事後検証可能性の高い「優良な電子帳簿」は、帳簿制度全体の中でどのように位置づけられ、差別化が図られていくのかについて解説します。

【帳簿の差別化】

前回、電子帳簿は「優良な電子帳簿」と「最低限の要件を満たす電子帳簿」の2種類の保存制度で構成されるとご説明しました。

このうち、事後検証可能性の高い「優良な電子帳簿」については、簡便に電子で帳簿を保存できる「最低限の要件を満たす電子帳簿」と差別化が図られることになると考えられます。

1. 制度的差別としてのインセンティブ措置

インセンティブ措置として過少申告加算税の5%軽減措置を設けて、政策的に「優良な電子帳簿」に誘導しています。適用要件については後述します。

2. 税務調査における認識

事後検証可能性の高い、優良な電子帳簿に基づき帳簿を備え付けて記帳し保存していることから、経理誤りを是正しやすい環境を自ら整えていると言えます。

そのため、税務調査においても税務コンプライアンスが高い事業者と認識されることが予想されます。

3. 融資等の際には財務諸表の信頼性を得やすい

融資等の際には金融機関等に対しても信頼性の高い帳簿を備え付けて事業を行っていることをアピールしやすくなります。経理処理の透明性が図られます。

4. 社会的信用にも影響

「優良な電子帳簿」で経営を行っている事業者として、取引先等を含めて社会的信用にも影響する可能性があります。

【優良な電子帳簿への適用要請】

以上のように、帳簿の差別化が図られると考えられることから、今後顧問先企業においても社会的信用度を高めるため、「優良な電子帳簿」が適用できるようにして欲しいという依頼が増えてくると予想できます。

また、顧問先企業の取引先や関連会社等から要請があることも考えられます。

【事前周知の必要性】

顧問先企業にも事前に説明しておかなければ、調査が入って修正申告のしょうようを受けた場合に、なぜ過少申告加算税の軽減措置を適用しておかなかったのかと問われ、トラブルになる可能性があるかもしれません。

保存要件に従った帳簿の備付け保存を行うにはどのようにすればよいか、顧問先企業の意向も聞きながら、必要に応じて検討しておく必要があります。

その対応によっては、会計事務所も差別化されていく可能性があるでしょう。

【電子帳簿保存制度の今後の方向性】

1. これまでの電子で作成された帳簿データの扱い

従来電子で保存できる帳簿は、訂正履歴機能等を備えた事後検証可能性の高い帳簿だけが事前承認を受けた上で電子帳簿として認められていました。一方、電子帳簿の保存要件を満たしていない帳簿データは、いわゆる「電子的に作成された紙の帳簿」として保存しているといった実態がありました。

多くの帳簿はこの「電子的に作成された紙の帳簿」を紙に印刷し、「紙帳簿」として保存しています。この他、会計ソフトを使わず紙で作成された紙帳簿が依然として存在するといった状況です。

2. 電子帳簿の裾野拡大と他の帳簿からの誘導

モニターと説明書の備付け等だけで簡便に電子で帳簿を保存できる「最低限の要件を満たす電子帳簿」で帳簿の電子化、ペーパーレス化を図り、まずは電子帳簿の裾野の拡大を図ることとしています。

さらにインセンティブを与えることにより優良な電子帳簿に誘導し、信頼性の高い電子帳簿を普及させることを目指しています。

3. 「電子的に作成された紙の帳簿」から「最低限の要件を満たす電子帳簿」への誘導

「電子的に作成された紙の帳簿」の多くは「最低限の要件を満たす電子帳簿」に誘導することが可能と考えられ、従来のように帳簿データを印刷し、「紙帳簿」として保存する必要がなくなります。

4. 「紙帳簿」から「最低限の要件を満たす電子帳簿」への誘導

手書き等により作成している「紙帳簿」も、安価で使い勝手の良いクラウド会計ソフトを活用すれば、紙帳簿の保存が不要となりペーパーレス化が図られることとなります。

5. 「優良な電子帳簿」の一般化

これまで紙で保存することが一般的であった帳簿について、全体的に電子帳簿保存制度に取り込むことにより、ペーパーレス化・記帳水準の向上に資することで、適正申告の確保や税務行政の効率化を図ることとしています。

将来的には、更なる措置も早急に検討し結論を得ることで、信頼性の高い優良な電子帳簿の普及を促進し一般化していく、といった考え方で今回の電子帳簿等保存制度は仕組まれています。

出典:納税環境整備に関する専門家会合(R3.615)財務省作成資料を基に作成

【まとめ】

電子帳簿が2本立てになり、帳簿の差別化が図られることで、より優良な電子帳簿の利用が進むことも考えられます。

しかしながら、適用を受けるための保存対象帳簿やトレーサビリティの確保など、利用のためのハードルが高い部分が未だあるかと思います。

まずは、どのような内容の制度なのかを確認し、必要に応じて顧問先にも情報提供しておいた方がよいでしょう。


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