会計士 中村亨の「経営の羅針盤」第26回です。企業がSDGsの取り組みを継続・定着させていくには?また実践に伴うリスクは?安定した自社SDGs実践のためにできること、すべきことをお話していきます。

4回目となる今回は、前回に引き続き実践編の第2弾です。

前回は、実践の基本の流れを押さえました。要約すると以下のようになります。

SDGsに対する全社的コンセンサス形成→課題把握→テーマ決定→テーマに沿ったToDoの実践→自社評価・自社アピール

ここまでで1つの取り組み、ですね。

今回のテーマは、「SDGs取り組みの継続とリスクヘッジ」です。

SDGsは「持続可能な開発目標」です。1つの取り組みを一度実践し、仮にそれがうまく機能したとしても、社内外のESG問題がすぐに、すべて解決するわけではありませんし、これからもその取り組みが機能し続けるとも限りません。

持続可能な社会を実現していくためには、恒常的に取り組みを行っていくことが必要です。また、安定したSDGs実践のため、取り組みを進めていくにあたってのリスクヘッジについても触れていきたいと思います。

まずは取り組みの定着・継続についてです。

自社評価のその後

自社のSDGsを記録、評価していくと、取り組みに対する改善点や反省点、新たな課題などが見えてくると思います。その取り組みがうまくいっていても、そうではなくても、SDGsの自社への定着・継続のためには「さらにブラッシュアップした取り組みを!」という視点が必要です。例えば以下のような考え方で、再検討してみると良いと思います。

1. 直線的発展の取り組み

その取り組みがなかなか効果的であった場合、今後さらに良い効果・結果も期待できます。

より高い目標(いわゆる「ストレッチ目標」)を設定し、現取り組みを継続していくことで、SDGsの実践を自社に定着させていきましょう。

2. 類似・関連したテーマへの取り組み

少し視座を変え、現取り組みのテーマを俯瞰して考えてみましょう。

今回のテーマと関連するテーマで、より効果が生み出せそうなもの、あるいは同時並行で行うことで相乗効果を生み出せそうな取り組みはないでしょうか?

一度始めたからとその取り組みに固執することなく、別の角度から検討してみると、より効果的な取り組みの発見が期待できます。

3. 得られた知恵・ノウハウを応用した新たなテーマへの取り組み

例えばジェンダー平等のための人材登用に取り組んでいた企業が、その成功事例とノウハウをもとにコンサルティング事業を行う、などがこれです。

少々長いスパンでの実績の蓄積が必要かとは思いますが、自社の事業開発という意味でも、重要な視点といえます。

新たなSDGsの担い手の育成

企業のSDGsを実行していくのは、自社のスタッフたちです。

そのスタッフは決して固定されたものではありませんね。

個々さまざまな理由で、変動していくものです。

その結果、せっかく実践の初期段階でSDGsに対する全社的コンセンサスをとっていたとしても、人が変わり立場が変わることで、その意識が薄れていってしまう可能性があります。

これを避けるため、

  1. 新しいスタッフが入ったとき
  2. スタッフが昇格したとき

には、再度の研修機会やミーティングでの共有機会を設け、自社のSDGsについてのリテラシー教育を実施すると良いと思います。

それぞれの内情で、伝え方や内容を柔軟に変化させていけると、より効果的でしょう。

例えば新卒スタッフが入社してきたときには、まだたくさんの知識と価値観を吸収できるタイミングでもありますから、これからのSDGsのリーダーを育てる姿勢をもって研修を行うのがよいですね。

中途採用の場合、自らの職務倫理観や価値観などがある程度固まってきているところもあると思います。

逆にそれを活かし、自社のSDGsを伝えながら相手の考えや意見なども取り入れる、ミーティング方式の方がよいかもしれません。

昇格・昇任者については、今後管理監督者としての立場からSDGsに触れてもらうので、企画・経営的立場の視点を取り入れた上で実施するのが望ましいでしょう。

人材の育成は企業にとってとても大切なパートですので、手を抜かず行っていきましょう。

バリューとしてのSDGsの継承

スタッフだけではなく、経営者側も不変ではありません。

事業継承は重要な経営課題ですが、現代の事業継承では、ESG問題への対応は、避けることができないものだと思います。

企業理念や経営方針、技術的なことや財政的なことと同様に、自社のSDGsというものについても、ひとつの価値観(=バリュー)として継承していくことが、企業が生き残っていくためには必要であると考えます。

そして後継者への価値観の継承には、十分な準備期間が必要です。

ポイントとして以下の2点を挙げたいと思います。

1. 現場で直接SDGsの取り組みに従事させ、実体験をさせること

生の苦労や現場の声を知らないことには、経営側に立ってから他でもない本人が苦労をすることになります。

現場の様子を測りかね舵取りに行き詰まりますし、スタッフの信頼もそこそこでは、求心力を得られぬトップになってしまうことが予想されるためです。

このような未来を避けるためにも、現場での実体験は必須といえるでしょう。

2. 社外のパートナーたちと積極的に交流を図り、パートナーシップを強化しておくこと

特に中小企業においては、SDGsの取り組みは自社単独では限界があります。

また前回のコラムでも触れたとおり、SDGsの取り組みはサプライチェーン全体の責任です。

もちろん普段の企業活動からパートナーとの関係性は大切ですが、SDGsにおいてもパートナーシップはとても重要です。

このことを肌で実感し、ネットワーク機能を強化しておくためにも、後継者に積極的に対外パートナーと協働してもらうことが必要です。

後々にそのネットワークに自らが救われることもあるでしょう。

 

ここまで、SDGsの取り組みの定着・継続について解説してきました。

ここからは、安定した自社のSDGsのためのリスクヘッジについてお話ししていきます。

SDGsの推進にあたっては、もちろんリスク的な面も存在しています。

前回の実践の基本の中でも、準備段階から「障害は取り除いておく」「見える化が大切」など、リスクヘッジ的内容には触れてきたところですが、今回はSDGs特有のリスクについて、そしてその予防について、理解を深めていきたいと思います。

SDGsウォッシュとは?

SDGsウォッシュという言葉を、皆さんは聞いたことがあるでしょうか?

SDGsウォッシュとは、SDGsの本質とねらいを理解せず、本気ではないのにもかかわらず、表面的に自社の活動によってSDGsに取り組んでいるふりをする、すなわちうわべだけのSDGs活動のことをいいます(SDGsの17のゴールのラベルを自社の既存の製品・サービスに貼り付け、本業では取り組んでいないのに対外的にアピールすることを「SDGsラベル貼り活動」などどいいます!)。

SDGsにより、企業を取り巻く環境は変化し、企業に対する見方も変わってきていますね。

SDGsを実践しています!とアピールすることは、消費者や人材、投資家から選ばれる企業になる1つの手でもあります。

企業の多くは自社のCSR活動を報告する「CSR・サステナビリティレポート」や「統合報告書(マニュアルレポート)」などを発行していますが、近年はSDGsに言及することも求められます。

このような風潮の中、自社はSDGsに取り組んでいると言いたくなる気持ちも分かります。

しかし、実の伴わない、詐欺的アピールは、企業にとってマイナスでしかありません。

SDGsウォッシュが起きてしまうとどうなる?

マイナスでしかない理由をお話ししていきましょう。

本気で取り組んでいるわけではないので、企業自体に何の成長や変化ももたらしません。

一見すると企業価値が上がったように見えるかもしれませんし、外部の評価も上がったように感じるかもしれませんが、実際はそんなことはなく、ただの自己満足となってしまっています。

世界の流れは本来のSDGsのあるべき姿に向いているので、逆行する形をとってしまっていることにもなります。

最近はこのSDGsウォッシュという言葉もある程度認知され、SDGsやESG投資の領域で実態以上に市場から評価されている企業は規制を受けるようになってきています。

投資・格付け会社、非政府組織(NGO)、メディアなどが独自の基準でSDGsウォッシュ企業を洗い出して名指しで批判することもあるようです。

これまで築き上げてきた信用を失うリスクが高まりますし、顧客を失うことにもなりかねません。

SDGsウォッシュは、ステークホルダーへの背信、自社の経営資源の浪費となりえる、SDGsに取り組む上での最大のリスクと言ってよいでしょう。

SDGsウォッシュを予防するために

取り組みを推進していくにあたっては、SDGsウォッシュを予防することが大事です。

まずは次の4つの視点で自社のSDGsをチェックしてみましょう。

1. ESG問題に有効で、かつ、現在進行形で行っているか?

SDGsは元々ESG問題を解決するための概念です。

そのためESG問題の解決/抑制につながらないものは、そもそもSDGsの実践とは言い難いでしょう。

さらに、現在取り組んでいるものでなければ現在のESG問題の解決/抑制になりませんので、現在進行形で行っている取り組みであることが必要条件となります。

2. 根拠となる記録をもって説明ができるものか?

根拠となる記録のない取り組みのアピールは、取り組み自体の偽装を疑われてしまいます。

記録は企業にとって資産であると前回述べましたが、ステークホルダーへの説明責任を果たし信用を得るため、そうして自社が正当な評価を得るために、記録による説明を含んだアピールが不可欠です。

3. 誇大・あいまいな言語表現や関連性の低いビジュアルを用いた情報発信を行っていないか?

これは情報発信の基本ともいえそうですが、要するに偽りにならない、誤解を生まない、ということです。

取り組みを実際よりも大げさに発信したり、言葉の意味が規定しにくく具体性に欠ける表現を使用したり、視覚情報で紛らわせたりする。こういった事実とは異なる不透明な発信は、企業の信用問題に関わります。

4. 都合の悪い情報でも発信しているか?

SDGsの取り組みにおいて、都合の良いところだけを発信するのではなく、実績をありのまま発信する方がベターです。

少々振るわない結果であったとしても、ステークホルダーに対して誠実な姿勢を取ることが最終的には自社の信用につながります。

誰もが手探りでSDGsに取り組んでいます。

逆に何も問題がなく完璧であるかのように装えば、SDGsウォッシュとして不信を買います。

あくまでも「偽らない」、この姿勢が大切です。

予防の対策はまだまだある!

この他にも、企業の体制づくりや日々の取り組み姿勢の中で、SDGsウォッシュを予防する対応策を挙げることができます。

以下の3つをご紹介したいと思います。

1. 社内でのESG問題対策をする

社内のESG問題には、不法投棄や労災隠しなどのように、法令で明確に禁止されている行為と、ハラスメント対策やエコ対策などのように、適用が充分にはされていない、義務化されていない行為とが存在します。

法令対策にしっかり取り組むことはもちろんのこと、ハラスメント対策などのESG問題にも社内でルールをまとめ、適切に取り組むことが必要です。

フローとしては、対策をルール化→周知→状況をモニタリング→必要に応じ改善・対応をとる、といったところでしょうか。

ルールが形骸化することなく、社内に浸透し機能していくように、経過観察と定期的な見直し、改善措置をとっていくようにしましょう。

社内のESG問題対策は当たり前のようですが、だからこそ気を抜きやすいところでもあります。

SDGsウォッシュ予防のためにも、改めて社内の対策を見直してみると良いと思います。

2. 企業理念に反する行為を予防する

企業理念というとやや高尚な雰囲気が出てしまいますが、平たく言うと「仕事人として不適切と思われる行為(=倫理に反する行為)を行わない企業作りをする」ということになります。

例えばノルマ。

自社の経営状況に見合わないノルマを設定して、スタッフに大きな負担をかけてはいないでしょうか?

ストレッチ目標を超えてあまりに無理難題なノルマを掲げてしまうと、思わぬところでの手抜きや、取引先へ無理な要求あるいは不誠実な営業をしかねません。

適切な目標設定を行いましょう。

また、取引相手に対して、取引時の利益に配慮ができているかどうか、も大切な視点です。

SDGsのパートナーシップの大切さはお伝えしてきているところですが、パートナーとはWIN-WINの関係性が大前提ですね。

自社にばかり利益がある、相手にばかりリスクがある、という不誠実な関係性ではなく、公正な関係性を築くよう、自社の体制を整えることも必要でしょう。

3. やりがいの搾取を予防する

SDGsの目標8に「働きがいも経済成長も」といった項目があります。

スタッフのやりがいを守っていくことも、今の企業には求められています。

よってスタッフのやりがいを搾取することのないような環境作りを行っていく必要があります。

まず企業が取り組めることに、金銭面と時間面の配慮があると筆者は思っています。

金銭面ですが、スタッフの経済的安定を提供できることが、企業の前提にあると思います。

よって、社会生活の持続可能な給与を支払うこと、あるいは必要経費をスタッフに負担させないこと、などは最低限守られているべきことと考えます。

次に時間面ですが、多すぎる残業・早出など、スタッフの時間を奪いすぎてはいないでしょうか?

無償労働などはもってのほかですが、賃金が発生していようとも、無理な労働時間を強い、スタッフの心身の健康を搾取するようなことがあってはなりませんね。

 

ここまでいかがでしたでしょうか?

次回は実践編の第3弾として、「SDGsのパートナーシップ」を取り上げたいと思います。

今回のコラムでも、「パートナー」というフレーズが多く登場しました。ここまでお話ししてきた中で「リスクもあるし、実践は継続が必要だし、ちょっとハードルが高くない?」と思う方が多くいらっしゃるのではないかと思います。

筆者もそう思います。

そこでこの「パートナーシップ」です。

「経営資源を活用しあう」というところがポイントになります。

是非次回のコラムも見てみてください。

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