仕入税額控除のためには適格請求書等の保存が必須ですが、今回は、帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められるケースを検討します。

「インボイス」がなくても仕入税額控除はできる?

適格請求書等保存方式の下では、帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件とされます(新消法30⑦)。

ただし、国税庁公表の「インボイス制度に関するQ&A」(以下「Q&A」)問82では、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、次の9つの取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるとしています(新消令49①、新消規15の4)。 

1.適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(いわゆる「公共交通機関特例」と呼ばれる。)

2.適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(1に該当するものを除きます。) 

3.古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入 

4.質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の取得 

5.宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入 

6.適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入 

7.適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等 

8.適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。) 

9.従業員等に支給する通常必要と認従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)

以下では、1.公共交通機関特例(7.を含む)及び3.古物営業を営む者の場合に絞って内容を見ていきます。

公共交通機関特例について

ここでいう公共交通機関特例の対象は、(1)船舶による旅客の輸送、(2)バスによる旅客の運送、及び(3)鉄道・軌道による旅客の輸送とされています(Q&A問33)。

したがって、航空機による旅客の輸送はこの特例の対象にはなりません。

ところで、現在では、公共交通機関の自動券売機でも容易に領収書(適格簡易請求書に該当すると思われる。)が取得できるため、この特例は奇異な気もしますが、一昔前は、公共交通機関の切符そのものが領収書代わり、という時期があったので、その名残と思われます。

また、一般に、旅客運賃は金額的に僅少かつ量も多いため、処理の簡便さも考慮されたかもしれません。

ただし、規定にあるように、3万円以上の公共交通機関を利用した場合には、その利用に係る適格請求書の保存が仕入税額控除の要件となります。

ここでの金額基準の考え方は、1回あたりの支払額となりますので、Q&A問34では、東京‐新大阪間の新幹線の大人運賃が 13,000 円であり、4人分の運送役務の提供を行う場合には、4人分の 52,000 円で判定するという例示が示されています。

なお、特急料金、急行料金及び寝台料金は、旅客の運送に直接的に附帯する対価として、この特例の対象となる旅客運賃にも含まれますが、入場料金や手回品料金[1]は含まれません(Q&A問35)。

他方、公共交通機関特例の金額基準と平仄を併せ、3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等(上記7)については、売主である事業者は適格請求書等の交付が免除されるとともに、買主である事業者は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

ここでいう購入等には、コインロッカーやコインランドリー等によるサービス、金融機関のATMによる手数料を対価とする入出金サービスや振込サービスのように機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結するものが該当することとなります。

課税当局は、ここでいう、「機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結する」という点を重視していると思われます。

したがって、例えば、小売店内に設置されたセルフレジを通じた販売のように、(1)機械装置により単に精算が行われているだけのもの、(2)コインパーキングや自動券売機のように代金の受領と券類の発行はその機械装置で行われるものの資産の譲渡等は別途行われるようなもの、及び(3)ネットバンキングのように機械装置で資産の譲渡等が行われないものは、自動販売機や自動サービス機による商品自動販売機や自動サービス機による商品の販売等に含まれないとしています(Q&A38)。


[1] 小型犬・猫・鳩又はこれらに類する小動物の入った容器を手回品という。

古物商の古物の買取り等について

古物営業法上の許可を受けて古物営業を営む古物商が、適格請求書発行事業者以外の者から同法に規定する古物(古物商が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限ります。)を買い受けた場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(新消法30⑦、新消令49①一ハ(1))。

この最も典型的なケースが中古車販売業(古物商に相当)であり、事業者及び消費者の双方から中古車の仕入れを行う可能性があることから、適格請求書等がなくても、一定の事項を記載した帳簿を保存することで仕入税額控除をすることができる途が開かれています。

なお、当然ですが、相手方が適格請求書発行事業者である場合は、適格請求書の交付を受け、それを保存する必要があります。 

そうすると、中古車販売業者は、消費者から仕入れた中古車については帳簿のみの保存、事業者から仕入れた中古車は適格請求書等及び帳簿の保存と、事務管理がやや複雑になるという難点がありますが、制度上はやむを得ないと思われます。

EUにおいては、「マージン・スキーム」[2]という仕組みが導入されており、いわゆる粗利部分についてのみ顧客に付加価値税を請求するので、事業者及び消費者の双方からの仕入れについて区別なく処理することができるようになっているようです。

ところで、Q&A問84は、古物商が適格請求書発行事業者以外の者から古物を買い取る場合のほか、適格請求書発行事業者以外の者から仕入れを行う次の場合も同様に、仕入税額控除のために保存が必要な請求書等の交付を受けることが困難な場合として、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるとしています(新消令49①一ハ(2)~(4))。 

1.質屋営業法に規定する質屋営業を営む質屋が、適格請求書発行事業者以外の者から質物(質屋が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限ります。)を取得する場合

括弧書きは、いわゆる質流れ品を指すと思われますが、この場合の債務者は、適格請求書発行事業者の登録をしていないと想定されますので、そのような場合でも帳簿の記載のみで仕入税額控除ができるという取扱いとなります。

2.宅地建物取引業法に規定する宅地建物取引業者が、適格請求書発行事業者以外の者から同法に規定する建物(宅地建物取引業者が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限ります。)を購入する場合

これは、不動産の販売業者が、消費者から購入した中古建物をリフォームして販売するような場合が想定されます。

当然消費者からは適格請求書を入手できないので、帳簿の記載だけで仕入税額控除ができることとされています。

3.再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から資源の有効な利用の促進に関する法律に規定する再生資源及び再生部品を購入する事業を営む事業者が、適格請求書発行事業者以外の者から再生資源及び再生部品(購入する事業者が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限ります。)を購入する場合

再生資源や再生部品についても、事業者以外の者からの仕入れが想定されますので、上記同様、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

なお、上記1.ないし3.は、いずれも仕入れたものをそのまま、あるいは多少の付加価値を付けて(上記2.のケース)販売するという取引(いずれも棚卸資産に該当するという限定を付している)を想定しており、事業者が自ら使用する資産の購入では認められないことになります[3]


[2] 旅行代理業等の比較的小規模事業において適用され、顧客が役務を享受する取引について、事業者の付加価値税の課税標準を、顧客から受取る税抜課税価格と税抜課税仕入れの差額とする方法をいう(VAT指令308)。

[3] 熊王征秀/渡辺章『逐条放談・消費税のインボイスQ&A』(2022年・中央経済社)236頁は、「熊王 :この取扱いは、手数料商売が前提になっていると思うんです。マージンについてだけ課税するという趣旨なので、事業用の建物を買うときはマージンが関係ありません。したがって、インボイスがない限りは控除を認めないということなのだと思います。」と述べている。


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