今回も、消費税法上の「対価」とインボイス制度導入の意義について考えてみたいと思います。
この記事の目次
「対価性」に係る最近の重要判例
消費税法上の「対価」とは何かを考える上で、格好の材料を提供してくれる最近の判例がありますので、以下、それを紹介します。
事案の概要
X(原告・控訴人)は、主に関西圏で利用されている交通系ICカードPiTapa(本件ICカード)を発行する事業者で、同カードの利用契約を締結した会員(本件会員)に対し、鉄道運賃及び商品代金等の決済サービスや、商品代金等の決済手段として本件ICカードを利用した場合に、利用に応じてポイント(本件ポイント)を付与するサービスを提供しておりました。
また、本件会員が、Xと提携する法人(提携法人)のポイント制度の会員でもある場合(双方会員)に、提携法人が付与するポイントと本件ポイントを交換するサービスも提供しており、双方会員がポイント交換を申請した場合には、提携法人は、Xから双方会員に交付された本件ポイントに応じた金員(本件金員)をXに支払う仕組みとされていました(ポイント交換の仕組みは、下記概要図のとおり)。
なお、ポイント交換を申請する双方会員は、ポイント交換について何らかの費用を負担することはありません。
Xは最初、本件金員を課税資産の譲渡等の対価の額に算入し消費税の確定申告をしましたが、その後、同対価には当たらないとして、更正の請求を行いました。
一方、同更正の請求に対し、所轄税務署長から、更正すべき理由がない旨の通知処分を受けたため、Xはこれを不服として提訴いたしました。
判断が真逆となった大阪地裁と大阪高裁
第一審判決
本件の第一審[1]である大阪地裁は、Xが提供した役務について、「提携ポイントを保有していた双方会員に関し、当該提携ポイント数を基に所定の割合により算出した数の本件ポイントを付与し、もって、当該数の本件ポイントにつき原告の実施する本件ポイントサービスの対象に組み込むことを内容とする役務」と定義しています。
すなわち、Xが提供する役務の受益者はあくまで双方会員であると位置付け、本件金員については、「Xによって当該債務(当該役務の提供)が行われることを条件として、Xにおいて収受されるという対応関係にある。」と判示しました。
その上で、「本件金員は、提携法人に対し、ポイント交換がされた提携ポイントを保有していた双方会員に関し、当該提携ポイント数を基に所定の割合により算出した数の本件ポイントを付与し、もって、当該数の本件ポイントにつきXの実施する本件ポイントサービスの対象に組み込むという役務の提供に対する反対給付として、『対価』に該当するものということができる。」と結論付け、Xの請求を退けたため、Xは控訴しました。
控訴審判決
ところが、控訴審[2]である大阪高裁は、対価の意義について、「消費税の性格及び課税の仕組みに鑑みると、資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供の機会に収受される経済的利益と当該資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供との間にY(国側)の主張するような条件関係が存する」として国側主張に一定の理解を示しながら、「本件金員も、本件各提携契約の当事者であるX及び提携法人は、ポイント交換で付与されるポイントの還元の原資に充当し、ポイント交換における経済的負担を精算する精算金の趣旨・目的で本件金員を授受している。Xは、本件各提携契約に基づいて手数料等の報酬を一切受領していないから、本件各提携契約に基づくXの提携法人に対する役務提供(ポイント交換に基づくポイント付与)は無償取引である。」というXの補充主張を全面的に支持しました。
その上で、「本件金員の支払は、ポイント交換に係る提携ポイントを発行した者としてその利用に係る経済的負担を負うべき立場にある提携法人が、本件ポイント還元を行うXのために、その原資を提供する行為にほかならないというべき」とし、「本件各提携契約に基づく提携法人とXとの間のポイント交換は、無償取引というべきであり、(中略)本件ポイントへの交換の意思表示をするなどした双方会員に対してXの企業ポイントプログラムの対象に組み込むことを目的として本件ポイントを付与するという役務の提供の反対給付としての性質を有するとみるのは困難というべきであるから、本件金員は消費税法2条1項8号にいう『対価』に該当せず、これを消費税の課税標準とすることはできない。」と結論付け、Xの逆転勝訴が確定いたしました[3]。
[1] 大阪地判令和元年12月13日(平成31年(行ウ)第22号)
[2] 大阪高判令和3年9月29日(令和2年(行コ)第10号)
[3] 敗訴した国側は最高裁への上告を行わず、本件は確定した。