国税OB税理士が監修。公認会計士・税理士・会計事務所・企業経理担当、税金・会計に関わる“会計人”がいま必要な情報をお届けします!

KaikeiZine

注目キーワード

酒井克彦の「税金」についての公開雑談~トイレと税制~

近頃逝去したアメリカ合衆国連邦最高裁判事であった故ルース・ベイダー・ギンズバーグ女史(Ruth Bader Ginsburg、1933年3月15日-2020年9月18日)が、当時数少ない女性法律家として多くの苦労をしたことは広く知られたところでしょう。彼女が1956年にハーバード大学に入学したときは、500人の男子学生に対して、女子学生はたった9人だったといいます。数ある校舎の中で女子トイレがあるのは一棟だけであったというのですから、いかに女性が冷遇されていたか「トイレ」から見て取ることもできそうです(Blackwell and Ruth Hobday ”I Know This to Be True: Rurh Bader Ginsburg”『ルース・ベイダー・ギンズバーグ』〔橋本恵訳〕11頁(あすなろ書房2020))。さて今回は、一見無関係なものに思われるトイレと税制の関わりを考えます。

トイレに40分?

マイノリティはトイレに苦労をするもののようです。

例えば、2016年にアメリカ合衆国で公開された伝記映画『ドリーム〔原題: Hidden Figures〕』(監督:セオドア・メルフィ(Theodore Melfi))では、1960年代初頭にNASAで働く3人の黒人女性の努力と苦難が描かれていますが、同映画にはトイレを巡るシーンがあります。

黒人女性である主人公キャサリン・コールマン・ゴーブル・ジョンソン(Katherine Coleman Goble Johnson, 1918年8月26日-2020年2月24日。2015年にバラク・オバマ大統領から大統領自由勲章を授与されました。)がNASAに勤務したとき、上司から長時間の離席について叱責された際、800m離れた有色人種トイレに徒歩で往復しなければならなかったことがその要因であった旨を彼女が訴えるシーンです。

マイノリティがトイレの面で冷遇されていた例の一つであるといえましょう(その他にも、真珠のネックレスをしなければならないという服装規則の中、真珠を買えるほどの給与を得ていないというような点も注目されるところでした。)。

ローマ時代のトイレ税

さて、トイレの拡充は公衆衛生の観点からは非常に重要です。

古代ローマでは、ウェスパシアヌス帝(Vespasianus, 9年11月17日 – 79年6月23日)がトイレ税を課したことで有名です(木村凌二『ローマ帝国人物列伝』(祥伝社2016))。

もっとも、これはトイレを敷設した場合の課税というよりも、公衆トイレにたまったし尿の取引に対して課税をするというものであったようです。

これは、いわゆる有料トイレの起源であるとみることもできるかもしれません。

我が国の税制とトイレ

ところで、我が国の税制では、平成28年度税制改正において、三世代同居(法令上は、多世帯同居とされています。以下同じ。)に対応した住宅リフォームを行う場合の所得税に係る税額控除として、住宅の多世帯同居改修工事をした場合の住宅特定改修特別税額控除が創設されています(適用期間は令和3年12月31日まで。措法41の19の3)。

これは、出産・子育ての不安や負担を軽減することが重要な課題であることを踏まえ、世代間の助け合いによる子育てを支援する観点から三世代同居を支援する税制と位置付けることができましょう。三世代同居に対応した住宅リフォームに関し、借入金を利用してリフォームを行った場合や自己資金でリフォームを行った場合に税額控除を認める制度ですが、対象となる「多世帯同居改修工事」とは次の要件を満たすものをいいます。

・①調理室、②浴室、③トイレ又は④玄関のいずれかを増設する工事であって、改修後、①から④までのいずれか2つ以上が複数となるもの

・その工事費用(補助金等の交付がある場合には、その補助金等の額を控除した後の金額)の合計額が50万円を超えるもの

つまり、改修工事によって玄関を2つにし、トイレを2つから3つへ増設するといったケースが対象となるわけです。

このようにトイレの増設も租税制度上の優遇の対象となっているのです。

三世代同居となるとトイレも1つでは足りなくなるところ、世代間の助け合いによる子育てを支援する観点から三世代同居を促そうとする趣旨の下、トイレの増設についても税制上の優遇措置を講じることでその後押しをしているわけですね。

ハーバード大学やNASAにもトイレ導入への税制上の優遇策があれば、トイレ事情もずいぶんと変わったかもしれませんね。


バナーをクリックすると㈱レックスアドバイザーズ(KaikeiZine運営会社)のサイトに飛びます

最新記事はKaikeiZine公式SNSで随時お知らせします。

 

◆KaikeiZineメルマガのご購読(無料)はこちらから!
おすすめ記事やセミナー情報などお届けします

メルマガを購読する


【関連記事】

~甲乙という匿名表現とマイナンバーカード~

~納税のための貨幣〔後編〕:偽札と渋沢栄一~

~納税のための貨幣〔前編〕:MMT理論と赤瀬川原平の模造千円札~

~税務大学校の宿泊施設の取組み~

~ジョージ・ハリスンのタックスマンとトランプ大統領のタリフマン~

~信長の茶道具と評価額~

~税務職員への手土産~

~噂話が支える人間社会~

著者: 酒井克彦

中央大学法科大学院教授/法学博士

中央大学法科大学院教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第4版〕』、『クローズアップ保険税務』、『クローズアップ事業承継税制』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』、『裁判例からみる税務調査』、『裁判例からみる保険税務』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ改正相続法の税務』、『キャッチアップ外国人労働者の税務』、『キャッチアップ保険の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

ページ先頭へ