今回の実力派会計人は、税理士・朝倉歩氏。2004年より約12年間、現・デロイトトーマツ税理士法人に勤務。シニアマネージャーとしてトーマツ重要クライアントのうち10社以上の主任を担当し、売上高1兆円以上の一部上場企業からグループ子会社まで、延べ1,000社以上の企業に対して税務助言を行ってきた実績を持つ。現在は、全国に9カ所あるサン共同税理士法人と、10社以上のグループ会社を構える若手実力派会計人だ。そんな朝倉氏も税理士になるまでに遠回りをした過去があったと語る。今回は、朝倉氏のこれまでのキャリア、そして自身の中でモットーとしている”生き方”について迫ります。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)
“自由”と“楽しさ”を選んだ末、辿りついた税理士の道
税理士を目指したきっかけを教えてください。
朝倉:元々幼いころから数字が好きで、小学校でも計算ドリルを配られたら一日で全部終えてしまうほど、きれいに答えが出る算数・数学は得意でした。しかし中学・高校は地元の仲間と遊ぶことに夢中で、勉強そっちのけでバイクに乗ったり、アルバイトをしたり…。とにかく楽しく、ストレスフリーでありたいということだけを考えて生きていましたね。
ところが、勉強以外に時間を使い過ぎた結果、通っていた理系の高専は単位が足りず、地元の公立高校へ転校することになります。その後は、専門学校へ入ったものの、自分のやりたいことではなかったので一カ月も続かずに退学の道を選び、父のツテで建設会社で働き始めましたが、それも一カ月で辞めて…。こんな感じで当時の私は何をやっても続かなかったのに、ふと高校の頃に自分と遊んでいた友人を見ると、皆ちゃんと社会人として働いているのです。取り残されたような感覚になりました。
これからどうしたらいいのかと考えるうちに、まだ遊びたかったのもあり、それなら大学に行こう。そう思って急遽秋ごろから予備校に通わせてもらい、3カ月の猛勉強の末、何とか都内の私立大学に入学。この受験の経験は、その先の人生でも大きなターニングポイントになりました。集中して努力すれば結果が出るという成功体験を積めたことが、この先でも支えになったのです。
こうして大学生になることができたのですが、いざ入学してみると周囲の大学1年生はそれまで勉強をしてきたからこれから遊ぶという人たちばかり。一方、私はそれまでに散々遊び尽くしていたのと年齢の差もあり、キャンパス内で孤立してしまいました。そういった背景と、受験期間で勉強をする習慣もついていたので、大学では何か勉強をしてみたい気持ちになっていました。その頃、半導体製造業の社長をしていた父が「生まれ変わったら全然違った業種だが税理士をやってみたい」という話をしてくれました。「税理士は勉強したことを活かせるし、いろいろな業種を見ることができる。」という言葉が魅力的で、会計業界を目指すことになります。
大学1~2年生のうちは単位取得と専門学校に通う費用を稼ぐためにアルバイトを頑張り、大学3年生から本格的に税理士試験の勉強を開始し、簿記論・財務諸表論に合格。そこから専門学校にも通い始めて、現在弊所の代表社員を勤める新井と出逢います。そこで5~10人くらいの勉強仲間ができていつも一緒にいるようになりました。このときに1つ上の勉強仲間だった先輩が税理士法人トーマツ(現・デロイトトーマツ税理士法人)に入所し、具体的にどんな仕事をしているかなどを教えてもらうようになりました。給与明細まで見せてもらい、新卒ではとても魅力的な年収と仕事内容に私もトーマツに入所したいと思うようになりました。
しかし当時は就職氷河期。最低2科目は必要で4科目持っていると有利と聞いていたので、とにかく必死に勉強をしました。大学4年生のときには卒業に必要となる大学の単位を取得しながら、法人税・消費税を受験して無事合格し、実務経験があると更に就職に有利になると聞いて、会計事務所でアルバイトもしました。就職に影響のある大学4年の夏の受験は卒業単位が不足していたのもあり大変でしたが、大学受験の経験があったから何とか頑張れましたね。
こうして大学を卒業後、8月に相続税を受験して、無事に10月に税理士法人トーマツに入所し、入所した年の12月に相続税に合格し、5科目取得することができました。
マネージャー昇格後2年でシニアマネージャーに。異例の昇格を果たす
デロイトトーマツ税理士法人には12年間勤務されています。
朝倉:ここでは”税理士の仕事”の本質的な部分を学びました。条文をひたすら読んで、上場企業など大手企業から学科試験の問題のような難しいクライアントからの税務相談について必死に考えて、顧客に提案をする。その結果自分がレベルアップできて、しかも給料をもらえる税務の世界に魅了されました。税理士の仕事というのは、知識を突き詰めれば詰めるだけ、顧客に喜ばれ、自分自身にも返ってくるということを実務を通じて実感したのです。
ターニングポイントといえるのは、国際税務のスペシャリストだと思われるようになってから。入所してからスタッフのときは間接外国税額控除やタックスヘイブン対策税制などの国際税務に特化して売り込むことを決めました。通常シニアスタッフが担当する間接外国税額控除のテクニカル研修の講師も当時まだスタッフでしたがその研修の講師を依頼され、私もその分野に自信を持っていたのですが、税制改正でその分野がなくなってしまって…。
シニアスタッフのときはタックスヘイブン対策税制を中心とした業務を行っていましたが、マネージャーに昇格してからは、連結納税の導入提案がメインの業務となりました。大手の上場企業は基本的には連結納税を導入していますが、国際税務や組織再編税制など数多くの難題な税務論点を抱える大手の上場企業への連結納税の導入提案は上場企業税務の最終的な総合問題のような業務で、非常にやりがいのある業務でした。
結果を出し続け、所属部署の営業リーダーのポジションを与えてもらい、他のチームの提案書を収集して提案書の品質をあげる業務を行っているうちに、さらに大きな案件を数多く獲得して、評価されていきました。そしてマネージャー昇格後通常4年のところ、2年でシニアマネージャーにもなり、パートナー候補としてさらに難易度の高い個別案件や個別案件など、事務所全体として重要な業務・役割を任されるようになりました。
こうして有難いことに出世街道を歩んでいたのですが、難易度の高い税務はやりがいがある反面、リスクもあり大きな仕事が成功するまでいつも失敗ができない不安と戦っていました。また難しい高度税務はIT技術による自動化も難しく担当できる人も少ないので、大きな案件を受注しても任せる人材がいないという問題にも悩んでいました。
本当はもっと楽しく、ストレスフリーに生きたかったはずなのに。
それなのに気になるのはリスクのことや、この仕事をずっと続けてIT化に出遅れないかの不安ばかり。
これからは、もっと自由に働ける自分でイメージした組織を作っていこう、そう思い2016年3月。35歳のとき独立をすることにしました。
楽しいことだけを考えて働いてほしい。朝倉氏の願い
独立後、1年目で八王子事務所をM&Aされています。
朝倉:2016年の4月から、予備校時代からの友人である新井や元トーマツの女性メンバーでサン共同税理士法人を立ち上げました。新井は一緒に勉強していたころから私が知る中で最も人柄の素晴らしいリーダータイプの人間で、困っている人を見ると放っておけない性格。いつか一緒に仕事がしたいなと思っていました。創業時の元トーマツの女性税理士メンバーは、子育て中とのことでトーマツを退職した方が多いので、その女性が働きやすい環境を目指して在宅勤務などを導入。当初から、ストレスフリーな職場環境を作ろうと、働き方改革には力を入れていました。
独立当初は、ブランド力はないし、マーケティングの知識もなく集客は紙によるDMでの対応。とにかく顧客を増やさないといけないもあり、顧客層も選ばずに戦略もないまま集客をしていました。すると案件は増えたものの、遠方からの新規問合せで訪問しても雑居ビルの薄暗い中で話だけ聞いて終わってしまう案件だったり、日本語が話せない外国籍の方もいたりして…。
集客用のDMも自前で作成し、プリンターも自分たちで用意しないといけなくて、インクがこぼれて全身青のインクまみれになってしまったことも(笑)。
これまでは法人内で様々なことが用意されている環境で、お客様は大企業ばかり。丸の内の華やかな高層ビルで仕事をしていましたから、ギャップは大きかったですね。しかし、弊社も最初は税務だけのサービスでしたが、税務だけでなく融資や助成金や補助金なども対応できるようになり、グループ会社や拠点も増えて、自信を持ったサービスをIT技術も活用して幅広く・低価格で提供できるようになっていくのは、とてもやりがいを感じました。
一年目の2016年4月に事務所をスタートさせ、2016年6月2日に税理士法人を作ったのですが、9カ月後に八王子にある会計事務所からM&Aの話をいただきました。先方の先生は30歳くらいの若い公認会計士の方でしたが「ウェブ集客が得意で案件は増えているが実務はやりたくない。もっと得意な集客業務に専念したい」ということで承継を検討しました。八王子の拠点長を誰にするかという点については、新井は前の税理士法人でも他の会計事務所とのM&Aを経験していましたし、拠点長としての業務は遂行できる人でしたので、新井を拠点長として引き受けることにしました。
あれから6年。現在拠点は、全国に9カ所あり、支店展開する拠点のほか、進行中で承継する拠点のお話もいくつか進んでいます。こういったM&Aのお話は、セミナー講師や同業関係者からのご紹介などのご縁でお話が進んでいます。お話をいただく中で感じるのは、税理士という職業も個人事務所経営が難しくなってきているということです。IT、集客、採用、など本来の税理士業とは別の業務に時間を取られて本来自分がやりたかった税理士業務が所長税理士だとできなくなってきています。弊社では拠点長は本来の税理士業務に集中してもらい、IT、集客、採用は本部が行うという手法で経営しています。
現在、拠点長として勤務してくれている先生方は、以前より満足して仕事ができていると話してくださっています。拠点長として参加したいと言ってくれる税理士全員が自分のやりたいことを実現できている。やりたくないことや、やらなければいけないことは得意な人(本部)がやってくれている相互の関係がうまく組織として機能しているからだと思います。
私自身、自由に生きたいという気持ちから、学生時代は遠回りをしてしまったこともありましたが、大学卒業後に税理士となり、トーマツでプレイヤーとして経験を積み、今は税理士法人の代表となり私の役割が変わってきているんだなと思っています。
一緒に仕事する役員・従業員の全員が仕事内容的も経済的にも最高の生活を送るために組織は存在しています。そのためにはある程度の規模が必要なので成長は続けますが、会社の成長は従業員の最高の生活を実現するための成長としか考えていません。私はその実現のために代表として役割を担っていると考えています。
税理士事務所の仕事は、自分で習得した知識が顧客へのサービスに直接繋がる素晴らしい仕事です。この業界は、ブラックな慣習がまだ一部で残っていますが、IT化を進めるなどにより、楽しく働けて、自由に働ける余地がまだまだあります。
私が一番突き詰めていきたいのは、一人ひとりがストレスなく仕事ができるか、楽しく働けるかです。とにかく長く勤めてほしい。ストレスなくみんながのびのびと働いてほしいのです。つらいことは1秒もやりたくないですし、楽しいことだけをずっとやり続けたいので、会社としてメンバー全員がそれを実現できるようしています。
【編集後記】
会計業界をより働きやすくしたいとも仰っていた朝倉先生。業界の働き方改革を実現すべく、これからも成長を目指し走っていかれるのですね。朝倉先生ありがとうございました!
サン共同税理士法人
●設立
2016年6月2日
●所在地
■港区青山オフィス 東京都港区南青山1-1-1 新青山ビル東館15階
■中央区日本橋オフィス 東京都中央区日本橋本町2-6-1 日本橋本町プラザビル2F
■板橋区オフィス 東京都板橋区氷川町26-5 栄ビル1F
■八王子市オフィス 東京都八王子市横山町9-11 小泉ビル4階
■北千住オフィス 東京都足立区千住1-4-1 東京芸術センター10階
■横浜オフィス 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-6-1 みなとみらいセンタービル19階
■五反田オフィス 東京都品川区西五反田一丁目26番2号 五反田サンハイツ306
■大宮オフィス 埼玉県さいたま市大宮区桜木町1丁目266−3
■沖縄オフィス 沖縄県宜野湾市字大謝名215 レキオススクエア 2-D
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クライアントに常に最高水準のサービスを提供する専門家集団であり続けること
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