税理士として独立開業をする際に選ばなければいけないのが、“会計ソフト”です。最近では各社がさまざまなサービスを展開していますが、一体どのサービスを使えばいいのか、悩まれている方も少なくないのではないでしょうか?
アンパサンド税理士法人では、金融機関からEコマースまでの多岐にわたる連携サービス、会計ソフト以外の請求管理や給与計算などの豊富なアプリケーションもあることから、会計ソフトは「マネーフォワード クラウド」を使用しているとのこと。マネーフォワード クラウドを選んだ理由、そして独立開業した税理士が成功するための心構えについても、解説いただきました。
(記事執筆:アンパサンド税理士法人・代表税理士、山田典正/撮影:レックスアドバイザーズ、市川)
関連記事
「2023年版-会計ソフトの選び方とは?法人向けと個人向けの違い」
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/568/
マネーフォワード クラウドを選んだわけ
税理士として独立する、そして自分の事務所を構える。税理士資格をお持ちの多くの方は、それを1つの目標としているではないでしょうか。
実際に会計事務所を開業する際には、顧問料の設定から、事務所の物件選び、HPや名刺の作成、PCやプリンターの選定まで、決めなければいけないことはたくさんあります。記帳代行業務で使う会計ソフトの選定も、そのうちの1つです。
私は、都内にある税理士法人で7年ほど勤務した後、2015年1月に独立しました。ちょうどクラウド会計が流行り始めたくらいのタイミングだったので、従来のアナログ型・オンプレミス型の会計ソフトだけでなく、そちらも試してみようと思い、何社か検討をして、最終的に「マネーフォワード クラウド」をメインで利用することに決めました。
決め手となった理由の1つが、それまで使っていたマネーフォワードの会計簿サービスでした。これがとても秀逸なソフトで、非常に使いやすかったので、サービス全体への高い期待感から、マネーフォワード クラウドを選びました。また、弊所代表の辻が金融機関出身だったのと、金融機関が株主として複数入っていたのも、もう1つの理由です。会計事務所の仕事ではお客様の大切な機密情報を扱うので、情報流出対策は万全か、データが消えてしまわないかなどの懸念点をクリアしなければなりません。セキュリティ対策も万全なマネーフォワードは、金融系のバックグラウンドがある企業でもあるので、導入への社内理解が得やすかったです。
では、実際に利用してみてどんな点が良かったかという話を具体的にしていきましょう。大きく分けて、以下の3つが挙げられます。
1. 銀行・クレジットカード・Eコマースなどの連携が豊富
あらためて、クラウド会計とは、パソコンにソフトウェアをインストールしなくても、インターネットにつながっていればいつでもどこでも使用できる会計ソフトのことを指します。
ちなみに、会計事務所で顧問先の経理業務を行う際によく課題に挙がるのが、入力の手間や転記ミスなど、人が関わることで発生する時間の浪費や間違いです。しかしクラウド会計を使えば、銀行、クレジットカード、EコマースなどのWebサービスと連携し、自動仕訳が可能になるので、入力の手間が省け、入力間違いも防げます。さらにクラウド上で顧問先の資料も見られるので、欲しい情報をすぐに確認することも可能です。
顧問先によっては、金融機関やECサイトとの連携を着手できていないケースもあると思います。マネーフォワード クラウドなら、金融機関や、Eコマース、ECサイト、クレジットカードなどの連携可能な会社の数も多いので、外部連携を進めて、アナログ作業を減らすことができます。また、顧問先が外部連携ができない場合もあると思います。その場合も、マネーフォワード クラウドにはExcelやCSVのインポート機能もあります。データ読み込みの間口も広いのです。他にも、たとえば顧問先が毎月同じような取引内容ならば、自動仕訳の設定を活用すれば、ほとんどの仕訳がボタン1つでできてしまいます。多少コツはいりますが、初めて登録した取引は基本は自動仕訳に分類され、その後も登録されていくので、仕訳をしていくうちに効率化がどんどん進みます。
会計ソフトを使う人、つまり事務所の従業員によって、当然その理解度やスキルは異なるでしょう。業務を標準化するためにも、クラウド会計を使いこなしているスタッフが、社内でノウハウ共有をすることも欠かせませんが、マネーフォワード クラウドは、会計事務所の通常業務に慣れ親しんだスタッフに使い勝手が良いと感じてもらえるユーザーインターフェースになっています。不慣れな方でも、すぐに使いこなせるようになるでしょう。
2. その他の外部連携やサービスも豊富で、柔軟性が高い
マネーフォワード クラウドは、会計ソフト以外の機能も充実しています。給与計算や経費精算から、請求管理や債務支払、電子契約や勤怠管理まで、一定のラインまでなら定額で使用することができます。バックオフィスの業務に必要なサービスがパッケージ化されていて、使えば使うほど価値が発揮できるのです。実際、弊所自体の管理業務でも会計、請求書、給与計算、経費精算、電子契約の機能を使用していて、それがさらにマネーフォワード クラウドを使う顧問先のサポートにも活かされるという、良い循環を生んでいます。
注意すべき点を挙げるとすれば、全情報が必ずしもタイムリーに連携するわけではないので、事故が発生する可能性がゼロではありません。できないことも理解し、それに関して顧問先と一定のルールを設けるのも重要です。さらなる注意点としては、サービスがそれぞれ分かれているので、横ぐしでの把握が難しいという点もあります。たとえば消込の連動もできなくはないのですが、やや使いにくさはあったりします。ただ、「V-ONEクラウド」というクラウド型入金消込システムとの連動もできるので、そうした外部連携をうまく使いながら、使いにくさを解消していくことは可能です。そのような柔軟性の高さも、マネーフォワード クラウドの魅力の1つだと思います。
外部連携に関しては、もう1つ特長的なサービスがあります。それが、自動で領収書がスキャンできる「STREAMED」です。私見ですが、2023年10月のインボイス制度開始で、この「STREAMED」は需要が拡大するのではと見ています。インボイス制度では、仕入税額控除の要件が変わるので、支払先が適格請求書発行事業者として登録しているかの確認が必要?必要ではない?という議論がされていますよね。それに関しても、先日「STREAMED」で適格請求書発行事業者の自動判別機能を実装予定だと発表されたので、さらにニーズが高まるのではと見ています。また、「STREAMED」は電子帳簿保存法の改正にも対応済みなので、一定の要件を満たせば、スキャンデータでの対応も可能です。それにより、原始証憑を保存しておく必要がなくなるわけです。そうした豊富な外部連携も、マネーフォワード クラウドの魅力でしょう。結局のところ、重要なのはソフトをどう使いこなすかです。単に入力代行を行う“ソフト”として使うか、インボイスや電子帳簿保存法にも対応できる“ソリューション”として使うかで、その価値は大きく変わってきます。
ちなみにインボイスに関しては、「Peppol(ペポル)」という電子インボイスの国際規格が導入されるという話もありますよね。クラウド型のマネーフォワード クラウドなら、API連携も容易なので、そうして新たな制度や仕組みが出た場合でもすぐに対応できるようになるでしょう。そうした期待が持てるのも、クラウド会計ならではですよね。
3. 独立税理士を悩ますコミュニケーションコストを解決
独立開業をし、顧問先とやりとりをする中で、会計事務所と中小企業の経営者との間で“当たり前の基準”が大きく異なるというのも、痛感しています。依頼した資料や必要な情報が顧問先から届かない、また質問や確認事項への顧問先の返事が遅れたり、返事自体が来なかったりすることで、コミュニケーションコストが増えていくのは、業界の大きな課題です。
こうしたコミュニケーションコストが抑えられる点も、マネーフォワード クラウドを導入して得られたメリットです。先ほど解説したように、顧問先に口座連携をうながしたり、請求管理、給与計算、経費精算などのサービスを利用したりしてもらうことで、よけいなコミュニケーションを取ることなく、必要な情報を素早く確認することができます。言い換えると、マネーフォワード クラウドを使えば、通常の記帳代行に加えて、請求管理、支払管理、経費精算、給与計算といったサービスも顧問先に提供ができる、つまり、経理代行というプラスアルファのサービスが提供できるようになるわけです。会計サービスに加えて、ある顧問先では請求管理サービスも使う、別の顧問先では支払管理サービスだけ使うなど、アレンジを利かせることもできるので、ニーズに合わせたサービス提供もできます。
“アナログ”と“デジタル”の二律背反の業界で独立開業するのに、大切なこと
あらためて、税理士として独立開業するのに重要なのが、他の会計事務所との差別化、つまりブランディングです。そのために会計事務所としてどの分野に特化すべきか、何を得意業務として打ち出していくかを模索されている方も、多いと思います。今回解説したクラウド対応は、税理士業界全体を見渡してもまだまだ足りていないように感じます。そうしたITリテラシーを高めていくことで、差別化はできると思っています。
また、もし顧問先がITに苦手意識があれば、そうなってしまっている事情や感情を理解してあげるのも重要です。デジタル庁は、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」というミッションを推し進めていますが、顧問先と同じ目線に立ち、その上で目的設定をし、デジタル化が叶うよう寄り添ってあげることが重要なのです。
そのデジタル庁の発足に加え、IT導入補助金の対象範囲が広がったりと、国や行政はITへの投資を推奨しています。それは、国が世の中のデジタル化がまだ進んでいないと認識しているとも言えますし、実際自分の周りを見渡しても、ITに明るくない方のほうがまだまだ多いのではないでしょうか?言い換えれば、時代は二極化しています。デジタルに強い人は、SaaSなどを使いこなし、高いレベルでどんどん仕事の効率化を進めています。その一方で、旧型のアナログなシステムさえ使いこなせていない方もまだまだいるとも感じます。また、こちらがいくらITに明るくても、顧問先とのコミュニケーションでIT関連用語が伝わらないようでは、本末転倒ですよね。上級者だけでなく、ITリテラシーが高くはない顧問先も利用しやすいマネーフォワード クラウドは、そうした状況にぴったりのクラウド会計ソフトです。
最後に、自分はデジタル化の本質的価値とは、さまざまなITツールを使いこなすことで、旧来のアナログの業務フローをショートカットできる点にあると考えています。その意味では、元々のアナログの業務フローを整理することも重要です。それによって、そもそも何を目的とした作業なのか、どこに課題があるのかなどが把握でき、そこからITツールを活用してフローや作業を効率化することで、デジタル化がより意味のあるものになるはずです。それも、顧問先と共にIT化・デジタル化を進めていく上での重要なポイントの1つでしょう。
本気で独立開業を成功させたいのであれば、結局いちばん大切なのは、「顧客の根本的なニーズにいかに寄り添えるか」だと言えます。“アナログ”と“デジタル”の両方の視点を持ち、顧問先に合わせて柔軟な対応をしていくこと、それがいま求められていると感じています。法改正などの動向も確実にキャッチアップし、マネーフォワード クラウドといった会計ソフトを積極的に使い、ITリテラシーを向上させていけば、時代に取り残されることなく、顧問先と共に成長していくことができると思います。
株式会社マネーフォワード
●設立
2012年5月
●所在地
東京都港区芝浦3-1-21 msb Tamachi 田町ステーションタワーS 21F
●企業URL
●監修者情報
アンパサンド税理士法人・代表税理士、山田典正
大学を卒業後に税理士試験に専念した後、2008年1月に都内大手税理士法人に就職。 個人や中小同族会社の税務相談や経営周り全般の相談から、大手上場企業の税務相談まで、幅広い分野で活躍。事業承継、組織再編、連結納税、国際税務、事業再生と多岐に渡るコンサルティング実績がある。また、相続申告業務についても多数の実績を有する。
2015年1月 山田典正税理士事務所として独立。独立後も、補助金支援において創業補助金採択、ものづくり補助金採択の実績を有し、生産性向上設備投資促進税制の申請支援、資金調達支援、事業承継支援、上場企業の税務顧問等、多数の実績を有する。