今回は、法務の観点から上場を支援する東京グリーン法律事務所の古郡賢大先生に、IPOやM&A時に会計側と法務の連携がスムーズにいくコツについてお話を伺いました。
東京グリーン法律事務所のパートナー弁護士である古郡先生は、約6年前から継続して東京プロマーケットの上場支援に取り組まれています。会計士の業務において、既にIPOやM&Aに関する分野で活動されている方や、今後この分野に積極的に関わっていこうと考えている方などは、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

目次
- 上場するにあたって法務が関わる領域と支援の流れ
- IPOにおける会計側と法務の連携
- 東京プロマーケットとマザーズにおけるIPO上の法務デューデリに違いはあるのか
- IPOとM&Aの法務デューデリの違い
- 東京グリーン法律事務所について
- まとめ
1.上場するにあたって法務が関わる領域と支援の流れ
はじめに、上場支援の一般的な流れについて簡単にご説明します。
まず、上場の準備をしている対象会社があると証券会社からご連絡があり、法務デューデリジェンスの依頼があります。その後、証券会社、対象会社、財務デューデリジェンスを担当する会計士、法務デューデリジェンスを担当する弁護士等で顔合わせをします。
キックオフミーティングでは、法務デューデリの概要・ポイントをお伝えするとともに、法務デューデリは法的問題点があれば、協同して上場までに解消・改善するために行うものであることを対象会社にご説明します。その後、秘密保持契約や法務デューデリ業務の委任契約を締結した上で、法務デューデリを行うにあたって確認が必要となる資料のリスト等をご連絡し、対象会社から資料を開示いただき次第確認を開始します。開示をお願いする資料については、取引先との契約書、会社内部の組織運営に関する資料、人事労務に関する資料、許認可関係に関する資料、所有する不動産・動産・知的財産まわりの資料等、多岐に渡ります。
まずはこれらの資料を確認し、資料だけでは分からないことがあれば、対象会社にヒアリングを行います。その後、法務デューデリの調査報告書を作成し、中間報告を迎えます。
中間報告で問題点としてご指摘した事項については、上場までに問題点が解消されるようにアドバイスもさせていただきます。その後最終レポートを作成・報告して上場を迎えます。
2.IPOにおける会計側と法務の連携

IPOにおける会計側と法務とで必ず連携すべき分野があるというわけではありませんが、法務としては、財務デューデリでは数字に現れにくい簿外債務やそのリスクを発見しきちんと分析するように努めています。
例えば、未払い残業代が多い会社であれば、その金額によっては会社に与えるインパクトは非常に大きくなりますし、今後の事業継続という観点からも、必要に応じて労務管理体制を早期に見直す必要があるでしょう。また、リスクの把握という観点からは、契約書にいわゆる暴排条項の規定が正しく整備されているか、現在顕在化していないだけで過度な責任負担を将来強いられる可能性がある取引条件で合意している契約書がないか等にも重点をおいて確認しています。
また対象会社に対するインタビューを実施してもなお疑問点が残る場合には、必要に応じて対象会社が契約している顧問弁護士や顧問社労士等の専門家にもヒアリングをするなどしています。
会計士と弁護士の連携がスムーズにいくためのコツ
会計士と弁護士は、財務デューデリと法務デューデリとして、基本的には分担してそれぞれが役割を果たすことが求められているので、特別に何かを連携して行うことはあまりありませんが、例えば、知的財産の権利関係について弁護士が確認して意見を述べ、その価値ついては会計士の見解を得る必要があるといったケースで連携することはあり得ます。権利関係の確認及びその判断は弁護士が、それを前提にした価値の算定評価は会計士が行うことになりますが、双方が考えている法律上・会計上の問題点を連携して早めに共有しておくことで、お互いの仕事がスムーズに進むという面は多分にあるように思います。
またこのような具体的事情が生じた場合に限らず、何か疑問点があれば、会計士と弁護士がすぐに質問し合える関係を築いておくことが重要です。そのような意味では、キックオフミーティングは、ざっくばらんに会計士と弁護士で情報交換できる貴重な機会といえるかもしれません。