中小監査事務所の業界地図シリーズ。第1回目は中小監査事務所の中でトップクラスの売上を誇る、アーク有限責任監査法人、ひびき監査法人、監査法人A&Aパートナーズの3法人を取り上げます。

中小監査事務所とは

まずは「中小監査事務所」について、説明します。
監査法人は実務上、規模別に分けることが多く、公認会計士・監査審査会の「モニタリングレポート」(*1)や監査人・監査報酬問題研究会の「上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書」(*2)でも「大手監査法人」「準大手監査法人」「その他の監査事務所」「中小規模監査事務所」などの区分を設けています。

当記事もこの区分にならい、大手監査法人(*3)及び準大手監査法人(*4)を除く監査事務所を「中小監査事務所」とします。

また「中小監査事務所」のうち、公認会計士協会が公表している「IPO を目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト」(*5)に掲載されており、かつ売上規模5億円以上の監査事務所を分析の対象とします。

以下では、直近の売上順に分析していきます。

1.アーク有限責任監査法人

(1) 基本情報

* 「業務及び財産の状況に関する説明書類」より(*6) 。以下同じ。

(2) 沿革

* 「第39期 業務及び財産の状況に関する説明書類」より引用(*6)

(3) 売上

* 千円単位(切捨)にて表記(以下、特に断りがない限り同)

2020年6月期の業務収入は14億35百万円となり、前期の14億91百万円と比べて56百万円の減収(△3.8%)となっています。

うち、監査業務は13億42百万円となり、前期14億46百万円に対して1億4百万円の減収(△7.2%)となっています。また非監査業務は92百万円となり、前期44百万円に対して47百万円の増収(+107.7%)となっています。

なお、業務収入に占める監査業務の割合は94%となっており(前期は97%)、中小監査事務所の平均値である85~90%(*2)に比べると監査業務の割合が高めと言えます。

(4) クライアント数

① 監査クライアント数

* 「第39期 業務及び財産の状況に関する説明書類」より引用(*6)

② 非監査クライアント数
不明

(5) コメント

アーク有限責任監査法人は2004年設立のアーク監査法人を母体とし、明治監査法人(2016年)、聖橋監査法人(同年)、近畿第一監査法人(2020年)と合併を繰り返して規模を拡大してきた監査法人です。西新宿にある東京本社の他、浜松、札幌及び大阪の計4か所にオフィスを構えています。

2020年6月期の業務収入は14億35百万円であり、中小監査事務所の中で最上位に位置しています。監査クライアントとしては印刷業界大手の大日本印刷、自動車用照明に強みを持つ小糸製作所、および北海道コカ・コーラ・ボトリングなどを抱えています。

提携先のKreston Internationalは、2020年度の国際会計事務所売上ランキングで13位にランクインし(売上高2,408.5百万ドル)(*7)、120か国以上に170の事務所を構え、約2万2千人を雇用しているグローバルな会計事務所です。(*8)

なお直近の株式公開企業に対する監査契約の状況について、2019年及び2020年いずれも新規上場企業は担当していないようです。(*9)

2020年7月に近畿第一監査法人と合併しており、2021年6月期は業務収入、クライアント数等、さらなる成長が見込めるでしょう。

2.ひびき監査法人

(1)基本情報

* 「業務及び財産の状況に関する説明書類」より(*10)。以下同じ。

(2)沿革

* 「業務及び財産の状況に関する説明書(第42期)」より引用

(3)売上

2020年6月期の業務収入は14億27百万円となり、前期の13億37百万円と比べて90百万円の増収(+6.8%)となっています。

うち、監査業務は13億82百万円となり、前期12億74百万円に対して1億8百万円の増収(+8.5%)となっています。また非監査業務は44百万円となり、前期62百万円に対して17百万円の減収(△28.0%)となっています。

なお、業務収入に占める監査業務の割合は97%となっており(前期は95%)、中小監査事務所の平均値である85~90%に比べると監査業務の割合が高めと言えます。

(4)クライアント

① 監査クライアント数

* 「業務及び財産の状況に関する説明書(第42期)」より引用

② 非監査クライアント数
2020年6月期は26社に対して非監査証明業務を行っています。なお非監査クライアントのうち、大会社等の数は不明となっています。

(5)コメント

ひびき監査法人は1979年に設立したナニワ監査法人を母体とし、有恒監査法人(2007年)、新橋監査法人及びペガサス監査法人(2014年)と合併をした経緯を持つ監査法人です。本部となる大阪事務所の他、東京にも事務所を構えています。

2020年6月期の業務収入は14億27百万円であり、中小監査事務所の中で最上位に位置しています。監査クライアントとしては関西電力グループの総合設備エンジニアリング会社であるきんでん、大手医療機器メーカーのニプロ等を有し、関西に強みを持っています。また金商法や会社法監査に加え、学校法人監査、労働組合監査なども幅広く手掛けています。

提携先のPKF Internationalは、2020年度の売上ランキングで16位にランクインし(売上高1,473.2百万ドル)(*7)、150か国に220以上の事務所を構え、約2万人を雇用しているグローバルな会計事務所です。(*11)

なお直近の株式公開企業に対する監査契約の状況について、2019年はゼロ、2020年は株式会社カーブス、SANEI株式会社の計2社を担当しています。(*9)

3.監査法人A&Aパートナーズ

(1)基本情報

* 「業務及び財産の状況に関する説明書類」より(*12)。以下同じ。

(2)沿革

(3)売上

2020年7月期の業務収入は11億87百万円となり、前期の10億60百万円と比べて1億27百万円の増収(+12.0%)となっています。

うち、監査業務は10億69百万円となり、前期9億65百万円に対して1億4百万円の増収(+10.8%)となっています。また非監査業務は1億18百万円となり、前期95百万円に対して23百万円の増収(+24.2%)となっています。

なお、業務収入に占める監査業務の割合は90%となっており(前期は91%)、中小監査事務所の平均値である85~90%と概ね近い数字になっています。

(4)クライアント

① 監査クライアント数

* 「業務及び財産の状況に関する説明書類(第31期)」より引用(*12)

② 非監査クライアント数

* 「業務及び財産の状況に関する説明書類(第31期)」より引用(*12)

監査法人A&Aパートナーズは1990年に設立された監査法人エイ・アイ・シーが名称を変更した監査法人であり、2016年に名古屋事務所を閉鎖して以降、東京事務所のみで業務を行っています。なお関係会社として株式上場支援、IFRS導入支援等のサービスを提供する100%子会社のA&Aコンサルティング株式会社を有しています。

2020年7月期の業務収入は11億87百万円であり、中小監査事務所の中で最上位に位置しています。監査クライアントとしてはハウスメーカー大手のタマホーム、大手スーパーのヤオコー、家電量販店大手のヨドバシカメラなどを有しています。また45社の非監査クライアントを抱え、業務収入のうち10%程度は非監査業務より得ています。

提携先の国際会計事務所はPlante & Moran, PLLCとMorison KSI Limitedの2つあります。北米で最大規模の会計・コンサルティングファームであるPlante & Moran, PLLCとは、「相互に専門サービスの提供及び情報の交換」を行うためにインターナショナル・メンバー・アグリーメントを結んでおり、また75か国以上に150のメンバーを有するMorison KSI Limitedとは「メンバーの相互協力を推進」するため、メンバーシップに加盟しています。(*13、14)

なお直近の株式公開企業に対する監査契約の状況について、2019年は株式会社エードット及び株式会社グッドスピードの2社を、2020年はMITホールディングス株式会社を担当しています。(*9)

 

(第2回に続く)

 

【参考・出典・引用】

*1 「令和3年版モニタリングレポート」、公認会計士・監査審査会
https://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20210709/2021_monitoring_report.pdf

*2 「2020 年版 上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書」、監査人・監査報酬問題研究会、
https://jicpa.or.jp/news/information/files/5-99-0-2-20200515.pdf

*3 有限責任 あずさ監査法人、有限責任監査法人トーマツ、EY新日本有限責任監査法人及びPwC あらた有限責任監査法人の4法人

*4 仰星監査法人、三優監査法人、太陽有限責任監査法人、東陽監査法人及び PwC 京都監査法人の5法人

*5 「IPO を目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト」、日本公認会計士協会
https://jicpa.or.jp/business/ipokansa/list.html

*6 「第39期 業務及び財産の状況に関する説明書類」、アーク有限責任監査法人
http://tms.jicpa.or.jp/offios/pub/doc/200704000071/200704000071_setumei.pdf?logitems=200704000071,4

* 7 「WORLD SURVEY 2021」、International Accounting Bulletin
https://cdn.ymaws.com/members.integra-international.net/resource/resmgr/international_accounting_bulletin/IAB-618-World-Survey-2021.pdf

* 8 Kreston Global ホームページより
https://www.kreston.com/about-kreston-global/

* 9 「2020年IPO総まとめレポート」、東京IPO、
https://www.tokyoipo.com/column/tokyoipo_2020_IPOreport.pdf

* 10 「業務及び財産の状況に関する説明書(第42期)」、ひびき監査法人
http://tms.jicpa.or.jp/offios/pub/doc/200704000025/200704000025_setumei.pdf?logitems=200704000025,4

* 11 PKF International ホームページより
https://www.pkf.com/

* 12 「業務及び財産の状況に関する説明書類(第31期)」、監査法人A&Aパートナーズ
http://tms.jicpa.or.jp/offios/pub/doc/200704000078/200704000078_setumei.pdf?logitems=200704000078,4

*13 Plante & Moran, PLLC ホームページより
https://www.plantemoran.com/

*14 Morison KSI Limited ホームページより
https://www.morisonksi.com/


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