「有事の金」といわれるが、英国のEU離脱問題を受けて、金価格が上昇している。金は安全資産という側面だけでなく、税金面でもいくつかの特色がある。そのため、富裕層を中心に金投資に関心が集まっているのだが、国税当局も別の意味で“金”の動きに注目している。
英国のEU離脱派の勝利を受けて、世界の金融市場が揺れている。先が見えない状況に、円が買われ円高が進む中、“有事の金”といわれ、安全資産とされる金の価格も急上昇している。為替相場は6月24日、ポンドが一時160円台から133円まで円高・ポンド安が進んだほか、対米ドルでも一時99円台を付けるなどドル円相場で史上最大の振れ幅となった。
金は、投資家心理の悪化から買注文が増え、世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールド・トラストの保有高は13年7月以来の高水準に達した。また、ポンドやユーロ安を背景に、これらの通貨建ての金相場も上昇している。
欧州問題の長期化が予想されるなか、金投資のニーズがさらに続くこと予想される。英国での国民投票を受け世界経済に不安感がある中、資産を株式や現金などではなく、金で持っておきたいとする人が増えているためだ。
日本においては、金は安全資産という側面だけでなく、税金面でもいくつかの特色を持っている。たとえば、自動車は所有しているだけで「保有税」がかかるが、金にはそれがない。
また、金を売却して「売却益(譲渡益)」を得た場合には、株投資や外貨投資など、ほかの投資と同じように税金がかかってくるが、「控除」が認められている。
金を売却して「売却益(譲渡益)」を得た場合は、その実態により「譲渡所得」「事業所得」「雑所得」のいずれかで取扱う。給与所得者などの個人であれば、「譲渡所得」に分類され、税務上は、他の所得と合わせて総合課税の対象となり、所有期間に応じた控除がある。
購入後5年以内に売却した場合(短期所有)には、譲渡益から特別控除分50万円を控除した金額が短期譲渡所得とされ、課税の対象になる。
一方、購入後5年を超えて所有し、その後、売却した場合(長期所有)では、譲渡益から控除分50万円を差し引きした金額を長期譲渡所得とし、さらにその半分の金額が課税の対象になる。5年超所有すれば、税金は半分になるというわけだ。その面では、金の保有は5年以上が有利になる。
相続・贈与が発生した場合には、相続人は財産を取得したとして課税対象になる。その評価額は、被相続人が死亡した日に取得したと見なされ、死亡日の小売価格がそのまま金地金・金貨の評価額になる。
贈与についても贈与成立日に取得したと見なされて、やはりその日の小売価格で評価する。また、贈与された金地金を売却した場合は譲渡所得が発生する。
金はこれまでも「有事の金」といわれ、中東戦争や旧ソ連軍のアフガン侵攻、フォークランド紛争などの際に、金相場は急騰場面を作ってきた。1900年代後半の金相場低迷によって、一時、この「有事の金」のイメージが色褪せたといわれた時期もあったが、2001年9月の米国同時多発事件以後、再び金は「有事に強い」ことが見直され、リーマンショック後は急騰した。今回も、EUからの英国離脱問題を受けて、個人投資家をはじめとして、金の購入意向を強めている。
富裕層を中心に、金投資へ注目が集まる中、国税当局も金には目を光らせている。こちらは、金を購入する資産家だ。国税庁は、平成24年1月1日から「金地金等の譲渡の対価の支払調書制度」を導入。金地金等の売買を業として行う者が、国内においてそれらの譲渡を受け、200万円超の対価を支払う場合に、税務署に対して支払調書を提出することが義務付けられたもの。
国税当局はこうした情報をベースに、積極的な税務調査を実施しているのだが、平成26事務年度における金地金等に係る譲渡所得調査等による申告漏れ等の非違件数は2627件、申告漏れ所得金額は117億円、非違1件当たりの申告漏れ所得金額は447万円となっている。
金やプラチナの価格が高値水準で動いていることから、国税当局では引き続き、税務調査を積極的に実施していく構えだ。