固定費=できるだけ引き下げるべきものというイメージがあります。しかし、近年新しいビジネス手法の登場によって、その位置づけが変わろうとしています。

固定費の多くは、企業の外部に支払うものが中心です。

しかし、コロナ禍を経てその流れに変化が現れつつあります。

ビジネスから見た会計、会計から見たビジネス第1回は「固定費」です。

固定費が持つ役割

固定費とは何か。

会計側から見た固定費は、売上の増減にかかわらず発生する一定額の費用のことです。人件費、地代家賃、水道光熱費、接待交際費、リース料、広告宣伝費、減価償却費などがメジャーな勘定科目です。

その増減は、事業上最も重要な営業利益を左右します。

税務上の対策という特殊な観点を除けば、会計においてもビジネスにおいてもできるだけ引き下げておきたいというネガティブなイメージも持っています。

ただ、固定費には「資産」という別の顔があり、それによって生み出されている役割が2つあります。

1つは参入障壁です。

固定費が多くかかるものは、その分だけ新規参入がしにくくなります。

(継続的な事業運営のリスクでもあります)

例えば、病院。医師免許などの国家資格を有する人材(人件費)のほか、検査や治療に必要な高額な設備(リース料、減価償却費)が欠かせません。

もう1つがブランド形成です。

ブランドを形成するものには、ロゴ、ネーミング、店舗、キャラクター、WEBサイトなどがありますが、これらには少なからず固定費が関わってきます。

例えば、ホテル。ホテルには、シティ、ビジネス、リゾート、複合型、そしてカプセルホテルなどのエコノミー型がありますが、これらを分類する要因の1つは大掛かりなコスト(イニシャル、ランニングともに)を必要とする設備です。

増減次第で利益に影響を及ぼすと同時に、参入障壁の構築やブランド形成に欠かせない性質を持つ。

近年、こうした企業における固定費の立ち位置が少し変わろうとしています。

例えば、広告宣伝費です。

リテールメディアという新たな潮流

広告宣伝は、外部に依頼し制作物や活動に対して固定費として費用が発生していました。

しかし、コロナ禍を経て新たな動きが登場しています。

「リテールメディア」です。

メディアといえば、新聞、テレビ、ラジオなどの4大マスメディアを筆頭に、昨年テレビ広告を出稿量で抜き去ったインターネット広告などがメジャーです。

しかし、コロナ禍という特殊な時代を経て、そのスキームに大きな変化が訪れつつあります。その1つがリテールメディアなのです。

リテールメディアとは、事業者が持つ顧客データを元に、店舗でデジタルサイネージなどを用い、より直接的な距離で顧客にPRする新しいメディアのことです。

言い換えれば小売業がその店舗という資産を広告媒体として機能させるという試みです。

旧来からあるメディアに比べ、より顧客に近い距離での訴求が可能になる強力なメリットを持っています。

例えば、世界的な小売業であるウォルマートでは、昨年新しい広告配信プラットフォーム「Walmart DSP」を立ち上げ、毎週1億5000万人を超える顧客とブランドを結び付ける役割を果たしています。

国内では、イオンがスマホアプリを起点に広告ビジネス展開するなどの動きが出始めていますが、その市場規模は22年度時点でまだ130億円ほどです。

しかし、今後さらに拡大を続け、5年以内には1000億円を超えるとの予想も出ており、一大カテゴリー化する可能性は大です。

外部に依頼せず、自社で広告コンテンツを生み出す、配信することを確立する。

こうした新たな変化によって、企業にとって単なる費用の位置付けであった広告宣伝は、売上の下地となるより原価的な役割へとその姿を変えようとしています(B/S上でも同様です。コンテンツの資産計上は、数年前から会計制度の1つの潮流として進んでいますが、さらに加速し、一般化しそうです)。