この連載では、IPOを目指すJ-SOX導入プロジェクトを担当される方々が、具体的にどのようなアクションをとればよいかを説明します。
IPOを目指す際に、最も苦労する作業といわれるJ-SOX導入。「J-SOX導入プロジェクト」を担当される実務家の方が「何をすれば良いのか」、「どのように進めれば良いのか」といった具体的なイメージを描けるよう、実際のゴールとなる「成果物」、「具体的なアクション」に焦点を当てて話を進めたいと思います。

はじめに

JSOX導入プロジェクトは、全社プロジェクトですが関与していないメンバーに興味を持ってもらうことが難しいプロジェクトです。

プロジェクトの目的が「規制対応」にあるため、ポジティブに取り組む要因があまりないという側面が理由かもしれません。

一方、JSOX導入はプロジェクト担当者のみで自己完結できず、担当者以外のメンバーの協力が必須となります。

今回はJSOX導入において、協力者にJSOX導入が認知されていない場合、どのような問題が生ずるかを紹介します。

JSOX文書メンテナンスの難しさ

JSOX導入プロジェクトでは重要な業務フローを決定し、当該業務フローの文書化を行います。

業務フローが記載される文書を「業務記述書」(JSOX文書)と言います。「業務記述書」(JSOX文書)は常に最新の状態を維持し、実務において適用されている業務フローと一致していなければなりません。

業務フローに変更が生じた場合には、同時に「業務記述書」(JSOX文書)も変更しなければなりません。

「業務記述書」(JSOX文書)の変更手続きは大変です。

まず新しい業務プロセスの内容を把握し「業務記述書」(JSOX文書)へ反映、更新が必要となります。その後、監査法人へ確認を行い、新しい業務フロー、統制に問題がないことを確認した上で、社内における取締役会等機関決定を行います。

「業務記述書」(JSOX文書)の変更は、厳格な手続きにより実施されますが、ここでJSOX導入当初にJSOX担当者が必ず直面する苦労があります。

JSOX担当者の知らないところでいつの間にか業務フローが変更されているケースです。

JSOX担当者は「業務記述書」(JSOX文書)完成後、実際のサンプルを取得し、文書の記載に誤りがないことを確認する手続きを実施します。例えば備品購入時の「業務記述書」(JSOX文書)に「支払依頼書に購買部部長の承認印を受領し、発注手続きを実施する」という記載があったとします。JSOX担当者は発注時に利用された支払依頼書を、保管されている部署へ依頼、入手し、購買部部長の承認印があることを確認することで、実際の業務と「業務記述書」(JSOX文書)が整合していることを確認します。

ところが「支払依頼書」を依頼したところ、「支払依頼書は部長承認でなく課長承認へ権限委譲されていた」といったケースが発生します。

JSOX導入担当者としては、これまで現場担当者からヒアリングを重ね、監査法人とも業務フローの形態について交渉、調整し、やっと確定させることができたJSOX文書がいつの間に変更されているという状況に直面するため、精神的にも厳しい状況となります。

非常に厳しい状況ではありますが、JSOX導入当初、多くの会社で発生するエラーのため、「誰もが通る道」といえます。こうした事象の発生はトライアル期間であれば許容されますが本番年度では大きな問題となります。