今回ご紹介するのは、公認会計士ろっちさん。Twitterで姿は現さずその正体は未だ謎な部分も多いがフォロワー数は現在7000人を超え、キャリアや恋愛相談に乗るなどSNS界隈で影響を与えている実力派会計人だ。これまで自身のキャリア詳細については明かしてこなかったが、大手監査法人に10年在籍、マネージャーポジションに昇格し、現在は外資系の上場会社でファイナンス業務に従事している。今回は、ろっちさんのこれまでのキャリア、そして監査法人内で必要とされるリーダーシップについてKaikeiZineが独占取材!その真相に迫ります。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)
マネージャーの仕事は、チーム内のハブになること
23歳で公認会計士試験に合格後、大手監査法人に入所し10年間勤務をされています。ターニングポイントはありましたか?
ろっち:30歳のころ、監査法人でマネージャーに昇格して将来のリーダー育成のプログラムに選抜してもらい、リーダーシップ関連の研修や海外研修を受けたことがターニングポイントでした。チームビルディングに興味を持つきっかけになった出来事です。監査法人のマネージャーと聞くと、現場とマネジメントどちらも対応をして大変そうといったイメージを抱いている方が多いように感じます。しかし私自身にとってマネージャーは、大変さはあっても新しく学べることが多い、実りある期間でした。
当時、私の周囲にも、仕事が辛いと言っているメンバーがたくさんいました。気持ちを吐き出しガス抜きすることは必要ですし良い仲間たちなのですが、研修プログラムで出会った方たちとは愚痴を吐くのみではなく、より建設的な議論を交わすことができました。法人をどうしていくべきか、何が問題で若手が辞めてしまうのかといったことを真剣に語れる仲間だったのです。
もちろん、こうすればいいというのは誰でも言えます。しかしそのときの仲間とは「それをできないのはなぜか」「どういう制約があるか」「実行したければ何が必要か」と時には経営陣を交えての意見交換の機会が与えられ、経営陣の意見も含めて考えることができました。30歳くらいで経営目線も感じとることができたのは、私にとってとても大きかったですね。
もともとチームのことは好きでしたし、面倒もよく見てチーム内の雰囲気も良かったのですが、リーダー育成の研修の中で、それまで感覚的にやっていた「チ―ムを引っ張る」とはどういうことなのか、頭の中で整理できるようになりました。
シニアスタッフの時期は後輩と仕事の不満を言いながら飲んでストレスを発散するということも多いと思います。私の場合も、それまではどちらかというとメンバーの視点でした。しかし経営陣の視点を得られたことで、後輩と話していても共通の敵を作って不満を言うだけではなく、時にはメンバーの気持ちに対して経営陣の考えをかみ砕いて説明できるようになりました。つまりハブのような存在ですね。
また、業務が増えるときも「ただパートナーがやれと言っているから」と部下が捉えないように「パートナーもこう考えているけれども、この部分は最近のリスク評価の観点から外せないから業務が増えている」といった説明をするようにしました。部下にも納得した上で仕事に取り組んでもらいたかったのです。
メンバーへのほんの少しへの心配りでチームは変われる
前を向いているチームとそうでないチームの差とはなんでしょうか。
ろっち:マネージャーに求められることは、プロジェクトマネジメントとそれを遂行するためのバランス感覚だと思います。圧力を掛け過ぎれば人はへこんでしまいますし、こちらの伝え方一つでも相手が受け取る印象は変わります。ありがとうの一言を忘れずに言うかどうかでも変わってくるかと思います。
しかし、時には厳しいことを伝える等しなくてはならないこともあります。そういったバランスが人材の能力を伸ばす上で必要になってくると思います。
決して難しいことではなく、ほんの少しでもメンバーに意識を向けられるかで劇的にチームは前を向きはじめます。
例えば、メンバーから「これは必要ですか?」という質問はよくあるのですが、そのときにあまり考えない上司だと「とりあえず一応やっておこう」という返事をすぐに出します。当然やった方がリスクは低いのですが、そうやって業務が増えていくと当然働く側としてはしんどくなってきます。手続を増やすにしても最低限で抑えられないか、他に削減できる業務はないかも合わせて一緒に検討するようにしていました。
また、パートナーもマネージャーも、メンバーの状況を把握していないケースもあります。この週はこの会社へ、次の週はあちらの会社へと決まっているのに、前の週の会社の仕事が終わっていないと次の会社に行っていたとしても先週の会社の仕事の指示が飛んでくることがあります。ある程度は皆お互い様なのですが、あまりにも度を過ぎている場合には「アサイン外なのでご配慮ください」と私がマネージャーとして相手のマネージャーに伝えるようにしていました。
そして前を向いているチームは、マネージャーとスタッフの関係が良いチームです。
マネージャーが業務を巻き取ってくれたり、パートナーにかけあってくれたり、結果は変わらなかったとしても納得できる、説明ができて信頼関係が構築できるかどうかが重要ではないでしょうか。
正解はない。だからこそ自分の強みを活かして
現在は、大手外資系企業で経理部長を務められていると伺っています。
ろっち:今の会社は部長職で入社をしましたが、マネージャー時代の経験が活きています。事業会社なので監査法人と業務内容は違いますが、チーム内でのリーダーシップや各部署間の調整といった業務は変わらないので、もし監査法人でマネージャー経験を積んでいなかったら今うまく回せていないと思います。
リーダーシップといっても、私はクラスでもサークルでも「潤滑油」と言われていたタイプ。だからグイグイ引っ張っていくタイプのリーダーにはなれません。自分の強みを活かしたリーダーを目指した方が近道なのです。しかし、かといって自分のもともとの性格そのままではなく、自分の強みを自覚した上でコントロールすることは必要です。自分が背中を見せて引っ張らないといけないときもありますし、もっと寄り添うべきときもあります。そういった意味では、リーダーシップ研修を受けて自分のカードが増えた、幅が広がったように感じています。
目の前の頑張りは、必ず次に活かせる。
ろっち:監査法人内でのマネージャー経験は事業会社で活きます。よくTwitterで「事業会社に行くならシニアスタッフくらいがベスト」と目にしますが、個人的にはマネージャーまで経験したほうがいいことも多くある気がしています。スタートアップやベンチャー企業でCFOや経理マネージャーを探していますというところへ、シニアで行くのもいいと思いますが、ある程度大きな事業会社へシニアで転職するとおそらく役職は付かないでしょう。監査法人に比べて、ポストが限られているため事業会社で上がっていくのは大変です。
それよりは監査法人でマネージャーまで昇格してから、事業会社の部長や課長へ転職した方が早いですし、部長課長といったポジションにはマネージャーの経験がリンクしてきます。逆にいえば、監査でやってきた経験が事業会社の実務担当者レベルの業務に直結せず苦労することも多いはずです。それなら管理職で入って実務の理解を進めた上でレビューやマネジメントの業務をするほうが、監査をやっていた人には適応しやすいです。
皆さんから見たマネージャーはすごく辛く大変な役割と映っていて、憧れはなかなか持てないポジションかと思います。だからスタッフ、シニアスタッフのうちに退職される方が多いのでしょう。しかし、マネージャーにはマネージャーの楽しさ、得られる経験が確実にあります。新しく学べることも私のキャリアにとって、とても大きかったです。時には将来を考えて辛抱強く頑張る価値はあると思うのです。
これはあくまで、私個人的な考えなので、もし今本当につらいのであれば無理にその組織にいる必要もないと思います。結局のところ、経験したこと、頑張ったことはポジション問わず必ず今後に活きますし、その価値を誰にも奪われることはありません。
Twitterのフォロワーさんや、こちらの記事を見ている皆さんが、自分らしく楽しく仕事ができるよう願っています。
【編集後記】
人との付き合いは、小さな感謝を忘れないことが大事だとも話していたろっちさん。チームをまとめていくということの本質的な部分は、コミュニケーションの多さにも関わってくるのかもしれませんね。ろっちさんありがとうございました。
※監査法人では、スタッフ⇒シニアスタッフ⇒マネジャー⇒シニアマネジャー⇒パートナーと昇格していくことが多い。各法人によって名称が違うこともある。
公認会計士ろっち
公認会計士試験合格後、大手監査法人にて約10年間従事。
マネージャー経験を経て、現在は外資企業のファイナンスにて責任者を務める。
困らない程度に給与を上げたい、成長した人のお役に立てればをモットーに受験生応援と恋愛相談が多いTwitterのアカウントを運営している。
Twitter:https://twitter.com/rochcpa