「インボイスが激変緩和」 ―― 先日、この一言と共に緩和措置が報じられ、税務業界と1000万円以下の免税事業者が騒然となりました。ここでは、その2つの緩和措置の内容とどんな影響があるのかについてお伝えします。
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2022年11月18日と20日、日本経済新聞が紙面でインボイスの2つの緩和措置を取り上げました。
現在、政府・与党が2023年度税制改正に向けて調整を進めているとのことです。
- 1万円未満の取引ならインボイス(適格請求書のこと。以下「インボイス」)なしでも仕入税額控除OKに
- 個人事業主(小規模事業主)なら納税額は「売上税額の2割」が上限
税制改正で決定すれば、いずれも2023年10月から始まるインボイス制度に織り込まれます。
それぞれの内容は次の通りです。
緩和措置1:1万円未満の取引ならインボイスなしでも仕入税額控除OKに
1つ目が「少額取引ならインボイスがなくても仕入税額控除ができるようにする」というものです。
現在、3万円未満の取引については、請求書や領収書の保管がなくても記帳だけで仕入税額控除ができます。
しかし、2023年10月以降、下記取引以外は登録番号や消費税額・税率を記載したインボイスの保管が仕入税額控除の絶対条件となります。
(3万円未満のものに限ります。)
② 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の譲渡
(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限ります。)
③ 生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の譲渡
(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります。)
④ 自動販売機・自動サービス機により行われる課税資産の譲渡等
(3万円未満のものに限ります。)
⑤ 郵便切手を対価とする郵便サービス
(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
【引用元】適格請求書等保存方式の概要-インボイス制度の理解のために-(国税庁)
上記に当てはまらなければ、110円の振込手数料でもインボイスが必要になるのです。
しかし緩和措置が導入されれば、1万円未満の購入額はインボイスがなくても仕入税額控除できます。
売手が少額取引中心の免税事業者なら、課税事業者にならなくても支障ありません。
買手も少額取引のインボイス保管を気にしなくてすみます。
なお、この措置は課税売上高が年1億円以下の事業者限定とのことです。
緩和措置2:個人事業主(小規模事業主)なら納税額は「売上税額の2割」が上限
2つ目は、現在免税である課税売上高1000万円以下の事業者に対するものです。
「免税事業者→課税事業者」となる事業者に対しては、納税額の上限は「売上税額×20%」でよいとする内容が検討されています。
ただし、2023年10月からの3年間のみの経過措置です。
インボイス制度の開始にあたり、免税事業者は今「課税を選ぶか免税のままか」の選択に迫られています。
特に重いのが納税負担です。
1000万円以下の免税事業者がインボイスに登録する
そして消費税は、判断と計算が複雑です。
一つひとつの取引の「課税・不課税・非課税・輸出免税」を確認した上で計算します。
インボイスが始まれば多少は軽減されるのかもしれませんが、それでも煩雑です。
【引用元】税大講本 消費税法(令和4年度)
しかし、簡易課税なら、計算がラクです。
簡易課税なら基本、次の式でサクッと算出できます。
計算は楽になっても納税負担の重さは変わりません。
特に重税感があるのはライターやプログラマー、クリエイターなどです。
彼らには仕入がありません。みなし仕入れ率では第5種の50%となります。
つまり、330万円の税込売上があるなら、売上税額30万円の半分の15万円を納めないといけないのです。
【引用元】No.6509 簡易課税制度の事業区分(国税庁)を加工して作成
このため、各業界団体からインボイス反対の声が上がっていました。
「売上税額×20%」の措置は、この声を和らげるためのものだと見られます。