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【コラム】清水建設 20億円の申告漏れ 建設業者の裏事情

ゼネコン大手の清水建設がこのほど、東京国税局から5年間で約20億円の申告漏れを指摘された。建設業は、税務調査で不正発見が多く、毎年トップ10に入る常連。定期的に調査が実施されるが、税務署は建設業者のどういった点をチェックしているのだろうか。

清水建設(東京)が東京国税局の税務調査を受け、2011年~2015年までの5年間で約20億円の申告漏れを指摘されたとの報道があった。水増しされた下請け会社への外注費などが問題視され、経費として認められなかった模様だ。国税局は、清水建設に対して、過少申告加算税を含め、約5億円の追徴課税をしたとされる。

報道によれば、工事の発注業務なども担当していた元社員の現場監督が、下請け会社8社に外注費を水増請求させ、合計1億4千万円を自らに還流し、飲食代などに使っていたという。国税局はこの水増外注費の損金算入を認めなかった。
また工事の人件費や資材費などの原価について、本来計上すべき時期より前倒しして計上するなどの経理ミスも見つかったとしている。

筆者は、国税職員時代、法人税調査で不正計算の摘発を中心に、29件の署長重審(署長が出席し、調査経過・波及効果及び納税原資などを説明審議する署内の会議)事案を経験した。その中で建設業関係は7割を占め、東京国税局長表彰事案も建設業関係の内装工事業者だった。

認定賞与ならダブル課税も承知の上

国税当局も建設業者には厳しい目を向けており、定期的に税務調査を実施しているのだが、その多くが中小建設業者。平成26年3月末時点の国土交通省調べでは、一般建設業の許可を取得している業者は44万9671者であり、9割以上が中小建設業だ。

こうした、中小建設関係業者の税務調査では、「売上除外」「架空外注費」「架空人件費」など、各種の脱税項目を資金の入りとすれば、資金の出は大半が代表者である社長の個人的消費だ。税務調査で、個人的消費と分かれば、社長への「認定賞与」になる。その他は、代表者の個人的蓄財である預金、有価証券、不動産など貸付金とされる場合もあった。現在は40%追徴課税のある違法性の高い使途秘匿金としての「処理」も存在する。
ではなぜ、個人的消費で「認定賞与」処理が圧倒的に多かったか、しかもダブル課税(何故なら役員賞与とされた場合、従業員給与と違い損金性を否認されるため法人税と共に源泉所得税も課税される)を承知の上で。

今から思い返せば、決して当局に知られたくない事実があったと推察できる。それは元請現場監督に渡すための「運動費の財源」ということ。多くは現金でのやり取りらしい。ここで「らしい」というのは、残念ながら筆者が自らの調査で元請現場監督に行き着いたことは一度もないからだ。
当時から、銀行経由でおカネを渡した場合、足が尽くし、情報が漏れるという認識が浸透していた。そのため、ヤバイ取引は全て現金で行なうことが一般的だったようだ。
かつてゼネコンの現場監督に資材を卸していた建設商社出身の人が、「見積もりや請求書の消耗品」に注目して調査してみたらと言っていた。つまり現場では誰も注目しないもの、あるいは、本社の人間も確かめようもない部分に秘密があるというわけだ。
どうやらそこの現場監督はそういった誰も注目しない、そして上司も調べようもない「ブツ」を換金化して私服を肥やしていたらしい。
すべての現場監督がこういった不正を働いているわけではないが、現場では誘惑が働きやすい。

ところで、清水建設の20億円申告漏れ事件だが、報道されている内容だけだと、二点ほど気に掛かることがある。
まず「下請会社8社に外注した工事代金を水増し請求させた」とことで、外注費として請求していたなら、会社の帳簿には記載されるはずで、そこから元社員に還流させたということ。推察されるのは、古典的手法で下請会社から現金でバックさせていたのかもしれない。でも、どうして判明したか謎だ。

次に報道では5期約20億円の申告漏れで、追徴税額・過少申告加算税合わせ5億円の更生決定とある点。工事の人件費や資材費などの原価について、本来計上すべき時期より前倒しして計上するなどの経理ミスが見つかったともある。「期ズレ」であれば、過少申告加算税対象になるが、肝心の「水増し」分で架空外注費とされるものが、重加算税対象になっていないのだ。

考えられるのは、外注費は否認されるものの、横領損失が計上され、元社員に対しては私的流用で既に懲戒解雇かつ警視庁に被害届けが出されていることから、賠償請求権が収入計上されたのではないかと考えられる。
この損害賠償請求権は、元社員が自己破産等して資力のない場合は基準に従って貸倒損失とされ、資力があるも会社側が放棄した場合には寄付金(もし社員である内であれば給料とされ法人税は掛からず源泉所得税の重加算税対象)とされ限度額計算が適用される。

筆者が現職で税務調査を行っていたころ、不正計算を発見され資金使途を尋ねたことがある。建設会社の社長が苦渋に満ちた表情で「税務署には分かってもらえないと思うけど、俺たちのような下請けには止むに止まなぬ、誰にも言えない出費があるんだよな・・・」と呟いていたのを覚えている。

著者: 松本大路

税金ジャーナリスト/元税務調査官

税務調査官として約13年、都内の税務署などで法人税調査などを行う。その後、外資系生命保険会社の営業職員として約10年間、資産家及び法人、会計事務所向けに、役員退職プランや決算対策などをサポート。現在はフリーの税金ジャーナリストとして活動する。

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