

一般的に大変そうに見えることがあっても、迷わず進んでいらっしゃるという印象を受けます。そのように進むことができる理由はあるのでしょうか。

中村:まず、「自分ならできる」と思うことです。全くネガティブなことは考えません。できるという信念をもとに、まずやってみる。成功している人のマネをする。

周りから見ると、何も考えずに突き進んでいるように見えるかもしれませんが、もう一方の自分では、常にプランB、プランCと考えています。

経営についてと今後のビジョン

トーマツ時代に業界を変えたいという思いをお持ちだったとのこと、経営者になった今、業界に対して、どのような思いをお持ちですか?

中村:KaikeiZineのコラムにも書きましたが、今は「税理士離れ」が顕著で、受験者数は10年で4割減少しています。そして税理士・会計士ともに、キャリア不安が強い。特に会計士というのは、会計の資格の中で最も強いもので、独立できる可能性もあるものです。それを持っているにもかかわらずキャリア不安があるということが信じられません。

これはとても残念なことです。なぜ会計士になりたかったのか、何がしたいのか、自分の仕事によって何が変わっていくのか、これを大切にしてほしいです。

私くらいの年齢までは公認会計士の資格を取ることはつまり監査法人に就職することでした。資格と職業が一致していたので会計士の二次試験が監査法人に入るための試験のようなものでした。

今は会計士に受かったら、例えば事業会社に就職するとか、ベンチャー企業や外資系など多岐に亘るキャリアがありえます。それで良いと思います。

アメリカだとゴールドマンサックスのトップが財務長官になる、スタンフォード大学の学長がGoogleへ行くといった横の移動がありますが、日本ではありません。日本の場合、キャリアは縦にしか動くことができないですし、監査法人を辞めると監査法人に戻ることができなくなってしまいます。

そういった観点で見ると、会計税務業界の活性化が遅れているように感じられます。

資格をもって、業界に縛られずに社会の中で活躍してほしいということでしょうか。

中村:そうですね。私は経営をやっているので、自身の商売としては、若い優秀な人が入ってきたら競争は激しくなります。しかしそうはいっても、経済学部や商学部に通う大学生にとって、税理士や会計士が将来希望するキャリアの大黒柱になってほしいという思いもあります。

そもそも若い人の受験が増えない、ということは魅力がない、給料が上げられていないということだと考えています。

ですので、そういった人材を増やしていくには強い事務所がさらに強くなって、給料と生産性を上げて、業界の魅力を高める必要があります。さらに資格取得後の教育研修制度を整えて、プロフェッショナルを育てていくことも重要です。

現在、メディアからは「AIにとって代わられる」とも取り上げられていますが、AIの台頭についてはどうお考えでしょうか。

中村:むしろ生産性が高くなると思います。普段から「作業ばかりやっている」と感じているならAIを入れると仕事がなくなるかもしれません。しかしAIができない会話やコミュニケーションの部分に自分の仕事の重きが置かれているとしたら、AIの普及を恐れることはないと思います。

経理事務員の95%がAIに代わられるとか言われますが、それでも残る部分はあるわけです。お客さんはなくならないですから、自分がその残る5%に入るために考えていけば良いと思います。

今後は、業種はなくなって、業態だけが残ると思います。会計事務所と弁護士事務所と、と分けたものではなくなっていくと思いますね。

そういった中で、会計士・税理士の役割についてはどう思われますか?

中村:十分役割はあると思います。税務申告書は独占業務ですし。会計士にいたっては監査法人がやっている会計監査は独占業務です。もし会計士の資格を持って経理部長をされているとしたら、他の経理部長よりも仕事の進め方や分析力といった力は断トツだと思います。プロフェッショナルなスキルはあるわけですから、心配する必要はありません。

だからこそ、転職をする若者もプロフェッショナルを目指す一方で、プロフェッショナルにしてくれる事務所を選べばいいと思います。

プロフェッショナルにしてくれる事務所とは、どのような事務所だとお考えですか?

中村:自分と向き合える事務所でしょうね。自分が何をしたいのか、どういう長所・短所をもっていて、どういった方向に進むべきなのか。それを考えさせてくれる事務所がいいと思います。

採用する側になって、「自分と向き合う」ということについて、さらに必要性を感じるようになりました。応募者を見ると、自己認識の低い人が多かったのです。たとえば「自分がここでこういう発言をしたら、相手からどう思われるだろう」と考えない人が多いような気がします。自分が周囲からどう思われているかをしっかり認識することが大切です。

御社ではチーム制を採用されています。これも「自分と向き合う」ということに繋がるのでしょうか。

中村:そうです。複数のクライアントに対して、複数のメンバーで関わる体制を作っています。これは会計人にとっても、クライアントにとっても、双方の成長に非常に有効です。

会計人にとっては、複数のお客様からマルチタスクを要求されるので、よりたくさんの成長の引き出しを開けることができます。もしこれが一対一の関係だとしたら、対人関係も知識も具体性を抽象化できないのではないでしょうか。

クライアントから具体的な質問が来て、それに対して具体的な回答だけを返していたのでは、税理士・会計士は成長しません。その具体的なことの周辺に関わる仕事や知識を多く得ることで、具体的な知識が抽象化されます。自分なりの税務や会計の体系ができるので、逆にどんな質問にも回答できます。これこそが会計人を育てることになるので、所員にはいつもこの具体的なものを抽象化する、ということを考えさせていますね。

もちろんクライアントにとっても、担当が変わるということは新しい視点を取り入れられるというメリットがあります。窓口は変わりますが、チームでサービスを提供しているという意識ですね。

中村:チームといえば、コロナ禍においても組織が一丸となって動いていました。というのも、クリニックのお客様も多く、4、5月は助成金や雇用調整金、リストラ、融資、そういった相談をほぼ毎日のように受けていました。一般事業会社も中小企業は同じような状況でした。お客様から求められている以上、衛生環境はしっかり整えた上で、コロナ日当を出して所員には頑張ってもらいました。ただし、幼稚園や保育園が開いておらず預けられない所員は、優先的にテレワークに移行しました。

多くのクライアントが逆境の中にいるからこそ、それを支える所員の士気も高かったのではないかと思います。

KaikeiZine読者へメッセージ

私は、税理士・会計士とは「自分の人生を自分で舵取りができる資格」だと考えています。合格日が、人生に勝利した日ではありません。資格は目的ではなくて、あくまでも手段。取った後にどう成長していくかが大事なのです。

自分がいかに成長できるか、プロフェッショナルとしての技術を磨くことができるのかを考えて、素直にやりたいことをやってほしいと思います。

【編集後記】
常に企業を取り巻く社会や経済の未来を見つめていらっしゃる中村代表。会計人も資格を取得した先の将来を見据えることが重要ということですね。ありがとうございました!

日本クレアス税理士法人|株式会社コーポレート・アドバイザーズ

●創業
2002年9月

●所在地
東京都千代田区霞が関3丁目2番5号 霞が関ビルディング33階

●理念

LONG  TERM GOOD RELATION

●企業URL
https://j-creas.com

 

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