今回の実力派会計人は、”バックオフィスコーディネート”、”フリーランスのビジネスナビゲート”、”コミュニティコーディネート”と、3つの事業を展開している公認会計士・税理士の矢野裕紀氏。大手監査法人を経て独立した矢野氏だが、”主体的に生きたい”人をサポートするために、自分自身が主体的でいられるカタチが現在の3つの事業だと語る。事業にかける想い、そして自分は今後どうしていきたいか悩んでいる若手会計士に伝えたいメッセージを伺った。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)

”個人の主体性”をカタチにした3つの事業

まず、現在取り組んでいる事業について教えてください。

矢野:現在は3つの事業に取り組んでいます。1つ目は”バックオフィスコーディネート”。2019年に立ち上げたアカウンティングサポート株式会社の事業です。クラウド会計freeeを軸に、様々な業務ツールを組み合わせ、経理の効率化、月次決算の早期化に取り組み、経営者が自信を持って経営判断できるような体制づくりをサポートしています。

2つ目は、”コミュニティコーディネート”。様々なテーマでコミュニティをつくり、自己研鑽や社外の人とのつながりの場づくりをしています。規模も期間も様々ですが、例えば、読書会やプレゼン練習会などを企画してきました。これは、2017年に立ち上げたつながるサポート株式会社で取り組んでいます。

3つ目は、フリーランスのビジネスナビゲート、通称”やのナビ”です。これは、2015年に開業した矢野会計事務所の事業です。フリーランスは、自身のサービス・商品づくりからそのPR、経営計画づくりから経理・確定申告、予実分析、総務的なことからITへの対応まで、ぜんぶひとりでマネジメントしなければなりません。そんなフリーランスの自分経営を、僕自身のフリーランスとしてのチャレンジの経験も踏まえながらナビゲートして、その方のゴールを一緒に目指していくサービスとなっています。

私自身、得意や好きを活かし、伸ばしながら主体的に生きていきたい、そして、そんな自分の事業を通じて、(会社勤め、フリーランス、会社経営者などの立場の違いは関係なく)「主体的に生きていきたい」と願う方のサポートをしていきたいと模索し続けた結果できあがったのが今のカタチです。

監査法人時代に足りなかった”主体性”

監査法人ではどのような仕事をしていましたか。

矢野:2008年の公認会計士試験に合格し、2009年4月からあずさ監査法人の正職員としてキャリアをスタートしました。6年間勤務しましたが、その間、建設会社や、インフラ系企業グループの会計監査、地方公共団体や独立行政法人などのパブリック系の監査業務に従事しました。あとは、事業部の忘年会の企画メンバーなどもやっていました(笑)

一般的なスタッフ業務からスタートし、規模・業種様々なチームのインチャージ(主査)を経験した後、6年目に1ヶ月休職したことがきっかけで監査法人を退職しました。

なぜ休職してしまったのでしょうか。

矢野:自分のキャパを超えるような働き方を続けてしまった結果、心身が限界を超え、出社できなくなってしまいました。

最初の数週間はほぼ引きこもり生活で、先のことなどを考える心の余裕もなかったのですが、妻や、周りの方々のサポートもあり、次第に、何故、このようなことになってしまったのかを考えられるようになってきました。体調を崩した原因は主に長時間労働。生活のリズムが崩れ、心身にダメージが積み重なっていました。

「そもそも、なぜ長時間労働をしてしまっていたのだろう?」

そう考えたときに浮かんできたのは、”自信のなさ”と”主体性のなさ”でした。

「手に職つけられる!自信を持って社会人生活を送ることができる!」そう思って目指した公認会計士。ただ、実際には、手に職つけられるような過ごし方ができておらず、将来このままでやっていけるのだろうか、と漠然とした不安を感じ続ける日々を送っていました。そんな中でも、評価されたいという欲はあったためか、目に見えやすい「たくさん働く」という方向に意識が行ってしまっていました。自信のなさを時間で補っていた状態でした。

また、今振り返ると、自分で決めて自分で長時間仕事をしていたはずなのに、どこかで、「こんなに大変なのは組織のせいだ」などと、他責で主体性のないマインドで日々を過ごしてしまっていたのも、長時間労働をやめられなかった原因だったと思います。

その後、退職をされ、そして起業を決意されています。

矢野:まさに、この先の人生をもっと主体的に生きていけるようになりたい、という想いから監査法人の外に出ることを決意しました。

運良く1ヶ月で復職できたあと、たくさんの方の配慮でとても心地よい日々を過ごさせてもらっていたのですが、「このまま、ケアしてもらいながらの人生でいいのだろうか?」という想いも芽生え始めました。

自信や主体性をつけるためには、自分でサービスをつくり、自分で値決めをし、自分で契約交渉をし、自分でサービス提供をしていかなければならない世界に身を置いて、必要とされる価値を提供できる仕事をして生き抜いていくことが必要だと考えました。その結果、起業することを決意しました。やっていけるという自信のもとに起業したいと思ったというよりは、自信をつけていくために起業したいと思ったのです。

自信がない中でも起業”できる”と思ったのはなぜでしょうか?

矢野:休職中のある体験がもとで、「きっとやっていける!」と考えられるようになりました。
休職して2週間ほど引きこもっていて、さすがにこのままでは本当にダメになってしまうという想いも芽生え始めた頃に、もともと入っていた英語スクールのイベントのお誘いがあったんです。ここなら、誰も自分が休職していることなんて知らないから、社会復帰するにはちょうど良いかな、と思って、久しぶりに外に出ました。

この英語スクールの主宰者・青木ゆかさんは、「今持っている単語だけでもコミュニケーションはとれるよ!」というスタンスの方で、そのためのマインドややり方を教えてくれる方です。当時、TOEIC400点台で英語力のかけらもなかった自分ですが、外国の方に浅草のことを紹介しながら散歩するというイベントで、自分の今ある力だけを頼りに、一緒に歩いた方に楽しんでもらえた、今持っている単語だけでも伝わった、という経験ができました。この経験によって自信の持ち方のイメージができました。

自分には何もないというマインドで、ないものを埋める努力で苦しむのではなく、できること・持っているものを活かして人の役に立っていく、という生き方をすれば、自信をつけて、主体的に生きることができそう、と考えられるようになりました。

青木ゆかさんの言葉を借りると、「何も持って無いという前提感で生きるのではなく、”ある”前提感で生きる」ということです。

そして、これまでの自分の仕事ぶりを振り返り、自分に何が”ある”かを考えたときに、目の前の人の役に立つことが好きで、そのための工夫をしていくことが好きな自分がいたことに気付きました。

そうすると、クライアントさんのために仕事をしつつも、お給料は所属する組織からもらう、という関係性よりも、クライアントさんから直接報酬をいただく、という起業の道の方が自分には合っているのかも、と考えるようになりました。

起業後、5年間は試行錯誤の期間だった

監査法人を退職してどれくらいで自信や主体性がついたと実感しましたか?

矢野:これが、もう本当に最近のことで、2020年の後半くらいの感覚です。アカウンティングサポート株式会社をつくって1年ちょっと経ったくらいの時期ですね。監査法人を辞めてから5年かかっています(笑)

自分が、誰のためにどんな仕事をして生きていきたいか、が見えてきたことによって自信や主体性がついたと実感しているのですが、その、”誰のためにどんな仕事をして生きていきたいか”が見えてくるまでにものすごく時間がかかったと振り返っています。

起業したての頃は、とにかく自分にできることは何でもやる、求められることは何でも自分でやる、誰のどんなリクエストにも応える、というスタンスでした。

この試行錯誤しながら何でもやる、という経験はもちろん今の土台になっているのですが、中には、自分がやらず、もっと得意な方にお任せした方が良いこともたくさんあり、「自分の専門って結局何なんだ…」と夜な夜な自問自答することも頻繁にありました(笑)

そんな試行錯誤を繰り返すことで、「主体的に生きたいと考えている人のために、自分の得意なこと・好きなことで役に立つ仕事をして生きていきたいんだ」と表現できるようになってきました。

より”個人の主体性”に関わる事業に育てていきたい

今後はどのような展開を考えていますか?

矢野: これまでは、僕自身が主体的でいられるよう、得意や好きを活かす形で事業をつくってきました。今後は、これを軸に、3事業すべてで、”目の前の方がより主体性を高められるようなサービス”をつくっていきたいと考えています。人間、主体的でいれば、困難な状況も打開できると信じているので、今後も”主体性”というものにこだわっていきたいです。

KaikeiZineの読者さんには、まさにキャリアの転機にある方々も多くいらっしゃいます。そんな皆さんにぜひメッセージをお願いします!

矢野:”キャリア”と聞くと、この先どんな経験を積んでいきたいか、といったことが思い浮かぶことが多いと思います。もちろんそれも大事なことですが、それに加えて、ぜひ「どうありたいか」も考えてみてください。

僕自身、「どうありたいか」がふわっとしていた頃は行動もふわっとしていて、自信も主体性もなかったと振り返っています。それが、「主体的に生きたいという人をサポートしていきたい。そのためにまず自分自身が主体的でいる。」というような「目指すありかた」が定まったことがきっかけで、積んでいきたい経験のイメージも明確になりました。

もし、この先のキャリアに悩むようなことがあったら、ぜひ「この先どうありたいか」も考えてみてほしいなと思います。

【編集後記】
お話をお伺いする中でご自身の挫折した経験を経て、今度は同じ悩みを持つ方の助けになりたいというメッセージを発信されていたのが印象的でした。その優しさが伝わる取材となりました。矢野先生、ありがとうございました!!

①矢野会計事務所
②つながるサポート株式会社
③アカウンティングサポート株式会社

●設立

①2015年4月1日
②2017年9月29日
③2019年6月27日

●所在地

①埼玉県川口市金山町12-1 サウスゲートタワー川口2階Mio川口227
②東京都港区南青山2-2-15-942
③東京都千代田区神田多町2-1神田東山ビル7F

●理念

「主体的に生きたい」と願う人のサポートをする。

そのために、まずは自分自身が主体的に生きる。

●企業URL

 

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