所得税や個人事業主の消費税の申告と納税は翌年3月ですが、年の中途や確定申告期限までに提出しないで亡くなったりした場合には、4カ月以内の申告と納税が必要です。今回は「準確定申告」について、元国税徴収官が分かり易く説明します。

◇準確定申告とは

ひとくちに準確定申告といっても、納税者の死亡による準確定申告と、出国による準確定申告の2つがあります。

◇死亡による準確定申告

所得税や個人事業主の消費税は、納税者の1年間(1月1日から12月31日まで)の所得や課税取引について計算し、確定申告期限(原則として所得税は翌年の3月15日、消費税は同3月31日)までに申告と納税をすることになっています。

しかし、年の中途で死亡した場合には、その相続人が代わりに計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければなりません。これを準確定申告といいます(所得税法第124条、第125条 消費税法第45条2項、3項)。

この場合、納税者が翌年の1月1日から確定申告期限までの間に確定申告書を提出しないで死亡した場合には、前年分、本年分とも相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。

なお、納税者が確定申告期限までに申告書を提出しないで提出期限後に死亡した場合の相続人の申告には、準確定申告の適用はなく期限後申告となります。

≪参考≫納税者が死亡したときの準確定申告(国税庁HP)

〇準確定申告書付表の作成

相続人が2名以上いる場合の準確定申告書には、各相続人等の氏名、住所、被相続人との続柄などを記入した準確定申告書の付表を添付します。

付表には被相続人のマイナンバーは記載不要ですが、相続人のマイナンバーの記載は必要です。なお、各相続人の捺印は不要です。

また、準確定申告は、他の相続人の氏名を付記して各人が別々に提出することもできます。この場合、当該申告書を提出した相続人は、他の相続人に申告した内容を通知しなければならないことになっています(所得税施行令第263条)。

≪参考≫準確定申告書の付表(国税庁HP)

〇振替納税はできない

口座名義人本人が亡くなっていますので、準確定申告の納税には振替納税は利用できません。

〇e-Taxによる準確定申告

平成30年度税制改正により、令和2年分以降の確定申告時に青色申告特別控除(65万円)の適用を受ける場合には、e-Taxによる電子申告又は電子帳簿の保存が要件とされました。

これを受け、令和2年分以降の所得税の準確定申告(死亡の場合)も、青色申告特別控除(65万円)の適用が受けられるよう、e-Taxでの電子申告が出来るようになっています。

ただし、国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーからの準確定申告書の作成はできません。別途、e-Taxソフト等での作成が必要です。

この場合、相続人が1名の場合でも付表をe-Tax(XML形式)で送信する必要があります。

また、相続人が2名以上の場合には、各相続人が申告内容等を確認し署名した上で作成した「準確定申告の確認書」を作成しPDF形式で送信する必要があります。

≪参考≫準確定申告のe-Tax対応について(国税庁HP)

〇還付金の受取には

準確定申告の還付金を相続人各々が受領する場合には、準確定申告書の付表の「7還付される税金の受取場所」欄に記入します。

また、相続人の代表者等に一括受領させる場合には、委任状を作成し、確定申告書の付表と一緒に提出が必要です。

なお、委任状への印鑑は必要ありません。

≪参考≫準確定申告用委任状(国税庁HP)

〇還付金の課税関係

準確定申告の還付金は本来被相続人の財産ですから、還付金請求権は相続財産であり相続税の課税対象となります。

なお、還付加算金は相続人が準確定申告書の提出によって取得するもので、被相続人からの相続によって取得するものとは認められないため相続税の課税価格には算入されません。還付加算金は、相続人の所得税(雑所得)の課税対象となります。

〇準確定申告の提出先

被相続人の死亡当時の納税地の税務署長に提出します。相続人の住所地の税務署ではありませんので注意が必要です。

〇その他の留意点

・各種届出書等

亡くなられた方が事業等を行っていた個人事業主であれば、廃業届出書や給与支払事務所等の廃止届出書の提出が必要です。

なお、消費税の課税事業者であれば、個人事業者の死亡届出書の提出も必要となります。

また、事業を承継した相続人は、新たに事業を始めたときの届出が必要となりますので忘れずに手続きを行いましょう。

さらに、相続人は免税事業者であっても、消費税の課税事業者となる場合がありますので、消費税課税事業者の判定には注意が必要です。

≪参考≫個人事業の開業・廃業届出等手続(国税庁HP)

≪参考≫給与支払事務所等の廃止の届出(国税庁HP)

≪参考≫個人事業者の死亡届出書(国税庁HP)

≪参考≫新たに事業を始めたときの届出など(国税庁HP)

≪参考≫相続で事業を引き継いだ場合の消費税の納税義務について(国税庁HP)

◇出国による準確定申告

確定申告義務のある者が、確定申告書の提出期限までに納税管理人の届出をしないで出国する場合には、原則として、その出国の時までに準確定申告書を提出しなければなりません(所得税法第2条1項42、第126条、第127条)。

〇準確定申告書作成上の留意点

準確定申告書第一表の上部余白に、出国予定日を記載します。

納税には口座振替が利用できませんので、出国前に納税を済ませる必要があります。

還付金がある場合には、還付金の入金が済むまでは受取口座の解約をしないようにしましょう。

〇納税管理人の届出書を提出した場合

納税管理人が出国する納税者に代わって申告・納税を行うことになりますので、準確定申告書の必要がなく、本来の確定申告期限までに申告及び納税を行います。

≪参考≫納税管理人(国税庁HP)

◇まとめ

出国の場合には、納税管理人を届け出ることで何も心配することはありませんが、そうでなければ、出国までの間に準確定申告により申告と納税を済ませておかなければなりません。

また、納税者が死亡した場合の準確定申告は、相続税のように相続開始から10か月以内の申告ではなく、相続開始から4カ月と期間が短いですので、早目の申告・納税の手続きが必要です。


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