令和4年1月1日から新しい電子帳簿保存法がスタートします。これまでの電子帳簿保存法より大幅に条件が緩和されたため、税務関係書類のデータ保管がしやすくなりました。反面、うっかりすると青色申告の承認が取り消される可能性も。今回、個人事業主が絶対に押さえておきたいポイントを解説します。

■「4つの変更で電子帳簿保存法は使いやすくなった」と言うが

電子帳簿保存法の始まりは意外と古く、平成10年7月に施行されました。

「従来、税務関係の書類や資料は『紙保存』が鉄則だけど、条件を守るならデジタルデータでの保存も認めるよ」

という趣旨の法律ですが、手続きが煩雑で使い勝手が悪く、利用率はそれほど上がりませんでした。

しかし、令和3年度税制改正で電子帳簿保存法にメスが入ります。誰もが会計帳簿や決算書・申告書、領収書をデータ保管しやすくすべく、次の4つの変更が行われました。

この他、

「優良な電子帳簿(改正前ルールに従った電子帳簿)で保管したら、過少申告加算税は5%軽くするし、e-Taxでの確定申告でなくても青色申告特別控除65万円をOKにする」

「スキャナ保存したデジタルデータそのものに仮装・隠ぺいがあったら重加算税をプラス10%にする」

といった措置も設けられました。「税務DXを進めたい」という国の姿勢はうかがえるものの、改正後の電子帳簿保存法も細かすぎます。

というのが筆者の正直な感想です。

個人事業主の方は、あまり気にしなくてよいでしょう。会計ソフトで打ち込んだデータをイチイチ印刷して保管しなくてもよくなった程度の話です。紙でもらった領収書や請求書はこれまで通り、紙で保管した方が無難です。
ただ、それでも1点だけ意識しておきたい点があります。「電子取引のデータ保存」です。

■電子取引のデータ保存とは何か

電子取引のデータ保存とはどういうものでしょうか。内容に入る前に、電子帳簿保存法が何をどう定義しているのかを見ていきましょう。

●「電子取引」とは電子帳簿保存法上の区分の1つ

電子取引とは、「電磁的記録による保存」の1つです。電子帳簿保存法では、電磁的記録による保存を「電子帳簿保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つに分けています。

「電子帳簿保存法が改正されました(令和3年5月)」(国税庁)より引用し、加工して作成

つまり、オンラインで他社からもらった請求書や納品書といったものが「電子取引」に該当するわけです。

これまでは紙で印刷し、それを保存していれば、所得税や法人税でいうところの「帳簿等の保存義務」を果たしたことになりました。しかし、来年1月1日以降、紙での保管は「帳簿等の保存」だと認められなくなります。次のように「デジタルデータそのもの」で保管しないといけないのです。

●「取っておけばOK」ではない

「なるほど。じゃあメールやPDFをとりあえず取っておけばいいんだよね?」

と感じたかもしれません。しかし残念ながら、それだけでは不十分です。単に保管するだけではなく、次の条件も整えておく必要があります。

1.検索できるようにする・いつでも出力できるようにする

検索条件は緩和されましたが、「検索そのものができなくてもよい」とはなっていません。電子帳簿保存法では、保存要件を「真実性」「可視性」の2つの視点から定めています。「検索できるようにする」「いつでも出力できるようにする」は、可視性を確保するための要件なのです。

個人事業主が無理なくできる対策として、次の2つが挙げられます。

ただ、この条件を完全に無視しても問題ないケースがあります。「基準期間における売上高が1千万円以下の事業者」です。彼らは特別に、「検索機能を備えていなくてもいい」とされています。

なお、ここでいう基準期間とは、前々事業年度のことです。「消費税の課税事業者の判定と同じ」とイメージすると分かりやすいかもしれません。

2.「このデータは唯一無二である」ことを証明できるようにする

電子帳簿保存法が求める電子データの保管で、もう1つ重要なのが「真実性の確保」です。改ざん防止のために必要なわけですが、ここでは「次の4つのいずれかができていればいい」とされています。

もっともラクなのは「『訂正削除の記録が残る』『訂正削除ができない』システムを使う」です。電子取引向けのソフトを検索するか、あるいはJIIMAの認証しているシステムを参考にするといいでしょう。

しかし、それだけでは不安な方もいるかもしれません。その場合は、事務処理規定を準備しておくことをおススメします。国税庁のウェブサイトにサンプルがあるので、こちらを参考にしながら作成するとよさそうです。

【参考】電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程(個人事業者の例)(国税庁)

■電子取引の保存で個人事業主の税務はどうなる

「電子データの保存」は何やら手間が増えて面倒くさそうです。ただ、面倒だからといってルールを無視すると、「青色申告の承認の取消」といった事態になるかもしれません。

●青色申告の承認の取消リスク

自身の稼ぎを「事業所得」で申告している個人事業主の大半は、青色申告を行っているかと思います。もし、電子取引の内容をデジタルデータで保管せず、紙だけで保管すると青色申告の承認が取り消されるおそれがあります。

取り消されてしまうと、次のようなデメリットが生じます。

・青色申告特別控除ができない(e-Taxで申告してもダメ)

・30万円未満の固定資産の即時償却ができない

・損失を繰越控除したり、繰戻還付を受けたりできない

・青色専従者にしていた家族への給与を必要経費にできない

・貸倒引当金の計上ができない

●消費税の仕入税額控除は

「電子取引はデータのみ保存」が強く影響するのは所得税と法人税です。一方、消費税は原則「紙の保管」を仕入税額控除の条件としています。所得税だけでなく消費税も納めている個人事業主は、電子データだけでなく紙のデータも保管しておいた方が無難です。

税理士の間でも「難しい」と言われる電子帳簿保存法。「『実際の運用がどうなるか』は、年が明けないと分からない」としか言えません。ただ、それでも最低限、本稿でお伝えしたことだけは留意しておいたほうがいいでしょう。


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