今回の実力派会計人は公認会計士・税理士 廣渡嘉秀氏。創業51年目を迎える国内準大手会計事務所の代表取締役社長を務めており、会計事務所におけるIPOコンサルティングサービス業務の先駆者の一人だ。当初、AGSコンサルティングには独立願望を叶えるために入社したが、組織に属する中で様々な出会いや気付きがあったとのこと。そんな廣渡氏について会計士を目指したきっかけから代表取締役になるまで、この業界の魅力に感じていることについて話を伺った。(取材・撮影:KaikeiZine編集部)

変わり者であまのじゃくな性格だったから目指した最高峰の国家資格

会計士を目指されたきっかけから教えてください。

廣渡:もともと映画が好きで、映画人や演劇人になりたかったのです。毎月数百本単位で見ていました。

早稲田大学は文学部演劇映像コースが有名なのですが、学部にこだわらず早稲田大学に入ればサークルなどで演劇に関われると思ったのです。高校3年生の夏までバレーボール部で、成績も450人中、440番。行く大学がないと言われていたのですが商学部に合格することができました。

約2年間アルバイトと演劇サークルに明け暮れてみて、芸術家の集まりのような世界は自分には向いていないなと気が付きました。では将来、何になろうかと考えて、商学部だから会計だ、と資格学校に通い始めました。ただ大学2年生でゼミを決める段階では、まだ会計士を志望していなかったので経営のゼミに入ってしまっていました。大学2年生のときの会計学の成績は、「優・良・可・不可」の「可」。ギリギリで単位を取ったほど、当初は会計に興味がありませんでした。

当初、興味の持てなかった会計の勉強に打ち込むことができたのはなぜでしょうか。

廣渡:当時はバブル期で、周囲は銀行、証券、保険、商社と、どんどん一流企業に就職が決まって楽勝ムード。一方、自分は就職活動をしていないので背水の陣です。それでもやると言ったからには、早めに受からないと格好悪いと思って勉強しました。試験に強い、勝負強い部分もあったと思います。今でもゼミの指導教授に会うことがあるのですが「うちのゼミで会計士になったのは2人しかいない、廣渡君は何でそうなったのか」と言われますよ(笑)。

創業者 虷澤との出会いー。IPOコンサルティングの立ち上げへ

会計士試験(旧2次試験)に合格されて、当時のセンチュリー監査法人にご入社されました。こちらを選ばれた理由は何でしょうか。

廣渡:センチュリー監査法人は、当時BIG4のKPMGと統合したので、外資系だったのです。せっかく会計士になったのだから4年くらいで独立したいと思っていましたし、独立までに一通りのことを学べるところと考えて選びました。KPMGの社風は本当に自由でした。メンバーも皆とても仲が良く、仕事も遊びも徹底的に行っていました。しかし、実力主義である厳しさもあり、仕事のできる先輩も多かったですし、私にはメリハリのある環境がちょうど合っていました。

その後、26歳のときに会計士登録をされて、AGSコンサルティングに入社した経緯は何でしたか。

廣渡:監査法人から独立する前に、会計事務所に入って税務の経験を積みたいと思っていました。AGSコンサルティング(以下:AGS)の創業者の虷澤は、虷澤公認会計士事務所という個人事務所を持っていて、センチュリー監査法人の代表社員でもあったので、これは都合がいいと思って応募したのです。入社時には4年目くらいには独立しようと思っていたのですが、3年目くらいに廣渡公認会計士事務所を作ってもらいAGSに在籍しながら半分独立のような形を取らせてもらえました。そのような体制で仕事をしているうちに自分だけではなくて、皆で働くのが楽しくなっていきました。税務業務においてはゼロからのスタートだった自分を育ててもらいましたし、尊敬できる先輩も多く、次第に組織で働きたいと思うようになりました。

長くAGSにいて、一番印象に残っていることややりがいを感じたことは何でしょうか。

廣渡:現在AGSのキラーサービスとなっているIPOコンサルティングを開始したことですね。案内表記では1999年に開始となっていますが、それまでの5年間にIPOやスタートアップ、ベンチャーのお客様が増えて、だんだん面白くなっていきました。そういう機運もあって、IPOコンサルをする別会社を作りたいと企画書を出したのです。直談判した甲斐あって、やりたいのだったらやらせてみるかと会社も承諾してくれました。その別会社は現在、AGSに合流していますが、このときが源流です。東証マザーズも1999年に開設され、これからはベンチャー、スタートアップの時代がくると感じ、会計事務所側でもニーズに応えなくてはいけないと思っていました。

新しい流れを感覚的に感じられたのでしょうか。

廣渡:それもありますが、単純に仕事として面白かったのも大きいです。昔ながらの中小企業の経営者と事業承継の話をするのも、スタートアップ企業の代表と話をするのも、対極ですが両方好きだしそれぞれ面白いです。中小企業のお客様の対応は、多くの事務所がしていました。それに比べて当時はベンチャー企業、IPO準備企業というのはまだまだこれからという段階で、競合の事務所がいなかったのです。

ベンチャー企業や、スタートアップ企業の社長の多くはそれまで優秀な会社員として月収100万円以上稼いでいた方も、起業した当初の給料は20万円ほどです。そういう社長へ「AGSはIPOが得意だからサポートさせてください」と言っても、高い報酬を出していただけません。しかしそれでも社長と信頼関係を築いていくことが大切です。経営者になる方は人間味のある濃い方が多い。そういう方に気に入られることが、この仕事の醍醐味なのです。こちらが上手くやらないと猛烈なご指摘をいただきますが、担当者がきちんと仕事をしていればすごくかわいがってくれます。IPOは、何となく処理さえすればいいという気持ちでは務まりません。勢いのあるスタートアップ企業やベンチャー企業の代表と同じくらいの情熱を求められます。当社が今でも圧倒的にIPOに強いのは、こういった経験値が物を言っているのだと思います。

代表に就任した矢先、リーマンショックで初の減収に・・・

過去に経営でうまくいかなかった時期があったとのこと。どのように乗り越えたのでしょうか。

廣渡:2008年のリーマンショックまで、売上は右肩上がりでした。当時虷澤は新日本監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)の代表社員も務めていましたがIPOコンサルをしながら監査もするのは、独立性・公正性の観点から問題がありますので、監査法人の代表社員を退任してもらいました。二人でAGSに専念して会計コンサルをフルメニューでやりながら、海外部門や支社を立ち上げて伸びていきました。しかし、それがリーマンショックで完全に停滞してしまいました。

それでも方向性は決まっていたので、アクセルを踏み続けるしかありません。それまではIPOとM&Aが得意な超前向き支援型の事務所でしたが、このころから再生業務も始めました。リーマンショックで皆が一斉に後ろ向き仕事になったので、当社自身もゼロからやろうと言って始めたのです。これによって、AGSは前向きも後ろ向きも全方位でできますと言えるようになりました。

私は総合版の会計事務所を総合病院のようなものだと思っています。これまで会計業界は、クリニックと大学病院しか無いような世界でした。ちょうどいい、総合病院というものが無かったのです。会計事務所自体は6~7万ほどあるのに、クリニックばかり。一方BIG4は大学病院の最たるようなものですから組織的に大きすぎて頼れません。ですから、総合版の会計事務所を作りたいという目標を掲げてきて、現在それが形になってきています。

総合版というのが貴社の特徴ですね。

廣渡:そうですね。事業承継やIPOなど、何か事務所の特色を出すというのも一つの戦略だとは思いますが、当社の場合はどんな場合にも対応できるというのが特徴です。外から見て患者さんから「あそこの病院はどの科も良いらしい」と言われる総合病院を目指しています。入院もできるし、救急も受け付けてくれる、そういう病院です。そして、そういう病院にするためには各先生の腕が確かである必要があります。AGSで働けば、専門家欲求も満たされます。皆でやっているという感覚も持てる組織にすることが理想です。医者の腕は確かで、どんな診療科でもあって、受付の対応もいい。そういう病院なら、患者さんに選ばれるでしょう。組織で働きながら「やはりあの先生は腕が良い」と言われたら、最高ですよね。

KaikeiZine読者へメッセージ

最後に、KaikeiZineの読者へメッセージをお願いします。

廣渡:お話した通り、私自身は初め、会計業界に入ろうと思ってはいませんでした。しかし入ってみて、こんなに面白い仕事はないと思っています。自分で努力して、自分で頑張って考えて、お客様に自分を表現し、認めてもらえる。自分も頑張り、チームとしても頑張る。これがバランス良くやれる仕事という意味では、面白いしやりがいがあります。

私はもう現場に出ていませんが、担当スタッフとクライアント先へ訪問に行くと社長が私に言うのです。「廣渡さん、この方にとてもお世話になりました。この担当の方じゃなかったら、うち、潰れていると思います」と。現場スタッフの日々の努力を心から感謝されている気持ちが伝わり、とても嬉しくなります。頑張っただけお客様から評価していただけますし、本当に喜んでもらえるので、そういう意味でやりがいのある仕事だと思います。

 

【編集後記】

AGSコンサルティングのこれまでを伺うことができ、時代と共に一緒に動いているのだなと感じました。“総合版の会計事務所“としてこれからもお客様のニーズにお応えし続け、時代の変化と共にさらに大きく発展していく様子がとても楽しみです。廣渡様、ありがとうございました!

株式会社AGSコンサルティング/AGS税理士法人

●創業
1970年

●所在地(東京本社)
〒100-0004
東京都千代田区大手町1-9-5
大手町フィナンシャルシティ ノースタワー24F

●理念
マネジメント・サービスをとおして企業の成長に貢献し、日本経済の発展に寄与する。

●企業URL
https://www.agsc.co.jp/

 

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