8月、巷を騒然とさせた「副業300万円」問題。「主たる所得以外の所得年収が300万円以下なら雑所得」と、国税庁が所得税の基本通達改正案を発表したのがきっかけでした。先日、集まったパブコメを考慮し、改正案が大幅修正されたようです。どのように変わったのでしょうか。
▶「副業」の記事をお探しの方はこちらも
副業300万円以下はすべて雑所得?通達改正案のメリット・デメリット
20万円以下は申告不要?住民税で会社にバレる?副業の確定申告Q&A
「副業300万円」改正案に7000通の意見殺到
2022年8月1日から31日の間、国税庁は所得税法基本通達の改正案に関する意見を公募しました。
改正案の内容は、「年収300万円以下の副業は原則として雑所得とする」というものです。
裁判所の判決や国税不服審判所の裁決で基本的な考え方が示されてきたものの、明確な線引きは明示されていませんでした。
それだけに、巷は騒然となりました。
【参考】副業300万円以下はすべて雑所得?通達改正案のメリット・デメリット
この改正案に対し、7000通もの意見が寄せられました。
こういう意見の他、次のような声も寄せられました。
【参考】「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について(国税庁)
「帳簿があっても『年収300万円以下ならすべて雑所得』なんてひどい」という意見を重んじたのでしょう。
改正案は左のように修正されました。
【引用元】所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について(国税庁)を加工して作成
所得税法基本通達改正案の修正のポイント
修正案で確認したいポイントは次の4つです。
1.「社会通念上事業と称するに至る程度」は変わらず
事業所得は、稼ぎの元となる業務が事業的規模であることが必要です。
事業的規模は、次の要素から全体を見て判断します。
社会通念上の「事業」とは
- 営利性、有償性があるか
- 自己の危険と計算で営んでいるか(企画遂行性)
- 継続・反復して営んでいるか
- 取引に費やした精神的・肉体的労力の程度がどれくらいか
- 人的・物的設備があるか
- 取引の目的
- 職歴・社会的地位・生活状況
「どんな活動が事業に当たるか」の考え方そのものは、修正後も変わりません。
2.「主たる所得」が消えた
「その所得がその者の主たる所得でなく」の文言がありましたが、修正後は削除されました。
「いくつかの業務を同時並行で営んでいるケースもあるため、主たる所得の判断が難しいことから外されたのではないか」と筆者は推察しています。
3.「収入金額が300万円を超えない」が消えた
当初の改正案では一律「副業の年間収入が300万円以下なら雑所得」でした。
修正後、収入金額についての言葉が消えました。
ただ、完全に「300万円」が消えたわけではありません。
後述する帳簿保存に絡む部分は金額基準が残っています。
【引用元】雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説(国税庁)を一部加工して作成
4.「帳簿書類の保存」がついた
修正前は「主たる所得でない所得の年収が300万円以下なら原則として雑所得」でした。
しかし修正後、「主たる所得」の文言が外れ、代わりに「帳簿書類の保存」が加わりました。
【引用元】雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説(国税庁)を一部加工して作成
「帳簿保存がなければ雑所得」を言い換えると「帳簿保存があれば事業所得」です。
ただし、年収が300万円を超えるケースになると「帳簿保存がない=雑所得」とは限りません。
事業実態があると判断されれば事業所得になります。
まとめ「帳簿保存があれば基本的に事業所得と判断」
修正後の通達での事業所得・雑所得の考え方を図にすると、次のようになります。
【引用元】パブリックコメントからの変更点(国税庁)を加工して作成
修正前は「帳簿の有無に関係なく副業の年収300万円以下ならすべて雑所得」でした。
しかし、修正後「副業」「年収300万円」が外れました。
結果「一つひとつの実態を見て事業所得か雑所得か」を判断することになりました。
そして、事業所得のわかりやすい判定基準として「帳簿保存」が示されたのです。
一言で表すと「帳簿さえあれば基本的に事業所得」となります。