「害獣」による災害と雑損控除
ところで、筆者は以前、イナゴが所得税法施行令9条《災害の範囲》にいう「害虫」に当たるか否かについてのコラムを書いたことがあります(拙稿「租税法余説:イナゴは『害虫』か」税務事例53巻7号(2021))。
同条は次のように、所得税法における雑損控除の適用対象となる「災害」の範囲を定めています。
法第2条第1項第27号(災害の意義)に規定する政令で定める災害は、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害とする。
このように、「害虫」や「害獣」による異常な災害は雑損控除の対象となり得るわけですが、何をもってして「害虫」や「害獣」と判断するのでしょうか。
例えば、冒頭で述べたとおり、熊はテディベアやクマのプーさんなど愛らしいキャラクターとして人気ですが、農作物を荒らしたり、時には人間に危害を与える動物です。三毛別獣害事件や福岡大学ワンダーフォーゲル獣害事件、八幡平獣害事件、星野道夫獣害事件、風不死岳獣害事件などを想起する方もいるでしょう。要するに、何をもって「害」と解するかは、人それぞれというわけです。
鬼熊事件もまさにそれと同様であり、鬼熊被害を受けた者もいれば、鬼熊特需を受けた者もあったのです。
この相対的な問題を前提とすると、所得税法施行令において、そもそも、「害獣」や「害虫」と規定する点の妥当性については疑問が湧いてきます。
「害」という、相対的な評価を含んだ用語法を法文が用いることに、法的安定性や予測可能性といった観点から疑問を挟む余地もあるように思われるのです。自分の飼い犬によって資産に損害を加えられた場合における雑損控除を排除するという意味が、「害獣」という文言にあるのかもしれませんが、そのようなレアケースは解釈論で対象から除外することができると考えます。そうすると、同令の規定を「害獣」や「害虫」とせず、「獣」や「虫」による被害としてはいけなかったのでしょうか。
ところで、上記のとおり、鬼熊は、警察の懸命な捜査にも関わらず約40日間も発見されなかったのですが、その理由として、鬼熊が地元住民からかくまわれていたのではないかともいわれています。鬼熊は、実は地元で大変面倒見のよい人物だったらしいのですが、かつて彼に助けてもらった人からすれば、必ずしも「鬼」とは割り切れなかったのかもしれませんね。
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