2.IPOに向けた広報で必要なこと
IPOに向けた広報で必要な対応を下記に列挙します。
中小企業なら「まあ無くてもいいか」なんて考えがちな内容も多いですが、IPOを目指すなら必須の内容です。
①社内の情報管理
IPOをするということはインサイダー取引リスクや株価への影響を踏まえ、どんなタイミングのときに「何を言って良いか、何を言ってはいけないか」といった情報発信のルール作りと実行力が必須となります。上場の前と後において従業員に教育の機会を設けず、ルールを徹底しないまま、IPOを迎えることはとても危険と言えるでしょう。広報だけではなく、営業や仕入れの担当者を含めて、対外的にコミュニケーションを行う可能性がある部署や人すべてに関わる話となります。
また、必要な情報を適時に発信できる体制も構築することが必要であり、発信のための判断を行える基準づくりや承認プロセスなど体制づくりも重要となります。さらに、従業員や役員のSNSやメディアにおける情報発信ルールの作成・啓蒙も必要です。
②プロジェクトマネジメント体制構築
上述のように多数の関係者がいるIPOチャレンジの場合、スケジュールも重要となります。このため単なるタスク処理ではなく、関係各所へ働きかけながらプロジェクトとしてすすめる強さが必要となります。
③コーポレートサイトの充実
東証一部銘柄は機関投資家の取引が多いですが、マザーズは個人投資家の取引が60%ほどあり、個人投資家は情報収集をコーポレートサイトに頼る所が大きいため、重要なコミュニケーションポイントとなります。このため、コーポレートサイトを充実させることが大切です。コーポレートサイトの充実させるポイントは次のとおりです。
・IRページの作成
上場承認後に投資家への重要な情報提供となる場です。開示資料だけではなく、代表的な指標項目である売上、営業利益、経常利益、当期純利益の4項目や、重要なKPIとなる指標、投資判断で重要とされる指標を一目瞭然で直接IRページに表示することも好ましいです。
(1)PER(株価収益率:Price Earnings Ratio)(倍)= 時価総額/純利益
(2)PBR(株価純資産倍率:Price Book-Value Ratio)(倍)= 時価総額/自己資本
(3)ROE(自己資本利益率:Return On Equity)(%)= 当期純利益/自己資本
・社長や経営陣、従業員などのキャラクター性が見える情報発信
最近の消費者の傾向として、商品だけではなく、商品を提供している主体である会社自体の考え方や働く人々への意識が重要視されています。このため、投資家も株価に与える影響として企業の顔の見える化を重要視する傾向が強まっています。
・ストーリー性のあるCI(コーポレート・アイデンティ)
CIの要素として、MI(マインド・アイデンティ)VI(ビジュアル・アイデンティ)、BI(ビヘイビア・アイデンティティ)などがあります。これらを伝達出来ることに加え、共感が得られるようなストーリー性のある理解しやすいCIのブラッシュアップが望まれます。
④メディアトレーニング
営業のコミュニケーション力や従業員のモチベーションを上げる演説が得意な社長のコミュニケーションスキルがあったとしても、メディア対応は全く別のスキルとなります。上場後は取材時に話す内容に細心の注意を払う必要があるのです。リスクを冒さないために話さないのでは、結局は情報発信不足として厳しい評価を得ます。立ち居振る舞いからどのように対応すべきか経営者に学んでもらえるように段取りをすることが必要です。
⑤ロードショーの段取り
ロードショーとは、ブックビルディングとも言います。上場承認を受けた後から株式公開前の期間において、機関投資家に向けて行う会社説明の機会です。公開時の公募・売り出し価格の需給動向を判断する大切なタイミングであります。主に目論見書の作成などが重要なポイントとなります。
⑥目論見書の作成
ロードショーで投資家に対して交付される書類です。新規上場時に提出する有価証券届出書を抜粋する形で作成されます。目論見書には図表によるわかりやすさやイメージなどビジュアルデザインにこだわった見やすいダイジェストを最初に添付します。デザインや印刷を考慮したスケジュールを組む必要があり段取りが重要です。
⑦上場承認タイミングでのプレスリリースの準備
⑧上場時のタイミングでのプレスリリースの準備
⑨上場当日のセレモニーの企画
取引所内にあるスタジオを活用するなどして、動画の撮影や配信、初値決定の瞬間を見るイベントなどのセレモニーを企画います。従業員全員が市場にいくわけにもいかないので参加メンバーの選定や参加の方法、当日の流れ、市場でのセレモニー後の自社や関係者を集めたセレモニー等の企画を行います。
⑩取引所内外での決算発表と記者会見
⑪株主総会の開催体制の構築
予測できない関係者が多数発生するが、質問などをコントロールできないためセンシティブなイベントとなります。
⑫株主からの電話など対応体制の構築
⑬機関投資家、アナリストへの対応体制の構築
⑭沈黙期間の段取り・管理
⑮開示資料の作成体制の構築
⑯危機管理広報の段取り
IPOを行うと特に重要度が増す内容です。想定外のトラブルが発生した際に、起きてしまった(起こしてしまった)事象に関して、日に油を注がず、沈火できるように、世間や株主などのステークホルダーに対して誠実にお詫びをするためのコミュニケーションの段取りが重要となります 。