2022年版4大監査法人の決算分析シリーズ。第1回は業務収入で監査業界をリードする有限責任監査法人トーマツ(以下トーマツ)について、2022年度を中心に直近5期の決算を分析していきます。

1.業務収入

業務収入、いわゆる売上の推移から見ていきます。

(1)業務収入推移

* 「業務及び財産の状況に関する説明書類」(*1)をもとに作成

* グラフの表示単位は百万円(切捨)(以下、特に断りがない限り同じ)

 

2022年5月期(以下、2022年度)の売上は1,388億円となり、前期比+151億円(+12.2%)と大幅に増加し、前年度に続いて過去最高売上高を更新しています。

ただし2022年度から収益認識に関する会計基準を適用しており、これにより売上は90億円増加しています。

当該影響を除くと前期比+60億円(+4.9%)となりますが、それでも増収決算であり、かつ過去最高売上高であることは変わりません。

直近5期の売上推移を見てみると、継続して1,000億を超え、またこれで4期連続増収となっています。

2018年度からの年平均成長率(以下、CAGR)は+7.3%となり、トーマツは順調に業績を拡大しています。

監査業務と非監査業務に分けて売上推移を見てみます。

(2)監査業務

まずは監査業務の売上推移です。

i.業務収入推移

2022年度の監査売上は861億円となり、前期比+29億円(+3.5%)で、過去最高となっています。

全体の売上同様、こちらもきれいな右肩上がりとなっており、これで4期連続の増収決算です。

2018年度からのCAGRは+3.8%となり、全体の伸び(+7.3%)よりは下回っているものの成長を続けていると言えます。

監査業務について、クライアント数と1社あたり売上に分けてみてみます。

ii.クライアント数推移

2022年度の監査クライアント数は3,244社となり、前期比+12社(+0.4%)となっています。

クライアント数は2013年度の3,642社をピークに減少を続けていましたが、2022年度は僅かながら増加しています。

とはいえ2013年度と比較すると9割程度にとどまっており、ここ数年の傾向と変わらずクライアントを絞り込んでいるようです。

ⅲ.1社あたり業務収入推移

* 1社あたり監査業務収入=監査業務収入÷(期首期末の平均監査クライアント数)

 

2022年度の1社あたり売上は2,660万円となり、前期比+110万円(+4.3%)となっています。

クライアント数が減少する一方で売上単価は右肩上がりとなっており、4期前の2018年度(2,205万円)と比べると+21%と大幅に上昇し、またCAGRは+4.8%となっています。

監査業務に関しては、公認会計士・監査審査会のモニタリングレポートにもある通り、大手監査法人から準大手等へのクライアント流出が進んでいます。(*2)

その一方で単価は上昇傾向にあり、このトレンドはここ数年継続しています。

なお2022年度は監査クライアントが微増となっており、クライアントの絞り込みにめどが立ったのかもしれませんが、今後の推移を見極める必要がありそうです。

(3)非監査業務

続いて、トーマツの強みである非監査業務の収入推移です。

i.業務収入推移

2022年度の非監査売上は526億円となり、前期比+122億円となっています。

こちらも右肩上がりとなっており、特に直近2期は2021年度が+20.2%、2022年度が+30.2%と大幅な増収が続いています。

4期前の2018年度と比べると+222億円(+73.1%)、CAGRは+14.7%に達しており、得意の非監査でさらに成長している様子がうかがえます。

非監査業務についてもクライアント数と1社あたりの売上に分けてみてみます。

ii.クライアント数推移

2022年度の非監査クライアント数は2,868社となり、前期比△199社(△6.5%)となっています。

ここ5期で見ると2022年度は最も少なく、ピークの2019年度3,123社と比べると△255社(△8.2%)と1割弱減少しています。

監査クライアント同様、非監査でもクライアントを厳選していると推察されます。

iii.1社あたり業務収入推移

* 1社あたり非監査業務収入=非監査業務収入÷(期首期末の平均非監査クライアント数)

 

2022年度の1社あたり非監査売上は1,774万円となり、前期比+459万円(+34.9%)となっています。

2018~2020年度にかけて1,000万円程度で横ばいでしたが、2021年度は+230万円、2022年度は+459万円と大幅な伸びを見せており、単価の上昇が非監査業務の増収につながっていることが分かります。

非監査業務についても、クライアント数を絞り込みつつ売上単価を高めることで増収というトレンドになっていますが、2022年度はクライアント数が6.5%減少する一方で売上単価は34.9%と大きく増加しており、この傾向に拍車がかかっています。

以上より、売上についてまとめると、ここ数年のトレンド通りクライアントを厳選しつつ単価アップに取り組むことで増収及び過去最高売上を達成しています。

特に非監査では前期比122億円(30.2%)増加という大幅な増収決算となり、売上高は526億円に達しています。

なお非監査売上の526億円という金額は4大監査法人の一角であるPwCあらた有限責任監査法人の2021年度売上高548億円(監査、非監査合計)に匹敵しており、相当な規模であることが分かります。

参考までに、非監査業務が全体の売上に占める割合を見てみると、2022年度は37.9%(前期比+5.2%)となっています。

2018年度との比較では+8.8%となり、非監査の占める割合が年々高まっています。

もともとトーマツは非監査業務に強く、EY新日本有限責任監査法人(2021年度14.7%)、有限責任あずさ監査法人(2021年度20.9%)に比べると非監査業務の割合が高めです。

2022年度は得意の非監査をさらに伸ばし、非監査業務割合は4割に迫る水準まで高まっています。

成長の余地が大きい非監査業務に強いことがトーマツの強みの一つであり、この分野の成長が業績をけん引していると考えられます。

2.業務費用

次に費用に目を向けてみます。

(1)業務費用推移

2022年度の業務費用は1,378億円となり、前期比+157億円(+12.9%)でこちらも過去最高を記録しています。

売上の増加と足並みを揃えて費用も増加しており、2018年度からのCAGRは+7.4%と、売上のCAGR+7.3%と同程度となっています。

売上に占める業務費用の割合(業務費用比率)では、2022年度は99.3%となり、前期比+0.6%と増加していることから、コスト増が増収を上回っているようです。

なお、ここ5期の業務費用比率は99%前後で推移しており、従来と変わらない水準となっています。

* 業務費用比率=業務費用÷業務収入

トーマツは、業務費用を「人件費」「人材開発費用」「ファシリティ費用」「情報システム及び通信費」「その他業務費用」の5つに分類しています。

そのうち、全体の7割を占める最大のコストである「人件費」の推移を見てみます。

(2)人件費推移

2022年度の人件費は1,073億円となり、前期比+136億円(+14.6%)と大きく増加しています。

ただし、この中には収益認識基準の適用による増加(業務委託費+85億円)が含まれています。

当該影響を除くと前期比+51億円(+5.5%)となりますが、それでも売上の増加率(4.9%)を上回っています。

人員数と1人当たりの人件費に分けてみてみます。

(3)人員数推移

* 海外駐在及び海外派遣の監査スタッフを除く

 

2022年度の人員数は7,343人となり、前期比+338人(+4.8%)と、2期連続で増加しています。

4期前の2018年度と比べると+685人(+10.3%)となり、1割以上増員しています。

(人員数内訳)

人員の内訳を見てみると、まず目を引くのは監査補助職員(2,858人)で、2021年度の2,433人に対して+425人(+17.5%)、4期前の2018年度(1,893人)と比べると+965人(+51.0%)と大幅に増加しています。

監査補助職員については、リスクアドバイザリー事業本部に所属する職員のほか、トーマツ監査イノベーション&デリバリーセンターにおける監査アシスタントの増加が考えられます。

一方、使用人としての公認会計士は前期比△83人(△3.2%)、2018年度との比較では△221人(△8.2%)となり、またその他の事務職員等は前期比△63人(△40.4%)、2018年度比では△168人(△64.4%)となっています。

(4)1人当たり報酬給与・賞与推移

* 1人当たり報酬給与・賞与=(報酬給与+賞与+賞与引当金繰入)÷(期首期末の平均人員数)

 

2022年度の1人当たり報酬給与・賞与は1,044万円となり、前期比+20万円(+2.0%)と僅かながら増加しています。

2020年度までは900万円前後で推移していたものの、2021、2022年度は1,000万円を超える水準となっています。

人件費単価の高い公認会計士(使用人)が減少し、比較的単価が低い監査補助職員が増加しているものの、1人当たり報酬給与・賞与が伸びていることから、増収を背景とした賞与の増加や残業代の増加等があったのかもしれません。

(5)その他の業務費用

項目別の業務費用推移を見てみます。

人件費以外では、その他業務費用+13億円(うちグループ分担金+5億円、旅費交通費+4億円)、情報システム及び通信費+7億円(うち消耗品費+3億円)等となっています。

2022年度においては人件費(+136億円、うち収益認識基準適用の影響+85億円)を中心とした費用の増加(+157億円)が売上増加(+151億円)を上回ったことで業務費用比率が上昇しています(2021年度98.7%→2022年度99.3%)。

その結果、増収にもかかわらず、営業利益ベースでは減益決算となっています(「4.利益 (1) 営業利益、営業利益率推移」参照)。

3.営業外収益費用、特別損益

(1)受取利息・配当金

2022年度は受取配当金15億円が計上され、前期比+14億円と大きく増加しています。

なお注記表における関係会社との取引高には受取配当金の記載はなく、全額が関係会社以外からの配当となりますが、具体的な配当の支払先は不明です。

(2)特別損益

2019年度にはトーマツイノベーション株式会社(当時)の株式売却益46億円等、2020年度には関係会社へのソフトウエア等売却益7億円が計上されるなど、トーマツの特別損益にはいろいろな項目が計上されていますが、2021年度に引き続き、2022年度も特別利益、特別損失ともに計上なしとなっています。

4.利益

続いて利益について見ていきます。

(1)営業利益、営業利益率推移

2022年度の営業利益は9億円、営業利益率は0.7%となり、前期比△6億円(△39.7%)となっています。

2022年度は非監査を中心に売上が大きく増加しましたが、人件費をはじめ各種のコストが増加したことで営業減益決算となっています。

営業利益率は0.7%と低い水準にあり、2021年度の1.3%から低下しています。

なお他の大手監査法人と比べて利益率が特段低いという訳ではなく、監査法人のビジネスモデル上、妥当な水準なのかもしれません。

(2)当期純利益、当期純利益率推移

2022年度の当期純利益は25億円、当期純利益率は1.8%となり、前期比+17億円(+209.1%)となっています。

2022年度は営業減益でしたが、受取配当金15億円を計上したことで経常損益・税引前損益ベースで増益、さらに法人税等も減少(2021年度9億円→2022年度2億円)したことで当期純利益も増益(2021年度8億円→2022年度25億円)となっています。

5.その他

ここまで損益計算書を中心に見てきましたが、それ以外で金額的に大きな項目として支払配当があります。

最後に利益処分である配当について見ておきます。

* 支払日ベース

 

2021年度は支払配当金として25億円が計上されていましたが、2022年度は無配となっています。

2018~2022年度にかけての社員1人当たり配当金額を見ておきます。

直近5会計期間のうち、3期は有配、2期は無配となっており、有配の2019~2021年度における社員1人当たりの金額は2019年度304万円、2020年度797万円、2021年度が442万円となっています。

最後に

監査業界をリードし、成長を続けている有限責任監査法人トーマツについて、2022年度の損益計算書を中心に決算を分析してきました。

売上については昨年に引き続き過去最高を更新して1,388億円となり、特に非監査業務は前期比+30.2%と大幅な増収を達成しています。

利益面では、人件費の増加等により営業利益こそ減益でしたが、受取配当金の増加を主要因として経常利益、税引前利益及び当期純利益では増益で着地しています。

2022年度の決算数値を見る限り、ここ数年のトレンドであるクライアントの厳選と単価アップという方針はうまく機能しているようですが、監査クライアント数が微増となるなど、これまでと少し異なる動きも見えてきます。

2023年度以降、トレンドの転換がみられるか、また引き続き非監査を中心に業績を拡大していくのか、注目です。

 

【参考・出典】

*1 「業務及び財産の状況に関する説明書類」、有限責任監査法人トーマツ

*2 「令和4年版 モニタリングレポート」、公認会計士・監査審査会

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