国税不服審判所令和3年5月17日裁決(T&Amaster No.918 2022.2.14 36~39頁)
1.事実関係
本件は、ポイントプログラムの参画事業者である審査請求人(請求人)が、当該プログラムを利用する会員に対し役務提供をした際に、当該会員が当該役務提供の対価の支払いに利用したポイントについては、当該会員から金銭を受領していないこと等から、課税資産の譲渡等の対価の額に含まれないとして消費税等の更正の請求をしたところ、原処分庁が更正をすべき理由かない旨の通知処分を行ったことから、請求人が、その全部の取り消しを求めた事案である。
請求人は、美容室の経営等を目的とする法人であり、第三者(運営者)が運営するポイントプログラムに参画したところ、同プログラムでは、会員登録を行ったユーザー(本件会員)が、参画事業者の店舗で提供されるサービス(事業者提供サービス)を予約し、利用した場合、本件会員に対し、利用料金を消費税率で割り戻した額に相当する額の共通ポイントが付与され、また、本件会員は、事業者提供サービスを利用する場合、自己の有する共通ポイントを、その支払方法の一部として利用することができるとされていた。なお、参画事業者には、本件会員が利用した共通ポイントについて、プログラム運営者の定める方法により、金銭による精算が行われていた。
ポイントプログラムの実際の運営において、請求人が本件会員に対して発行したレシートの控え(本件レシート)には、請求人が本件会員に提供した事業者提供サービスの内容並びにその対価の額である消費税及び地方消費税(消費税等)込みの売上金額(本件売上金額)が記載された上、その対価の支払方法として、現金、クレジット等及び本件会員が支払方法の一部として利用したポイントの数(本件ポイント利用分)が記載されていた。
請求人は、平成29年6月1日から平成30年5月31日までの課税期間の消費税等について、法定申告期限までに確定申告したが、その後の原処分庁の調査に基づき、平成31年4月12日に修正申告書を提出した。さらに、請求人は、令和元年5月29日、本件ポイント利用分の金額は、課税資産の譲渡等の対価に額に該当しないものであり、課税標準額に算入したことが誤りであったとして、更正の請求をしたところ、原処分庁は、令和2年4月1日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
2.争点
本件ポイント利用分の金額は、消費税法28条1項の課税資産の譲渡等の対価の額に含まれるか否か。
3.請求人の主張
消費税法28条1項において、課税資産の譲渡等の対価の額は、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とする旨規定しているところ、本件ポイント利用分の金額がこれに含まれるとは明記されておらず、しかも、本件会員からは本件ポイント利用分に係る金銭を受領していないことから、当事者間で授受することとした対価の額には本件ポイント利用分の金額は含まれないと解釈すべきである。
4.審判所の判断
- (1)法令解釈
消費税法28条1項は、消費税の課税標準となる課税資産の譲渡等の対価の額とは、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額をいう旨規定しているところ、これは、実際に収受した、または収受する権利が確定している対価の額を意味すると解される。この点、基本通達10-1-1は、この場合の「収受すべき」とは、その課税資産の譲渡等を行った場合の当該課税資産等の価額をいうのではなく、その譲渡等に係る当事者間で授受することとした対価の額をいう旨を定めており、当審判所においても相当と認められる。
- (2) 検討
上記(1)のとおり、消費税の課税標準となる課税資産の譲渡等の対価の額は、当事者間で授受することとした対価の額であるところ、上記のとおり、本件レシートには、請求人が本件会員に対して提供した事業者提供サービスの内容及びその対価の額である消費税等込みの本件売上金額が記載されていることから、本件売上金額が、請求人と本件会員との間で合意し、授受することとした消費税等込みの対価の額であると認められる。そうすると、請求人が本件会員に対して提供した事業者提供サービスに係る課税資産の譲渡等の対価の額は、本件売上金額から消費税等に相当する金額を控除した金額であると解される。
そして、本件会員が事業者提供サービスの対価の支払に本件ポイントを利用した場合も、本件ポイント利用分の金額を含む本件売上金額が本件レシートに記載されていることから、本件ポイント利用分の金額を含む本件売上金額が、請求人と本件会員との間で、事業者提供サービスの対価として授受することとした対価の額であると認められる。
よって、本件ポイント利用分の金額は、消費税法28条1項の課税資産の譲渡等の対価の額に含まれる。
- (3)請求人の主張の排斥
請求人は、上記3.のとおり主張するが、本件における課税資産の譲渡等の額は、請求人と本件会員との間で授受することとした対価の額、すなわち、本件レシートに記載された本件売上金額から消費税等に相当する金額を控除した金額であり、たとえ、請求人が対価として収受すべき金額の一部を金銭に代えて本件ポイントで受領したとしても、当該判断に影響を及ぼすものではない。
なお、請求人は、本件ポイント利用分の金額は本件会員から金銭を受領していない旨主張するが、本件会員が使用した本件ポイント利用分の金額については、ポイントプログラム運営者から請求人に対して、精算金として金銭が支払われることとなっている。
5.解説
改めていうまでもなく、消費税法28条1項の規定は、課税資産の譲渡等の対価の額は、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額をいうとされている(下線筆者)ので、請求人の主張は無理筋以外の何物でもないといえる。
ところで、ポイント制度に係る課税上の取扱いについては、国税庁ホームページ(タックス・アンサー)で以下のものが公表されている。
- 共通ポイント制度を利用する事業者(加盟店A)及びポイント会員の一般的な処理例(①https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/0019012-152.pdf)
- No.1907 個人が企業発行ポイントを取得又は使用した場合の取扱い(②https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1907.htm)
- No.6480 事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方(③https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6480.htm)
本件に関していえば、上記①にポイント使用時の仕訳例が示されており、税込処理及び税抜処理それぞれ次のように計上することとされている。
(「税込220円の商品を販売、会員が110ポイント使用して決済」の例)
上記仕訳における未収金の部分は、上記3(4)のポイントプログラム運営者からの精算金を示しており、請求人においてもその部分は精算されたはずであるから、会計仕訳の面からも請求人の主張の矛盾が指摘できるのである。
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