内部統制評価は、策定した計画に基づき年間を通じて手続きが実施されます。その評価の過程は適切に「記録」「保管」されなければなりません。特にJSOX導入プロジェクトに初めて従事する担当者は「何を記録すればよいのか」「どの程度の粒度で記載すればよいのか」という判断に迷われることが多いと思います。
今回は内部統制基準において「記録」「保管」がどのように記載されているかを確認します。

内部統制評価の全体の流れ

内部統制評価の過程は、すべて適切に「記録」「保管」されなければなりません。

ここで、内部統制評価の全体の流れを再確認したいと思います。

1. 内部統制評価の全体の流れ

JSOX(内部統制報告制度)において、経営者は、有効な内部統制の整備及び運用の責任があり、財務報告に係る内部統制を評価することが求められます。

内部統制の評価に当たっては、連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制の評価を行い、その結果を踏まえて、業務プロセスに組み込まれ一体となって遂行される内部統制(「業務プロセスに係る内部統制」という。)の評価が実施されます。

2. 全社的な内部統制の評価

第一に経営者は、全社的な内部統制の整備及び運用状況、並びに、その状況が業務プロセスに係る内部統制に及ぼす影響の程度を評価します。

その際、経営者は、組織の内外で発生するリスク等を十分に評価するとともに、財務報告全体に重要な影響を及ぼす事項を十分に検討しなければなりません。

例えば、全社的な会計方針及び財務方針、組織の構築及び運用等に関する経営判断、経営レベルにおける意思決定のプロセス等がこれに該当します。 

3. 業務プロセスに係る内部統制の評価

続いて経営者は、全社的な内部統制の評価結果を踏まえ、評価対象となる内部統制の範囲内にある業務プロセスを分析した上で、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点を選定し、当該統制上の要点について内部統制の基本的要素が機能しているかを評価します。

4. 内部統制の有効性の判断

経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価を行った結果、統制上の要点等に係る不備が財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合、当該内部統制に開示すべき重要な不備があると判断しなければなりません。

5. 内部統制の開示すべき重要な不備の是正

経営者による評価の過程で発見された財務報告に係る内部統制の不備(開示すべき重要な不備を含む。)は、適時に認識し、適切に対応される必要があります。

ここで重要なのは、開示すべき重要な不備が発見された場合であっても、それが報告書における評価時点である「期末日」までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効であると認めることができる点です。

なお、期末日後に実施した是正措置については、報告書に付記事項として記載できます。 

6. 評価範囲の制約

経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性を評価するに当たって、やむを得ない事情によって、内部統制の一部について十分な評価手続を実施できない場合があります。

例えば、下期に他企業の買収し、当該企業に係る内部統制の有効性について十分な評価手続を実施できなかったような場合等が該当します。

その場合には、当該事実が財務報告に及ぼす影響を十分に把握した上で、評価手続を実施できなかった範囲を除外して財務報告に係る内部統制の有効性を評価することができます。

内部統制の記録

経営者は、上述の一連の手続きについて、財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果、発見した不備及びその是正措置に関して、記録し保存する必要があります。

内部統制基準においては、「記録の形式、方法等については、一律に規定されるものではなく、企業の作成・使用している記録等を適宜、利用し、必要に応じそれに補足を行っていくことで足りる」と記載されており、各社の状況に応じて柔軟に調整することを前提に、以下のような項目を記載することが例示されています。

  1. 財務報告に係る内部統制の整備及び運用の方針及び手続
  2. 全社的な内部統制の評価にあたって、経営者が採用する評価項目ごとの整備及び運用の状況
  3. 重要な勘定科目や開示項目に関連する業務プロセスの概要(各業務プロセスにおけるシステムに関する流れやITに関する業務処理統制の概要、使用されているシステムの一覧などを含む。)
  4. 各業務プロセスにおいて重要な虚偽記載が発生するリスクとそれを低減する内部統制の内容(実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性との関係を含む。また、ITを利用した内部統制の内容を含む。)
  5. 上記4に係る内部統制の整備及び運用の状況
  6. 財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果並びに発見した不備及びその是正措置
  • 評価計画に関する記録
  • 評価範囲の決定に関する記録(評価の範囲に関する決定方法及び根拠等を含む。)
  • 実施した内部統制の評価の手順及び評価結果、是正措置等に係る記録

上述の項目を参考に、各社の状況に応じて記録を行うこととなりますが、記載の詳細については担当の監査法人と相談しながら進めることが良いと思います。

記録の保存

財務報告に係る内部統制について作成した記録の保存範囲・方法・期間は、諸法令との関係を考慮して、企業において判断されます。

なお、内部統制基準においては、金融商品取引法上の、有価証券報告書及びその添付書類の縦覧期間(5年)を勘案して、それと同程度の期間、適切な範囲及び方法により保存することが記載されています。

重要な点は、記録・保存に当たっては、後日、第三者による検証が可能となるよう、評価を実施した調書だけでなく、関連する証拠書類を含めて適切に保存する必要がある点です。

調書が存在するものの、評価に使用した証拠書類の保管がない場合等、監査法人の確認を含む、事後的な第三者による確認が困難となってしまうため、関連する証拠書類を含めて整然と整理・保管することが重要となります。

まとめ

今回は内部統制評価の一連の手続きにおける「記録」と「保管」について記載しました。

関連資料の保管は、事後的な第三者による検証のために必須となります。

年間を通じた膨大な作業となりますが、適切に資料の保管がされない場合、監査法人を含む第三者へ適切な説明が困難となってしまいます。

手続きの記録不十分、資料保管の不備等を原因として、評価手続きを再度実施しなければならないような事態の発生を回避するためにも、評価手続きの経緯記録、評価に使用した証拠書類の適切な保管に十分ご留意下さい。


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