4大監査法人の決算分析シリーズ。2020年版 第3回は、3期ぶりに業務収入1000億円を超え、業績に回復の兆しがみられるEY新日本有限責任監査法人(以下EY新日本)について、直近5年度の決算を分析していきます。

1.業務収入

(1) 業務収入推移

*1 各年度の「業務及び財産の状況に関する説明書類」をもとに作成。また特に断りがない限り、単位は百万円(以下 同)。

監査法人業界の市場規模が拡大する中(*2)、業務収入が伸び悩んでいるのがEY新日本です。業務収入首位のトーマツ、2位のあずさが順調に増収を続ける一方、EY新日本はいまだ2016年度の1065億円という金額を超えられずにいます。2020年度には3期ぶりに1000億円の大台を回復していますが、2016年度と比べると△4%となっています。

続いて、業務ごとに収入推移を見てみます。

(2) 監査業務収入
①監査業務収入推移

2020年は860億円となり、東芝からの追加的な監査報酬があったと想定される2016年度の850億円を超えています。監査業務に関しては2017年度の806億円を底として回復基調にあるといえそうです。このトレンドを支えている要因について、クライアント数と1社あたりの単価に分けてみてみます。

②監査クライアント数推移

クライアント数は減少し続けており、2016年度と2020年度を比べると262社減、率にすると7%の減少となっています。数自体は減っているものの、直近の2020年度実績は3709社で業界首位をキープしています。ただしあずさの3635社とは僅差になっています。

クライアント数推移を見ると、一連の会計不正問題、そして一部業務停止処分の影響が感じられますが、一方、IPO監査実績では2018年以降、3年連続でEY新日本が1位となっており、新興市場では積極的なようにも見えます(*3)。この辺りは2016年度以降、一部のクライアントが流出しており、同時にEY新日本側でもクライアントの絞り込みを進めながらも優良な新興企業は顧客として確保しているのかもしれません。

③1社あたり監査業務収入推移

* 1社あたり監査業務収入=監査業務収入÷(期首期末の平均監査クライアント数)

こちらは2017年度を底として上昇しており、2016年度に比べると、2020年度は+10%弱となっています。ここ数年、東芝の他、富士フイルム、キヤノン、味の素といった大企業との監査契約を失いながらも監査報酬の単価は増加傾向にあり、トーマツの+20%こそ下回りますが、あずさとは同水準にあります。

以上より、監査業務に関してはクライアント数減少の影響を1社あたりの報酬単価アップが上回り、一時期の落ち込みから回復しつつあります。ただし他法人の2020年度実績を見るとあずさは828億円、トーマツは809億円となっており、その差は縮まっています。一連の会計不正問題と、その後の金融庁からの一部業務停止処分は、EY新日本の業績に中期的に影響を与えていると言えるかもしれません。

(3) 非監査業務収入
①非監査業務収入推移

EY新日本は2017年度に組織再編を行っており、非監査業務の一部をEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社に移管しています。そのため、ここでは2018年度~2020年度に限定してみてみます。

ここ3年間、非監査業務収入は横ばいであってほとんど成長がみられず、回復基調にある監査業務とトレンドが異なっています。一方他のBIG4はいずれも増収となっており、EY新日本が競合に後れを取っていることが分かります。

なお2016年度はトーマツに次いで2位となっていましたが、2017年度以降はあずさ、あらたの後塵を拝し、4位が定位置となっています(*4)。ただし「業務及び財産の状況に関する説明書類」等では上記組織再編の影響が定量的に把握できず、もう少し様子を見る必要がありそうです。

②非監査クライアント数推移

2020年度のクライアント数を2016年度と比べる△33%減となっています。収入の減少幅△25%に比べると大きく減少しており、クライアント数の減少が収入減につながっていることが分かります。

なお監査クライアント数△7%と比べても減少幅は大きくなっています。

③1社あたり非監査業務収入推移

* 1社あたり非監査業務収入=非監査業務収入÷(期首期末の平均非監査クライアント数)

こちらも低下傾向にありましたが、2020年度は前期比+20%と大きく上昇しています。しかしながら他法人と比べると非監査業務の単価は低いものとなっています。2020年度実績を見ると、あらた22百万円、トーマツ11百万円、あずさ11百万円であり、EY新日本はあらたの1/3、トーマツ、あずさの2/3程度に留まっており、改善の余地があるように見えます。

以上より、回復傾向にある監査と比べ、依然として非監査業務は厳しい状況にあることがうかがえます。直近の2020年度こそ下げ止まりを見せているものの、クライアント数は以前の水準にはなく、単価こそ上昇傾向にありますが、他法人とは大きな差があります。2017年に組織再編があったとはいえ、2020年度の非監査業務収入は首位トーマツ(334億円)の半分に留まっており、今後の巻き返しが期待されるところです。